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私がこれまで歯科医療に取り組んできたスタイルは「真実の追究」だったように思います。歯科大学では診療の基礎となる知識を学び、卒業後は学んだ知識を応用できるように診療の技術を鍛錬してきました。「学んだ知識を実践していくこと」、これはスポーツと同じで、頭で考えていることと実際にやることには大きなギャップがあり、試行錯誤を繰り返しながら修正し、時には方法を変えながら理想に近づけていかなくてはなりません。そのためには、自分のやっている臨床を正しく分析評価できなくてはなりません。
行き当たりばったりの思いつきの診療をしていては、問題が起きたときに何がまずかったのか、究明することはできないのです。本当に必要なことは、華々しいテクニックや最先端の機械、高価な材料ではなく、日々の診療においてあたりまえのことをきちんとひとつひとつ積み重ねていくことだということに気づきました。そうすることで、本当に大切なことが何なのかが、はじめて見えてきました。 臨床で出てきた疑問を解決する方法、それは学術文献を検索してその疑問に答えてくれるような文献を探すこと、そして世界のトップレベルの臨床研究者に会って話を聞くことです。これこそが本当のサイエンス:科学的根拠に基づく医療(Evidence Based Medicine)だと思います。 こうしたEBMの実践をはじめたころから新たな疑問が生じてきました。臨床は病をもつ人のために行うものです。サイエンスでは疾患という現象しか対象にしていません。全てはデータ化され、統計処理によって判断されます。その結果を病をもつ人、個人にあてはめるときに大きなギャップを生じることになるのです。私はこのことにある患者さんを通じて気づかされたのであるが(アイデンティティを捜し求めて参照)、その答えが患者の語る物語に基づく医療(Narrative Based Medicine)の実践だったのです。それはまさしく、人間としての根源に関わる部分、相手をひとりの尊い人間として尊重し、相手を理解しようとする医療のあり方でした。感性を磨き、人間的により大きく深いマインドをつくる。これは理論のサイエンスにたいして対局にあるアートの世界です。私たちは医療においてはこの両者のバランスが最も大切であり、その二つの世界の融合こそが医療の目指すゴールだと考えています。 今まで私たち歯科医療者は 、サイエンスの部分の勉強はしてきましたが、アートの部分の勉強はあまりしてきませんでした。本当に意味のある血の通った歯科医療を実践していくためには、私たちはアートの部分の向上を考えていかなければならない時代になってきていると思います。 このことについて、私は歯界展望の2008年11月号から「歯科臨床におけるナラティブ・ベイスド・メディスンの実践」というテーマで連載しています。
Photo by ミントBlue by 医療法人社団 とかじ歯科
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