ボクシング界の茶番劇から見えてきたモノとは。

  • 2011/07/03(日) 15:46:07

 日本ボクシングコミッション(JBC)は、安河内氏を事務局長から平の職員に降格したことで、今回の混乱を収拾しようとしている。そして、日本プロボクシング協会(JPBA)も、それを追認したことについて、筆者は茶番劇だと前回のブログで書いた。

 なぜ、そう考えるのか、いくつかの根拠を挙げてみる。

 まず、この文章を見て欲しい。





 これは、6月28日にJBCが関係各位に流した「ご報告」の一部である。

 今回、安河内氏について指摘されていた様々な問題点について、調査委員会がまとめた調査結果の概要だというのだが、これほど納得しがたい報告もないだろう。

 これによれば、安河内氏は、不正な経理処理をした事実はなく、愛人を情実で雇用した事実もなく、東京の事務局の特定の女性職員と過度に親密に対応していた事実もなく、震災後に職場を放棄したこともなかったという・・・。

 東京ドームと関係の深い弁護士らが行った調査とは、いったいどういう調査だったのか。

 いや、百歩譲って厳正の調査が行われたとしても、ここには、ナゼそうした結論に至ったのか、その説明がまったくない。


 それでは、週刊新潮に掲載されたキス写真はいったいなんだったのか。

 キス写真だけなく、多くの関係者が見ている、その前後の写真も含めて、なぜ、あそこまでの“証拠”があるのに、調査委員会は、それでも情実の雇用ではないと否定したのか、その根拠がまったく明らかにされていない。


 さらにいえば、安河内氏が、大阪に問題の女性を雇用してから、なぜか頻繁に大阪出張を繰り返していたのはなぜだったのか。

 その際、プロモーターの招待で大阪入りしたことがあったが、ホテルの部屋の追加料金をJBCに請求したのは、どういう理由だったのか。


 そもそも、問題の発覚後、渦中の女性を事情聴取したのは、今回、安河内氏と同様に処分された斎藤慎一専務理事だが、斎藤氏が、問題の二人は「男女の仲ではなかった」と報告し、安河内氏本人が同様な証言をしたとしても、調査委員会は、それを鵜呑みにせず、自ら渦中の女性に話を聞くなどしたのか。

 というか、そもそも、どんな形で調査をしたのかさえ、まったく明らかにせず、それで結論だけを出し、納得しろといわれても、それは無理な話だろう。


 そのほかにも謎は多い。

 安河内氏は地震直後、経理担当の女性職員と姿を消してしまったわけはなんだったのか。

 海外出張時に、なぜか、この経理担当の女性を同伴し、別々のホテルに泊まるはずが、なぜか早朝などに同じホテルで頻繁に、二人が目撃されていたのは、どうしてなのか。

 誤解がないように言うが、筆者は別に、それを筆者に説明しろと言っているわけではない。

 ただ、今回の混乱は、最初こそ差出人不明の“怪文書”と、それに添えられた数枚の写真を発端として起こったが、その後、様々な問題について、JBCの東京試合役員会やJBCの職員が合同で行った調査に基づく報告書が、調査委員会に提出されている。

 つまり、発端は“謎の告発”であっても、その後、公益通報なども含めて、関係者が正式に“告発”しているのだから、百歩譲って対外的には、詳細な説明をしないとしても、少なくとも問題を提起した当事者に対しては、どうして、そのような結論に至ったのかを説明する義務があると考えることは、おかしなことなのだろうか。

 結局、JBC、いやそのトップに立つ林有厚コミッショナーは、その”身内”にさえも、責任者としての説明責任をまったく果たしていないのだ。

 だから、反安河内派のメンバーが、「これで納得などできるわけがなく、問題が解決したわけではないですよ」と話しているのだ。


 もう一つ、一連のドタバタ劇の処理について、筆者もそうだが、実は、多くの業界関係者が、同様な感想を持っている。

 ある中堅ジムの会長が、こう語る。

 「今回も、JPBAや東日本ボクシング協会は、臨時総会を開いたり、プロモーター会議を招集したりせず、私たち会員の意見をまったく聞こうとはしなかった。確かに臨時の理事会は開かれたけど、その参加者は限られいる。さらに、その理事会で新しいJBCを作るという話をまとめながら、結局、ほんの一握りの幹部だけで、その話も止めることにしてしまい、それについての説明もまったくなかった。
 ここ数年、亀田を巡って様々な問題が起こり、協会は、それに対して様々な処分や対応を決めてきたけれど、その際も、私たち末端の意見などまったく聞こうとしなかった。
 それで、協会は結論だけを発表して、なぜそうしたのか、仲間であるはずの私たちにも、ほとんど説明してくれない。
 結局、今のボクシング業界は、ほんの一握りの上層部が、表に見えない裏側ですべてを決めていて、今回の対応も、それとまったく同じだった。
 最近、知り合いの業界関係者らと話をすると、いつも、そういう話になる。結局、今の業界は、特定の人間だけが大きな利権を持っていて、それを守るためには何でもするということなのだと思ってしまいますよ」

