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20120205

[]コンビニの店長が見た本屋の陳列

 「本を手にとりたくなる売場の演出について

 めっちゃおもしろかったっすよー。

 やー、本屋で働きたかったんですよね。コンビニで社員として働いてて、んでちょっと上司とケンカして辞めた過去があるんですけど、働かなきゃ食ってけないしなー、なにしよっかなーと思って、まっさきに思いついたのがやっぱり本屋で。んで面接行ったんですけどぜんぜんうまくいかなくてですね、あーこりゃもうだめだーゲーセンでも行くかーと思ってスーツ姿のまま入ったゲーセンで虹色町の奇跡やってシャルロッテの水浴びシーンでギャラリーできてああいまこの瞬間俺ロリコンだと思わてるんだろうなーそのとおりなんだけどでも妖精さんのほうが好きなんですよー?とか思ったのもいまではいい思い出じゃねえよ記憶から消してえよ。

 すいませんのっけから話逸れた。

 いまコンビニの仕事やってますけど、やっぱり雑誌の陳列には尋常じゃないこだわりがありまして、んで俺、雑誌の陳列に関しては持論があるんですよね。あれ「賞味期限一日のナマモノ商材」なんですよ。一日経ったらもう廃棄。実際にはそこまで極端な話ではもちろんないんですが、そう考えたほうがいい、ということです。まあ雑誌の場合、返本ありますからリスクないんでそういうことも言ってられるって話もありますが。

 賞味期限一日っていうのは、結局のところみんな発売日に買うんですな、雑誌って。女性誌は比較的その傾向が弱いですけど、それ以外はたいていそう。それで、毎日新商品が入荷する、と考えればいい。そうすると基本は多フェース陳列になりますんで、たとえば……うーん、そうだな、週刊ポストが8冊入荷するとするじゃないですか、そしたら8フェース取りますね。考えかたとしては、です。実際には雑誌什器の段数の問題があって、きれいに見せるためには縦1列にしたほうがいいんで、6段だったら6フェースにしますが。

 女性誌では発売日売りの傾向は弱いっていっても、そこは、たとえば小悪魔アゲハみたいないま売れてる雑誌ありますよね、ああいうのは発売日にガーッとと多フェース展開したら、そりゃ売れます。女性誌って種類多いですからね、ふつうのお店はそれやりません。そこをあえてやる。

 ここで重要なのは「うちはそういう陳列のしかたしてる店ですよー」っていうのが、お客さんに周知徹底されるまで続けるってことです。そうすると、面陳列してる雑誌はほぼ今日が発売日の雑誌ってことになりますから、お客さんが雑誌売場を通過するときに「今日なんか発売の雑誌あったっけかなー」って眺めながら歩いてくれる。

 雑誌って売れなくなってるって言われてますし、実際、テレビ雑誌なんて昔にくらべるとずいぶんと売れなくなりましたけど、やりようですから。なんか売上作れるとこないかなーと思ってる関係者の方は、一度ためしてみてください。客層にもよりますが、多フェースが効きやすいのは、一にヤンマガとかあのへんの青年コミック誌、次にウォーカー系の雑誌、あとは女性誌です。あと陳列はきれいになー。本部の用意してくれた返本リストになんか頼ってちゃだめだおー。もっと早いタイミングでびしばし返本しちまえ。ただしViViとかCanCamとかあのへんの雑誌はしつこく売場に残しておくんだ。あとワンピースみたいな化物コミックスはレジ前展開なー。万引き防止ってのもそうだけど、D+1で大量入荷する常温保存可能な新商品と考えればだんぜんレジ前っすよ。売れますぜー。


 というわけでですね、俺はそういうやりかたで雑誌の売上はけっこう伸ばしてきたぜ、という自負があるわけです。証拠になる数字を出せるわけじゃないんで「言ってるだけだろ?」って思われてもしゃーないですが、そこはまあ信用していただくとして。

 ただこれ、コンビニなんですよね。冒頭に挙げたリンク先は本屋さんの話です。

 俺はあくまでコンビニやってる人間としてリンク先のまとめを読んだわけなんですが、いやあ、それでもおもしろいですよ。冒頭で受動的なお客さんと能動的なお客さんって話題が出てきますが、これってコンビニでもわりと不変のテーマでして。客をもっとも受動的なものだと考えるのが、たとえば某7の字がつくチェーン店の偉い人ですな。あのチェーン、またぞろ店舗数を爆増させる計画たててるみたいですが、コンビニの歴史って「需要がないところに需要を創造してきた」って側面がかなりありまして。代表的なのは冷やし麺みたいなもんですかね。あれ20年前にあんなに売れる商材じゃなかったですから。おでんなんかもそうですな。コンビニでおでんを買う、という習慣そのものを「創造」したのは7の字がつくあのチェーンです。なんだかんだいってリーディングカンパニーですな。それじゃ恒例のやつ行ってみたいと思います。


 爆発しねえかなああのチェーン!!!


 ふう……ぜんぜんすっきりしねえ。もうおにぎりの100円セールやめてくれよ……。

 でまあ、それはそれとしてですね、こう考えると、あのチェーンって、客を徹底的に「受動的」なものと考えてるんですね。提供されないと需要に気づかない。そういう考えです。提供される。それで人は初めて気づく。「ああ、こんなものが欲しかったんだ」と。

 ただ、漠然と陳列してたってだれも気づいてくれないわけで、ここで陳列の話になるわけです。まあ、広告宣伝プランディングタイアップとかそういう話はとりあえず忘れておいてください。

 話を陳列に絞りますが、なるほど、本屋さんには公式ってのはないんだな、というのが上記のまとめを読んでよくわかりましたね。コンビニですと、あります。2フェースと3フェースのときの効率ですとか、1段展開したとき、1フェースのときと比較してどんだけ売上が変化するかっていうのは、だいたいのチェーンがノウハウとして持ってるんじゃないでしょうか。まあアテにはならないっすけどね!

