大槻ケンヂ 連載エッセイ「オーケンの、このエッセイは手書きです!」

大槻ケンヂ 連載エッセイ「オーケンの、このエッセイは手書きです!」

プロフィール

大槻ケンヂ(筋肉少女帯・特撮)

1966年2月6日生まれ

1982年 筋肉少女帯結成、1988年 メジャーデビュー、バンド活動と共に執筆その他活動は多岐にわたる。作家としては94年、95年日本SF大会日本短編部門「星雲賞」受賞。代表作に『ロッキンホースバレリーナ』『グミ・チョコレート・パイン』等。
筋肉少女帯は数年の活動休止を経て2006年に復活。
2011年、筋肉少女帯、特撮、大槻ケンヂと絶望少女達など複数のバンドで活動中。著作も多数発売中である。
◎リリース情報
特撮
ライブDVD
『特撮復活ライブ 2011!5年後の世界』
1/21 (金) ON SALE

◎ライブ情報
大槻ケンヂ
大槻ケンヂソロ・ワークス ライブ「ONLY YOU」
2/25 (土)LIQUIDROOM
LIVE MEMBER:Ba 村井研次郎/Gu 長井ちえ/Key DIE/Dr 河塚篤史
Guest Guitarist:橘高文彦/NARASAKI


大槻ケンヂ公式ウェブ
バックナンバー
第六回

ももクロZ指令は労働讃歌

2011年10月31日(月)

 ももいろクローバーZ、いわゆるももクロちゃんの新曲に作詞提供をしたのである。
 先方スタッフさんよりある日、こちらのマネージャーを通して「テーマは『労働讃歌』発売は勤労感謝の日、アーティスト写真は省エネスーツ、作詞しめ切りは10日後」との、暗殺指令かと思うようなシンプル・ミッションが届けられた。
 「そしてもう一つ、『ヨギナクサレ』の雰囲気が欲しいです」と補足されていた。
 「も、もうちょっとヒント無いですか?」と尋ねれば、「働くことの素晴らしさ、喜び、働く人々を讃えるような」詞を、とのことであった。
 『なるほど今はそういう時代か』と感心したものだ。
 今が旬、のアーティストの歌う唄は、その時代時代を映し出す鏡であることは言うまでもない。
 震災、原発事故以降、復興、再生のシンボルとして「労働」という、バブル崩壊以来、20年くらいちょっとアンタッチャブルとされてきたテーマがそこに映し出される程に我が国は今や大変な状況にあるということだろう。
 ならばいっそ讃美してしまえ!というあたりの潔さ、変わり身の早さが流石ももクロ。今、今、今で勝負しているグループならではのチョイスだよなぁと驚いたということだ。
 テーマからしてロシアの労働歌とか「BGM」の頃のYMOみたいな楽曲が送られてくるのかと思ったら、全然そんな感じではない楽曲が届いたのにも驚いた。仮歌のラップ部分には、ももクロの「行くぜっ!怪盗少女」のラップ部分が暫定的に貼りつけてあった。ラップ、か…僕がラップを書くとみんな吉幾三さんの「俺ら東京さ行ぐだ」みたいになるのだが。エーイむしろもうそこは、そうしてしまおう。
 それにしてもまず気になったのは、ニートや、働きたくても職につけないでいる方々の想いである。
 僕はつねに社会的弱者や異端にある者の立場、視点から作品を作ることに決めている。
 ドンペリあけてるセレブじゃねーんだぜ、とのアウトサイダーの憤りをいつも心に秘めていなければ支持される歌はできないと思っている。
 「労働讃歌」というテーマに、現在労働環境にない人々の想いもくみ上げつつ、大槻ケンヂに依頼してきたんだからよほどぶっ飛んだ電波バリバリ系ソングをお望みであろうと、それはもうどうかしている詞を携帯に打ってスタッフさんに送信したところ「素晴らしいです!ですがこの部分をちょっと直していただければ…」と返信がきた。
 う〜んそうか、と指定の部分直して送信したところ再び「素晴らしいです!ですができればこっちの部分も…」直して再々送信。やはり「素晴らしいです!ですが…」このくり返しが何度か続いた。
 「了解です。全面的に書き直しますね。ポイントをどこにしぼればよいでしょう?」送信すると「できればもっと『ヨギナクサレ』の感じで」との回答であった。
 「ヨギナクサレ」とは、僕が筋肉少女帯とはまた別にやっているバンド・特撮の楽曲である。
 「シュプレヒコール!」とのシャウトから始まる一斉蜂起のアジテーションソングだ。頭脳警察「ふざけるんじゃねぇよ」にインスパイアされて(一行そのまま歌詞を引用してさえいる)数年前に作った。
 社会的弱者や異端者たちが、ドンペリあけてるセレブや権力、体制に対して宣戦を布告、そして勝ち目があるかわからない武力闘争に挑んでいくという、ぶっそう極まりない内容で、筋肉少女帯では「暁の戦力外部隊」という曲がよく似た雰囲気を持っている。
 他にも「ルサンチマンもの」と自分で皮肉っぽく呼んでいる一斉蜂起ソングは僕には何曲かある。しかしいずれも売れたことがないのがまたアウトサイダー感ビンビンで我ながらしびれるところだ。
 「ヨギナクサレ」にしたって特撮ライブじゃキラーチューンだけれど、世の中的には誰も知らないだろうと作詞者自ら言い切ってしまう。
 そんな埋もれた一曲を探し出してくれて、今バリバリに売り出し中の少女グループにそのテイストを注入してくれと依頼してくるスタッフの気が知れな…も、もとい、気骨に大いに感銘を受けた。
 「あ、あの、でしたらももクロちゃんに『ヨギナクサレ』をカバーしてもらえたら特撮の旧譜が売れてうれしいんですけど
 との、気骨まるで無しのおねだりメールを打ちかけた我が親指を「死霊のはらわた」の主人公のごとくもう一本の手がググーッ!と押さえ、「了解しました」とだけ打って全面的に書き直したのがしめ切り3日前。
 また何度かのメールでのやり取りの末に出来上がったのが11月23日発売「労働讃歌」である。
 しかしすごいタイトルだねこりゃ。
 だがやり取りによって結局、武力闘争の色合いは無くなった
 ルサンチマンを労働意欲に置換してがんばれ!と少女達がシュプレヒコールする、それだけで十分に闘争的、との判断。
 作詞直後から、格差デモなど世界各地が「ヨギナクサレ」的混沌に突入を始めたタイミングには驚くばかりだ。けれど、時代を映す鏡とは言えどもかわいらしい女の子たちの歌う唄なのだ。そこまでリアルに映す必要はないしね。
 例の「省エネスーツ」のアー写は、後日、ももクロのHPで見てぶったまげた。
 5人の美少女たちが本当に七分袖のスーツを着て、頭にそれぞれネクタイを巻いて、新橋あたりの酔っ払いお父さんスタイルで並んでいたのだ。
 クラフトワークの新譜かと思った。
 でも、そんなかっこうでもかわいらしいのだから、やっぱりオーラがあるんだなぁ美しい娘さんたちというのは。
 彼女らから次々と発信されるアイデアを、ガッチリ受けとめ続けているファンの方々の愛情も本当に素晴らしいと思う。
 『よし、オレも一つ受けとめてみるか!』
 と、スーツ着て頭にネクタイ巻いて鏡の前に立って見たのだ。

 映し出されたのはもちろん、新橋あたりの酔っ払いに何一つ、足し算も引き算もされない40代半ばのオレ様なのであった。じっと手を見る。寿司の折りづめがただ欲しかった。