 筆者は、これまでのブログで、業界の最終決定を、誰が、どこで、どのように決めているのか、まったく見えないと書いてきたが、やはり、そう思っているのは、筆者だけないのだ。

 今回の争いの当事者である役員会やJBC職員、そして協会会員の多くも、業界の意志決定システムが不透明で、様々な決定についての説明がないことに、強い不満を持っているのは間違いないのだ。


 実際、ある業界関係者は、こう話している。

 「今回、安河内氏らの処分を決めたJBCの理事会に出席した某氏は、業界内に流れていた情報や週刊新潮の記事などを見て、最初は、安河内がしたことはとんでもない、彼は首にすべきだなどと、かなり怒っていた。ところが、理事会が近づくにつれて、なんか急に、怒りのトーンが落ちてきて、あまり話をしようともしなくなった。あれは確実に舞台裏で、誰かが彼を説得したり、場合によっては、なんらかの圧力をかけたんだと、私は思いましたよ」


 今回の混乱を処理するに当たって、協会の幹部は、なぜか情報漏れを極端に恐れ、関係者に対して徹底的なかん口令を布いただけではなく、実は、どこから情報が漏れているのか確かめるため、ニセの情報をリークした形跡まである。

 いったい、彼らは、何をそんなに過敏になっているのだろうか。


 別の業界関係者は、「あまりに強いかん口令を布いたりすると、外からは、何か漏れてはまずい話があるのだろうと、と見られてしまう。というか、業界の内部にいても、何かよほど隠したいことがあるのではないか思ってしまうところがある」と話している。

 結局、今回の処分や対応について、その真相を知っているのは、おそらく本田会長と大橋会長、そして林有厚コミッショナーら、ほんのわずかな人間だけとみられるのだが、彼らは、我々のような外部の人間だけなく、身内にさえも、自由な意見の表明など認めていないようにもみえる。


 協会員の意見を聞き、自由にモノを言わせると、何か問題があるのだろうか・・・。


 つまり、一連の騒動で、筆者が改めて確認できたのは、ボクシング業界が、相変わらず、ごく一部の幹部だけで物事を決めてしまう非常に閉鎖的で、非民主的な業界だということだ。


 前出のジム会長は、こうも話している。


 「私は新しいJBCを作るという話を聞いたとき、実は、それはいいなと思っていました。そうなれば、選手のライセンス認定料などを、もっと安くして欲しいとか、そうした話もしやすくなると思いましたからね。別の言い方をすると、本田会長が、その強権を発動すれば、これまでJBCにお金を収めていた協会員も、おそらく、素直に費用を新しいJBCに収めるだろうし、協会にも、多少のお金はあるのだから、今のJBCを離れる職員を受け入れることなども、簡単にできると思っていた。ところが、理事会で、すぐにでも新しい組織を作ると決めた直後から、なぜかJBC職員の生活もあるから設立は急がないといった話が表に出てきはじめ、いつの間にか、大橋会長が、その案を撤回してしまった・・・。
 結局、私たちの意見は何も聞かず、自分たちが決めた結論までひっくりかえしても、何の説明もない。これじゃ、本当にたまらないですよ」

 また、筆者はこれまで、ボクシングに対して金銭的なメリットが一番ではなく、愛情を原点として、最も熱心に尽力してきたレフェリーらが問題を提起したことの意味を、良く考えるべきだと書いてきた。

 今回の結果は、そうした役員を失望させ、納得させていないだけなく、ボクシングに対して、最も熱い視線を送っているコアなファンまでも、かなり失望させたことを、業界の幹部は、どう考えているのだろうか。

 ある熱心なボクシングファンは、「もうチケットを買って試合を見に行くのは止めようかと思いますよ」と話していたが、反対にファンの意見をもっとJBCや業界に伝えるには、どうしたらいいのかと、ファンを取りまとめて組織化しようという動きも始まっていることを、業界幹部の方々は、いったい、どのように見ているのだろうか。

 いずれにせよ、今回のJBCとJPBAの対応には、関係者の多くが納得していないのは間違いなく、業界関係者やファンも含めて、深い失望を与え、ボクシングの信頼を損なったのは間違いないのではないのか。

 長期的みて、それがどういう結果を招くのか、業界幹部の方々には、秘密の漏洩に気を使うより先に、それこそまじめに考えて欲しい。

 そして、そうした不満を解消するには、誠実に関係者の話を聞いて、事情を説明するしかないないことを、是非とも認識していただきたいのだが・・・。

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