「風評被害」〜ネット上に事実無根の自分の悪評が。消去させるには
プレジデント 2月5日(日)10時30分配信
インターネット上の誹謗中傷は依然として続いている。決して他人事ではない。
従来は「2ちゃんねる」のような悪口サイトが中心だったが、最近は、就職や結婚などのクチコミサイトやツイッターなどにも書き込まれることがある。そのなかには過激で悪質なものも含まれており、被害者は思わぬダメージを受けてしまう。
被害に遭ったら、まずサイト管理者(コンテンツプロバイダ)に削除を求めよう。その場合は、メールや問い合わせフォーマットを使っても構わないが、被害個所を特定して「ここは不当なので削除せよ」と内容証明を送るのが無難である。これで大方は消してもらえ、解決に至る。
やっかいなのは、削除を拒否された場合である。また、再び中傷を書き込まれたときに備えて、発信者が誰なのかを知っておきたいということもあるはず。しかし、サイト管理者は表現の自由や個人情報保護を盾に「消さない」とか「情報は出せない」といってくることもある。
そのときは、2002年に施行されたプロバイダ責任制限法に基づいた仮処分申請を行う。この法律は画期的なもので、被害者救済を重視している。
リスクを避けたいと考えるサイト管理者は、違法情報であればおおむね削除するし、持っているIPアドレスとタイムスタンプ(発信日時)を出してくることも多くなった。
この2つが入手できれば、サイトへの投稿を媒介する接続業者(アクセスプロバイダ)を特定し、発信者(契約者)を突き止める手がかりが得られたことになる。書き込みが消され、発信者につながる情報を得ることができれば、そこで矛を収めるという選択肢もありえる。
■示談での慰謝料は高額を期待できず
しかし、それでも腹に据えかねて、発信者に謝罪ないしは何らかの賠償をさせたいと思う人もなかにはいる。私が関わった範囲では、そういう人が全体の8~9割ぐらいにのぼる。
その場合、IPアドレスからネット検索などで特定した接続業者に対して「発信者の氏名・住所の開示」を請求する訴訟を起こすことになる。
その際、訴える側に有利に働くのが、10年4月8日に最高裁が出した判決である。これは、ネット上で名誉毀損などに当たる書き込みがなされた場合、接続業者に発信者情報を開示する義務があるとしたものである。実際に熾烈な争いになることはまずなくて、数回程度の口頭弁論で終わることも多い。
こうして、発信者本人が判明すれば、今度は発信者、すなわち加害者を名誉毀損で民事訴訟に持ち込めばいい。ただ、示談になることもままある。「二度とやらない」という旨の念書を取り、慰謝料を受け取るわけだ。
しかし、示談での慰謝料は高額を期待できないことも多く、判決になれば弁護士費用は損害額の1割程度しか認められない。裁判に1、2年近くかかることもあり、その間のコストを考えれば経済的合理性を欠くようなことになってしまう。
刑法に定める名誉毀損罪で告訴を試みても、警察や検察での立件が難しい面がある。さらに(1)内容に公共性がある、(2)目的に公共性がある、(3)内容が真実と証明できる――の3点を満たせば罪に問えない。特に(3)の真実についての論点が重要になるのだが、ネット上の言論の真実性については事案に応じて裁判所の個別判断になるのが現実だ。
もう一つ、注意してほしいのは、IPアドレスなどのアクセスログ(利用履歴)の保存期間が法律で定められていないこと。そのため、大手プロバイダでも3カ月~半年ぐらいしか保存しないことが多い。しかも最近の傾向として、どんどん短くなってきている。削除だけでなく、発信者を探り出すには、早めに動き出すことが何よりも大切である。
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弁護士
久保健一郎
1969年、大阪府生まれ。96年京都大学法学部卒業。99年東京弁護士会に登録。2003年久保法律事務所を開設。ネットワーク上での権利侵害の問題に詳しく、同関連の事件処理を数多く手がけている。
岡村繁雄=構成
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最終更新:2月5日(日)10時30分
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