作物は安全なのに……か、それとも安全など信じられないか 2つの異なる視点
○ デマではなくデータを
2人の視点の違いは要するに、私が日頃から主にインターネットで目にしている冷静な議論の対立項を集約したものでもあります。その根幹にある違いは、客観的データに対する姿勢のような気がします。データで立証されていないことにどう反応するか。リスクを大きめに想定して最大限に安全策を講じるのか、それとも必要十分な安全策を模索するのか。
どちらかが単純に正しくどちらかが単純に間違っているなら、ある意味で楽です。「それは絶対的に間違っている」と客観的に判断できるデータが提示されれば、そこで議論終了です。そういうデータが得られない以上、どちらもある意味で正しいからこそ、判断は難しく厳しいのだと思います。放射能に限らず、リスク対策についての議論は得てしてそうです。データ不足の状態で自分たちの生死に関わる判断をしなくてはならないのですから、それだけにデータ以前の世界観の対立になったり、感情のぶつかり合いになりがちです。あるいは「データ」のふりをしたデマやドグマや詐欺商法に振り回されたり……。
地球温暖化についても同じような議論が交わされてきました。あるいはイスラム過激派からアメリカを守るためには、国内のイスラム教徒をどこまで危険視すべきなのか、令状なし盗聴や逮捕は許されるのかという、アメリカ国内の安全保障議論にも似ています。あり得るかもしれない危険に対して、私たちは最大限の防御をすべきなのか。それによって他の色々なものが(経済とか生活とか人権とかが)損なわれるかもしれないけれど。それとも、データをもとに必要十分な防御のラインはどこなのかを一生懸命探すべきなのか。もしかしたら得られているデータでは不十分なのかもしれないけれど。なぜもっとしっかり防御しなかったと、後から後悔する羽目になるのかもしれないけれど。
ブッシュ=チェイニー政権のテロ対策、それに対する賛否両論を私は思い出します。どうやったら自分たちや子供たちの命が守れるのか。そのためにこの国の何を、どこまで損ねていいのか。どういう対策なら十分なのか。どこからがやりすぎなのか。オバマ政権1期目が終わろうというのにグアンタナモ収容所がまだ閉鎖されていない現実からしても、答えはまだ出ていないのです。答えなど出ないのだと思います。
けれども私たちは選択しなくてはならない。どこの農作物を食べるのか。どこで生活するのか。どのように生活の糧を得るのか。それに必要なのはやはり、あくまでも、客観的なデータと、客観的データを求め続ける姿勢、そしてそれを冷静に解釈する知見ではないでしょうか。
自分が当たり前すぎることを書いているのは百も承知です。けれどもこの当たり前を守ることがいかに難しいか。デマやドグマに流れることがいかにたやすいか。9/11後のアメリカが苦闘し続けるこの困難を、3/11後の日本も抱えてしまった。この困難とは要するに「何が本当かわからないのだ」という不安を常態として受け入れられるかという、そういう重荷でもあります。根本的な不安は決して解消されない。それを受け入れなくてはならない。それが震災と原発事故から10カ月たった、今の日本の状況です。
◇本日の言葉
・laughable=ばかばかしい
・count the cost = 費用・代償を数える
・disaster = 大災害、惨事
・catastrophic = 壊滅的な、悲惨な
◇筆者について…
加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊や爆笑問題と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼でイギリス英語も体得。オックスフォード大学修士課程(国際関係論)修了。全国紙記者、国際機関本部勤務を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。フィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。訳書に「策謀家チェイニー 副大統領が創った『ブッシュのアメリカ』」(朝日新聞出版)など。
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