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■「再犯6割に… 元受刑者 どう社会復帰する?」 2012/02/02 放送

 犯罪を起こし、罪を償い、そして刑務所から出所した人たちと私たちの社会がどう向き合うのかを考えます。

 社会復帰を希望するものの、仕事がないなどの理由で再犯の割合は6割に達しています。

 治安の悪化を懸念する声も高まる中、社会復帰を支援するある施設を取り上げます。




 まだ夜も明けぬ頃、その施設の扉は開きます。

 そして、中から出てきた人々が迎えにきた車に乗って、次々と仕事へと向かいます。

 彼らはみな、かつて罪を犯した人たちです。

 大阪市内にある「更生保護施設」。

 ここは、仮出所者や刑務所から出ても帰る場所のない人々の社会復帰を支援する民間の施設です。

 現在およそ90人が、仕事を探しながら自立する準備を進めています。

 
 保護観察所や本人の申し入れで入所でき、最長で半年間生活できます。

 1か月前に施設に入った60歳の山田さん(仮名)。

 中国地方出身で、30代の頃から窃盗などを繰り返すようになり、これまで何度も刑務所に服役してきました。

 出所後は頼る人もおらず、施設に身を置きながら仕事を探しています。

 <山田さん(仮名)>
 「今の僕は、働くことが第一の目標。自分の自立するお金がたまってからのスタート、本当のスタートになる、これから」

 これまで飲食業やサービス業など、職を転々としてきた山田さん。

 罪を犯した者への社会の風当たりは厳しく、仕事を失うと再び犯罪に手を染めてしまったといいます。

 <山田さん(仮名)>
 「働いていた時は、悪いことしようと考えない。働いてなくて遊んでたら必ず悪いことしてる。親、兄弟からも見放されてますから今、全く1人ですよ」

 施設の職員は毎週、こうして山田さんたちとともにハローワークに同行し、就労支援も行います。


 
 しかし実際、仕事に就いている人は3分の1にあたるおよそ30人。

 不況がさらに追い打ちをかけ、仕事を見つけるのは厳しさを増しているといいます。

 <加藤吉宏施設長>
 「20数社は面接に行ったが全てダメだった、結局、就労出来なかった、という悲惨なアンケートを残して出て行った者もいる」

 去年11月、大阪府堺市で起きた強盗殺人事件。

 逮捕された、西口宗宏容疑者(50)は、刑務所を仮出所したばかりで「無職」でした。

 法務省などによると国内で起きた犯罪件数のうち、およそ6割を再犯が占めています。

 しかも、無職の状態の人が再び犯罪を起こす割合は、仕事がある人の5倍。

 再犯を防ぐうえで、就労支援がいかに大切かが分かります。

 山田さんは生まれて初めて、履歴書を書くことにしました。

 しかし、頭を抱えたのは刑務所に服役していた期間をどう説明するかです。

 <山田さん(仮名)>
「雇ってくれたとしても、それが発覚した時が一番怖い」

 この日施設では講師を招いて、社会復帰に向けた勉強会が開かれました。

 山田さんと同じように"空白の期間"をどう説明するかは、元受刑者の共通の悩みのようです。

 <講師>
 「ブランクの説明ですね。何年か空いている時、『何してたの?』と聞かれたらどうするかの説明ですね、よく出る質問です」

 <参加者>
 「ちょっと体調崩して療養という形を取っていた、その辺うまいことお茶を濁してごまかす」
 <参加者>
 「入る前に全部、面接の時にでも『こういう形で刑務所に入っていた』と話している。あとから刑務所に入っていたとわかった時に、クビと言われた時の方がショック」

 <加藤吉宏施設長>
 「一番期待しているのは、ここの寮生であるということを承知して雇用してくれる、社会全体のこうした人たちに対する理解、受け止めが進まないといつまでも今の状態。排除されてしまう」

 そんな中、大阪の外食チェーン店が罪を犯した人々を刑務所にいる間に採用する、という全国的にも珍しい取り組みを始めました。


 刑務所を出所した人々が、再犯を繰り返さないために欠かせない「就労」、それをサポートしようという動きが出てきました。


     
 大阪のお好み焼きチェーンで、おととし12月から働く日野さん(30)。

 現在は、主任として後輩たちを育てています。

 実は日野さんは、3年前まで刑務所にいました。

 電気製品の窃盗で逮捕・起訴され、執行猶予期間中に同じ罪を繰り返してしまったのです。

 幼い頃に両親が離婚し、父親に引き取られた日野さん。

 父が9歳の時に亡くなった後、祖母に育てられました。

 その祖母も亡くなり、孤独感から次第にギャンブルに没頭。

 多額の借金を抱えるようになり、犯罪に手を染めるようになりました。

 <日野顕正さん>
 「『お金欲しさ』が一番強かった。刑期が終わっただけで、罪はずっと残っていくものなんで」


 日野さんが、お好み焼き店で働くきっかけとなったのは3年前。

 山口県の民間刑務所に服役していた頃です。

 刑務所側から要請を受けたお好み焼き店を営む中井社長が、出所者の就労支援のため採用募集に訪れたのです。

 中井社長は自ら受刑者の面接を行い、日野さんら2人を採用しました。

 <「千房」 中井政嗣社長>
 「本人が一番悪いんです。でも、社会の環境が影響している。罪を100パーセントとがめられなかった、これが正直な気持ちですね」

 採用にあたって中井社長は、日野さんの過去を包み隠さずオープンにしました。

 日野さんは、同僚に受け入れてもらえるかが心配でなりませんでしたが、周囲は温かく迎えてくれたといいます。

 <同僚>
 「正直、何ともないって言ったらウソになる。ちょっと怖いかなというのはあった。めっちゃ話かけてくれて、すぐ仲良くなりました」

 <店長>
 「お金だけじゃなくて、やりがいというか生きがいというか、自然と見つけてくれた」

 <日野顕正さん>
「僕も一歩間違えば一緒なので。たまたま恵まれてた。仕事が楽しいし、上を目指している。まわりの人間にも認めてもらいたいし」

 日野さんが働くようになって以降、このお好み焼き店では刑務所や少年院を出た、6人が採用されました。

 こうした罪を犯した人を積極的に雇い入れるいわゆる、「協力雇用主」は、大阪府内におよそ600社あります。

 しかし府内では毎年、仮出所する人は1,000人近くいて、働き口は足りていません。

 <元横浜刑務所主席矯正処遇官 浜井浩一さん>
 「再犯防止に最も必要なのは生計の手段を維持する、社会的な居場所を確保する、ということですね。雇用は、この2つを同時に満たす限られた手段。就労支援が非常に大切な要素になります」

 仮出所者らが一時期的に暮らす、大阪の更生保護施設で仕事を探している山田さん。

 ハローワークで指導を受けながら清掃関係の会社に履歴書を送り、返事を待っています。

 <山田さん(仮名)>
 「返事が来てくれればいいけど、なかなか・・ 自分が思っているようには行かない。僕で出来る仕事があればなんでもやりたい。悪いことばかりしてきた僕でも、死ぬ時は社会で死にたい」

 罪を犯した人たちの「再出発」は、決して容易ではありません。

 しかし多くの支えを受けながら、彼らは一歩ずつ前へと進んでいます。




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