Inside by 橋長初代
大阪「ルクア」人気の秘密〜リピーター増やす "ルクア流" 運営モデルとは〜
2012年02月05日 22:00 JSTJR大阪駅の複合商業施設「ルクア」の業績が依然好調だ。2011年5月の開業以来、予想を大幅に上回るペースで推移。当初の計画では、初年度1900万人の来館者を想定していたが、1月末時点で累計来館者数は3400万人に達した。売上高も288億円となり、当初目標の250億円から320億円に上方修正している。20代女性からカップル客、大人の男女まで大勢の客が足を運ぶルクアの人気の秘密を探った。(文・写真 / 橋長初代)
JR西日本SC開発が運営するルクアは、西日本一の乗降客数を誇るJR大阪駅直結という絶好の立地にあり、地下鉄御堂筋線、阪急、阪神といった主要鉄道路線からのアクセスの良さが、圧倒的な集客力につながっている。さらに、全テナントの約6割を占める店舗が関西初や梅田初という話題性も、集客効果を高めた。
ただ、開業後9カ月経過した現在も勢いが衰えないのには、顧客の心をつかみ、飽きさせない理由がある。
適時に適品を投入する独自の仕組みが売上げをつくる
「梅田地区で一番に選んでもらえるファッションビルをつくりたい」
開業前にこう語っていたJR西日本SC開発の中山健俊社長は、今も館内の巡回を怠らない。開店準備担当の日は、10時にドアを開け、顧客を出迎える。現場主義を貫くことで、顧客動向を把握し、テナントとのコミュニケーションを強めている。
現場志向は中山社長だけではない。ルクアでは、各フロアに専任担当者を配置。現在総勢11名のフロアマネージャーが毎日、担当フロアを巡回し、テナント情報や顧客の要望、不満を吸い上げる体制を敷いている。
「生活雑貨フロアの担当者は商品自体にも興味を持ってくれていて相談しやすい」(ラ ブッシュリー ドゥ スワティー)、「他の商業施設と違って毎日店舗に来てくれるので、距離が近く感じられる」(ビームス)。フロア担当体制に対するテナントの評判も上々だ。
フロアマネージャーは、シーズン毎の営業計画を実践し、テナントの予算達成を積極的にサポートする役割も担う。
ルクアでは、年2回シーズン毎に、販売方針や取り組み方針、シーズンテーマ、営業計画などをまとめた「シーズン大綱」を作成。全館共通テーマを軸に、顧客への訴求を強化することで、売上につながる仕組みを構築してきた。シーズンがスタートする5カ月前に、テナントの店長と本部営業担当を対象とした「テナント説明会」でシーズン大綱を発表。それに基づいて、各店が営業計画書を作成し、窓口のフロアマネージャーを通じて月別のこまかな売場展開に落とし込んでいく。
例えば、1月25日から始まった梅春物ファッションの売出し計画では、期間テーマを"ローズパーティ"に設定。「エレガントなノスタルジックでフェミニンなタウンスタイルと、カジュアルな可愛らしく軽快なスイートスタイルを用意してほしい」など、ディベロッパー側から具体的な要望を出している。同時に、会員向け情報誌やホームページを使った告知、ビジュアルプレゼンテーションなど販促も徹底するといった具合だ。
シーズン大綱作成チームのメンバー、営業部サブリーダーの住野奈々恵さんはこう話す。
「シーズン、オケージョン、イベント、ギフトの4つを的確にとらえ、テナントにはタイムリーに商品を投入してもらうことが大切。われわれは告知をきちんとする。この仕組みが軌道に乗り、顧客に行ってみたい、見てみたいと思ってもらえるようになったことが、好業績につながった。2年目は業務の精度をさらに上げていきたい」
こうした仕組みは、従来のファッションビルの運営にはない発想だ。通常、商業施設の開発は外部のコンサルタント会社などに依頼することが多い。しかし、ルクアでは市場調査から基本コンセプト設定、テナント誘致まで大部分を社員自らが手がけてきた。外部に依存しない運営姿勢が、きめこまかなテナント支援を可能にしている。
テナントの店長は販売力のある経験者揃い
ルクアで買い物をすると、ショップスタッフの接客力が一定レベル以上にあることがわかる。挨拶やニーズ確認、商品提案といった接客サービスの基本を売場で忠実に実践するスタッフが多く、丁寧で前向きな接客姿勢が顧客に好感を与えている。