 コンビニにあって本屋にそれがないのは、ひとつにはチェーンの規模でしょうね。それと、コンビニは、おそらくは本屋と比較して立地による売れかたの違いが小さい。結局人がコンビニに来る目的のかなりの部分は「はらへった」とか「のどかわいた」が多くて、その限りにおいて、そこまで極端な差って出ないと思うんですよ。

 これは、本ってのがかなり趣味性の強い商品だってこともありますね。そしてアイテム数がべらぼうに多い。じゃあどうすんのってことになったときに、個展ごとに商圏に最適化した戦略を取らざるを得ず、それって公式化できんの?となったら、そうまではできないでしょうよ、という話になる。高校の通学路にある本屋でビジネス書押しまくってなんかいいことあんの?って話ですよね。

 そうなると、本屋の客は、コンビニなんかと比較すると、すべてが「能動的」な客と言い切っていいかもしれない。能動的な客相手に多面展開とかいらないでしょ、それより品揃えでしょ、という話になるのかもしんない。

 俺自身は、コンビニ経営者としては多フェース展開の信奉者なんですよね。ただこれ、以前にもどこかで書いたと思いますけど、多フェース展開をやるには絶対の条件があって「売り込んでる商品以外の部分で、客を失望させない」という強い意志を売場に反映させる必要があります。多フェース=アイテム数削減ではないです。まあ、このへんの話は上記のまとめにも出てきますが、たとえば俺が、入口入ってすぐの棚で、スナックの新商品を単品で1本ぶち抜いて作ったとするじゃないですか。これ、単品を売りまくることが目的「じゃない」んですよね。いや、そりゃ単品でも売れますが、そうじゃないです。あれは「この店はスナックを売る意志のある店です」という店の意志表示なんですな。だから、通常の売場できっちりと「押さえた」品揃えをしとかなきゃいけない。そうでないと待ってるのは客の失望です。

 コンビニで買うスナックなんて、本と比較すれば商品どうしの差異なんてあってないようなもんじゃないですか。カルビーののり塩買おうと思ってた人が、湖池屋に心変わりすることなんていくらでもありうることなんだから。しかし、そうした差異の小さい商品群のなかでも、品揃えってのはきっちり考えていかないといけない。

 こう考えると、本屋における多面展開ってのは、店の意志表示としては大いに必要なんだろうな、と思いますね。特設スペースみたいなのがあったとして「なぜそれを、いま、ここに置くのか」という客の疑問にできるだけ応えうるような。あるときはそれは話題の新刊だったりするでしょうし、別のときにはアニメ化作品、さらに別のときには「学園もの」でまとめてみました的な、企画っぽいかたちになるかもしれない。それはライトユーザーにとっての取っ掛かりにもなるでしょうし、俺みたいなどっちかっていうと本読みの人種ですよね、そういう人たちに「この店、わかってんなー」と思わせることにもなるかもしれない。そして、それがフックになったうえでの品揃えですわね。それができれば「信頼される本屋」になるんじゃないかな、と。

 そう、本屋って、コンビニよりも明確に「店への信頼」が客の行動を左右するのかもしれない。少なくとも客としての俺はそうですね。


 さて、ここから先は蛇足。

 実際に、リンク先の人たちみたいに考えぬいて売場を作ってる本屋って、あんまり見たことないんですよね実は……。近場で一軒、信頼してる本屋さんはありますけど。

 俺はもともと横浜が地元なんですけど、かつて河合塾のそばにあったまんがの森、あそこは陳列すごかったなあ……。平積みもそうなんですけど、ふつうの棚ですよね。背表紙で陳列してある棚。あそこの陳列順がもう、客の購買行動を先読みしてるとしか思えないような「くそっわかってやがる!」っていう陳列になってた。俺は「どこかに隙はないか」って探すやな客だったんですけど、やー、なかなか見つけられなかったですね。

 あと横浜だとメロンブックス。品揃え的にぎっちぎちに詰まってるせいか、既刊で目的のものがあるときは探すの大変ですけど、よく衝動買いさせてくれますね。衝動買いさせてくれる本屋は大好きです。女子中制服図鑑を衝動買いさせてくれたことはずっと忘れません。

 本の衝動買い、大好きなんですよね。俺はアマゾンを極力利用しない派なんですが、田舎に住んでるとなかなかそうも言っていられない。それでも可能な限り本屋で買いたいのは「なんかないかな」っていう気分が強くあるからです。まあ「なんかないかな」っていう気分の前に、ネットの知人が俺の好きそうなものを紹介してくれて、それはそれで楽しいんですけども、本屋で現物を見て「わーこれほしー」と思って買っちまって、すぐにそのへんのドトールやらマックやらで本を開いて読み始める。あの感じが大好きなんです。

 これは、俺にとっての「本を入手する」ということの原体験がアマゾンにはないからかもしれない。おっさんですからね。でもねー、本屋で衝動買いさせられたい人ってけっこういると思うんだよなー。いてほしいよなー。業態なりの制約ってのがあるのは百も承知で、望まずにはいられない。たとえば(いつ出るのかもうだれにもわからない)「紅」の新刊を買いに行った俺が、隣に「これこそロリラノベの最高峰! 7さいはもうおとなだよ☆」っていうPOPついて俺の知らないロリラノベあったら絶対買う。おいたんちっさいおんなのこすきだよ。