東京電力福島第一原発事故後の原子力政策の基本方針(原子力政策大綱)を決めるため内閣府原子力委員会に設けられている会議の専門委員23人のうち、原子力が専門の大学教授3人全員が、2010年度までの5年間に原発関連の企業・団体から計1839万円の寄付を受けていた。朝日新聞の調べでわかった。
会議では、福島の事故後に政府が打ち出した減原発方針が大綱にどう反映されるかが焦点となっている。原子力委の事務局は3人の選定理由を「安全性などの専門知識を期待した」と説明するが、電力会社や原発メーカーと密接なつながりがあったことになる。
3人は東京大の田中知(さとる=日本原子力学会長)、大阪大の山口彰、京都大の山名元(はじむ)の各教授。3人は寄付を認めたうえで、「会議での発言は寄付に左右されない」などと話している。
この会議は10年11月に設置された新大綱策定会議。元東京大原子力研究総合センター長の近藤駿介委員長ら原子力委員5人と専門委員で構成され、今年8月をめどに大綱をつくる。
寄付は所属大学に情報公開請求し、公開対象の過去5年分が判明した。
寄付をしていたのは、青森県に大間原発を建設中の電源開発、茨城・福井両県に原発をもつ日本原子力発電の電力2社▽日立製作所、日立GEニュークリア・エナジー、三菱重工業の各原発メーカー▽原子力関連企業・団体でつくる業界団体「日本原子力産業協会」の地方組織である関西、東北原子力懇談会▽関西電力のグループ会社の原子力エンジニアリング。
このうち山名教授への50万円は、策定会議の専門委員に就任した後の11年2月に関西原子力懇談会から受けたものだった。
3人は会議で「福島の事故を受けて安全対策は随分とられている」「高速炉は魅力。開発は続けるべきだ」などと発言している。
寄付は研究助成が名目で奨学寄付とも呼ばれ、企業・団体が研究者を指定して大学の口座に振り込む。教授側は使い道を大学に申告し、一部は大学の会計に入ることもあるが、企業・団体への報告義務はない。企業・団体からの受託研究費などと比べ、研究者が扱いやすい資金とされる。
原子力委は業界からの金銭支援について委員らから申告させていない。(大谷聡、二階堂祐介)
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寄付を受けていた3教授
●田中知・東京大教授 計400万円
(電源開発100万、日立製作所120万、日立GEニュークリア・エナジー〈日立GE〉180万)
「研究のために受けている。寄付で、策定会議などでの発言が影響されてはいけないという意識がかえって高まる」
●山口彰・大阪大教授 計824万円
(日本原子力発電250万、三菱重工業200万、関西原子力懇談会124万、原子力エンジニアリング250万)
「寄付は研究のために使用している。会議では個人の立場で、自分なりに厳しいことも発言している」
●山名元・京都大教授 計615万円
(日立GE180万、関西原子力懇談会400万、東北原子力懇談会35万)
「原子力を前に進めるための寄付なら受ける。癒着ではない。良い原子力のためには業界との協力は必要だ」
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3教授に寄付していた企業・団体の話
●日本原子力発電 奨学寄付金の制度にのっとってやっている。山口教授は大学で就職を担当していた当時に支援を始めた。
●電源開発 田中教授に寄付した当時は学生の電力業界離れが起きており、理解促進のためだった。
●三菱重工業 専門性を持った研究成果が当社の技術開発につながり、我が国の原子力産業の技術力の向上につながる。
●日立GEニュークリア・エナジー 社内でテーマを決めて出している。原子力委にいる教授を意識しているわけではない。
●原子力エンジニアリング 原子力技術の一層の向上と人材育成に寄与するため、企業の社会的貢献の一環として寄付した。
●関西原子力懇談会 専門性への助成であって、政策的なことは考えていない。福島の事故後も総額を含め大きな変更はない。
●東北原子力懇談会 山名教授の研究方針に同意したため出したが、これまでに寄付したのはこの1件だけだ。
※日立GEは日立製作所と米国のゼネラル・エレクトリックが07年に設立。原子力エンジニアリングの業務は原発の保守
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〈原子力委員会〉 1956年に「国の原子力政策を計画的に遂行するため」として原子力基本法に基づき設置された。原子力の研究、開発、利用の基本方針となる国の原子力政策大綱をつくる。原子力委員は国会の同意を経て首相が任命する。
同じく内閣府にある原子力安全委員会は78年、原子力委から安全規制の役割を切り離すかたちで発足した。安全委員は元東大教授の班目(まだらめ)春樹委員長ら5人。省庁や電力会社に指示・勧告する権限を持つが、班目氏を含む安全委員2人と、その下の審査委員84人のうち22人が、原発関連の企業・団体から過去5年に計約8500万円の寄付を受けたことが朝日新聞の調査で明らかになっている。