「スタッフのレベルを重視しており、各ショップの店長には経験者を揃えてもらった」と住野さん。店長が交代するときも、事前の相談を義務付け、店長のキャリアや能力に注文をつける。質の高い人材を揃えることが、テナントの接客レベルの維持に欠かせないと考えるからだ。
ルクアでは現在、店舗管理者と一般スタッフだけでなく、臨時スタッフに対しても入店時研修を義務付けている。接客サービスの底上げがこれまでの課題だったが、今後はVMD教育など研修メニューを充実させ、さらなるレベルアップを図る。社員研修にも力を入れ、フロアマネージャーや接客サービス担当がテナントを指導する自前の教育体制をつくる考えだ。
手の届く高級感を楽しめるテナント群
売上げをつくる仕組み、接客レベルの高さに加え、市場調査に基づいた綿密なテナント構成も見逃せない。旗艦店やエリア初出店、新業態など話題性のある店舗を多数導入。さらに、有力セレクトショップや海外のストリート系ブランドのレディス&メンズ複合店を梅田最大規模で集積し、カップル客の集客にも成功した。本来ファッションビルが苦手とする靴、コスメ、生活雑貨については各フロアでアイテムごとに集積。比較購買しやすいグッズ売場をつくることで、買い物の楽しさを演出し、回遊性を高めることにもつながっている。
ここ数カ月間、全館で売上げトップを走るビームス梅田店は、レディス&メンズ複合の梅田旗艦店。3階のJRコンコースに近く、1日中、来店客が絶えない。午前中は主婦、午後は学生、夕方以降はOL、ビジネスマンといった具合に幅広い客層が来店。「なかには、ビームスを知らない人や時間のない人もいて、その人の状況やニーズに合わせた接客を心掛けている」(ビームス梅田 田中正美次長)。
入りやすく長居したくなるように、天井や照明など店内の随所に工夫が施されている。通路や試着室もベビーカーが通れる広さで、幼児連れの女性客もゆっくり買い物できるのが好評だ。ルクアの人気理由については「館内で完結するので1日いても飽きない。手の届く高級感を味わえるので若い人が入りやすいからでは」(田中次長)と分析。同店でもオリジナルを中心に、着まわしのきくアイテムや手ごろなグッズなどが売れているという。
1階エスカレーター前で女性客の目をくぎ付けにしているのが「ラ ブッシュリー ドゥ スワティー」。キャンドルブランド「スワティー」が手がける全国初の雑貨セレクトショップだ。熱烈なファンはもちろん、ポップでキュートな独特の世界に引かれてディスプレイを見入る女性客は少なくない。キャンドルの中心価格は2500円。他にもソープやアロマランプとのセット、コースターなど手ごろな雑貨が所狭しと並ぶ。「自分用というよりも8割近くがギフト需要。誕生日や結婚式のお祝い、クリスマスなどの気軽なギフトとして喜ばれている」(宮本尚子店長)。月坪売上げではトップクラスに入る好調店だ。
とはいえ、リピーター獲得をめざし、常に顧客を飽きさせない工夫を行っている。他にありそうでない雑貨小物を仕入れて展開したり、ルクアのシーズンイベントにも積極的に参加する。バレンタインデーのフェアでは、オリジナルチョコの販売も予定。「ココに来たら、何か楽しいものが見つかるかもしれない」。顧客に対して買う楽しみやワクワク感を与えているのも、人気の秘密だ。「ルクアはワンフロアが適度な広さで回遊しやすい。それに全館共通テーマに合えば、テナントは商品や売場展開をある程度任せてもらえる。各ブランドの世界観を表現できるのもルクアの強みにつながっている」と宮本店長は話す。
店舗をパートナーと位置づけ、共に施設を盛り上げて売上げをつくっていく"ルクア流の運営モデル"。JRグループでは先行するルミネが駅ビルの新しい運営スタイルを築いたが、MD計画から教育まで自前主義に徹するルクアの挑戦からも当分目が離せない。
(文・写真 / 橋長初代)
Guest Profile
橋長初代 (はしなが・はつよ) / フリーランスライター
ファッション専門誌の編集を経て2002年独立。ファッション業界を中心にトレンドやショップレポート、トップインタビュー、関西の企業レポートなど取材ジャンルは多岐にわたる。現在、WWD、繊研アッシュ、ファッション販売のほか、産経新聞、日経トレンディネット、週刊ダイヤモンドなどに執筆。大阪市在住。
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大阪「LUCUA」人気の秘密