東大秋入学への期待と課題、そして不安/ドクターZ
現代ビジネス 2月5日(日)7時5分配信
学部の春入学を廃止し、秋入学に全面移行する---東京大学が発表した素案が波紋を呼んでいる。国立大学の4割、私立でも早稲田、慶應など10大学が秋入学移行を検討しているそうだ。
世界の大学は9月入学が主流で、国連加盟193ヵ国中、約6割の116ヵ国で採用されている。それに対して4月入学は日本、インドなど3%にすぎない。
かつては日本も1872年から1920年までは9月入学だった。ところが、国から補助金をもらうためには国の会計年度と合わせたほうがいいという理由で4月入学になったようだ。では、なぜ国の会計年度は4月スタートなのかと言えば、秋は稲刈りで忙しく、年末年始は慌ただしいので相応しくなく、沖縄を除くと田植えが4月下旬に始まるから新年度として適当、ということだったらしい。
そんな国の台所事情に合わせて、官僚養成を主な目的とする国立大学が春入学を採用したのだが、今回、官僚養成の大親分と言うべき東大が秋入学に変えると言い出した。これは、教育関係者にとって大事件だ。
いまは東大も国際的な競争を強いられている。学部生に占める留学生の比率は米国ハーバード大10%、韓国ソウル大6%に対し東大は2%。要するに海外からの人気がないのだ。9月入学制度のある国際基督教大では留学生が増えたという。
秋入学については、実は過去にも検討された。'87年には中曽根康弘内閣の臨時教育審議会が提唱し、'07年にも安倍晋三政権の時に政府の教育再生会議が大幅促進という方針を示した。
だが、実現には至らなかった。社会的な環境が必要なのだ。例えば、高校が3月卒業のままであれば、9月入学までの半年間(ギャップターム)をどうするか。素案では多様な体験・活動を積むことで「寄り道」を求めている。企業の4月一括採用が変わらなければ、8月卒業から翌年4月就職までの間、学生側の経済的な負担が増すことになる。対策としては、経済界も通年採用の導入を進めるなど採用時期の柔軟化が必要だ。また、国家試験日程も4月入学が前提になっている。100年近く続いた制度・諸慣行を直すのは容易ではない。
ただ、4月入学がお上に補助金をすがる体質の象徴とすれば、9月入学への移行はお上依存を脱するためのチャレンジと言える。秋入学移行で世界の有力大学と同じ条件になり、本当の競争に晒されることになるからだ。結果として東大は、留学生獲得競争で惨めな思いをするかもしれない。
1月7日付で興味深い人事があった。文部科学省の局長が東大に現役出向し、理事に就任したのだ。局長と言えば定年を控えた大幹部。現役出向とは名目で、事実上の天下りだろう。'04年の国立大学法人化で文科省の内部組織から独立した東大だが、この人事は大学経営の専門家がいないことを白状したのも同然だ。
もっとも、官僚出身者が効率的な大学経営を行うのはまず無理。これで国際的な競争の場に打って出るというのだから心許ない。
'90年代初め、東大の完全民営化が可能かどうか、専門家に聞いたことがある。答えは「官僚が支配し、教師・職員も官僚のような組織で、不良人材(教師)も多いので、買い手はなかなかつかない。ただし、東京都文京区に土地を持っているのは評価が高い」というものだった。
その後、地価はすっかり下落。完全民営化はますます遠のいた。秋入学への移行は5年後という。体質改善は間に合うだろうか。
「週刊現代」2012年2月11日号より
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かつては日本も1872年から1920年までは9月入学だった。ところが、国から補助金をもらうためには国の会計年度と合わせたほうがいいという理由で4月入学になったようだ。では、なぜ国の会計年度は4月スタートなのかと言えば、秋は稲刈りで忙しく、年末年始は慌ただしいので相応しくなく、沖縄を除くと田植えが4月下旬に始まるから新年度として適当、ということだったらしい。
そんな国の台所事情に合わせて、官僚養成を主な目的とする国立大学が春入学を採用したのだが、今回、官僚養成の大親分と言うべき東大が秋入学に変えると言い出した。これは、教育関係者にとって大事件だ。
いまは東大も国際的な競争を強いられている。学部生に占める留学生の比率は米国ハーバード大10%、韓国ソウル大6%に対し東大は2%。要するに海外からの人気がないのだ。9月入学制度のある国際基督教大では留学生が増えたという。
秋入学については、実は過去にも検討された。'87年には中曽根康弘内閣の臨時教育審議会が提唱し、'07年にも安倍晋三政権の時に政府の教育再生会議が大幅促進という方針を示した。
だが、実現には至らなかった。社会的な環境が必要なのだ。例えば、高校が3月卒業のままであれば、9月入学までの半年間(ギャップターム)をどうするか。素案では多様な体験・活動を積むことで「寄り道」を求めている。企業の4月一括採用が変わらなければ、8月卒業から翌年4月就職までの間、学生側の経済的な負担が増すことになる。対策としては、経済界も通年採用の導入を進めるなど採用時期の柔軟化が必要だ。また、国家試験日程も4月入学が前提になっている。100年近く続いた制度・諸慣行を直すのは容易ではない。
ただ、4月入学がお上に補助金をすがる体質の象徴とすれば、9月入学への移行はお上依存を脱するためのチャレンジと言える。秋入学移行で世界の有力大学と同じ条件になり、本当の競争に晒されることになるからだ。結果として東大は、留学生獲得競争で惨めな思いをするかもしれない。
1月7日付で興味深い人事があった。文部科学省の局長が東大に現役出向し、理事に就任したのだ。局長と言えば定年を控えた大幹部。現役出向とは名目で、事実上の天下りだろう。'04年の国立大学法人化で文科省の内部組織から独立した東大だが、この人事は大学経営の専門家がいないことを白状したのも同然だ。
もっとも、官僚出身者が効率的な大学経営を行うのはまず無理。これで国際的な競争の場に打って出るというのだから心許ない。
'90年代初め、東大の完全民営化が可能かどうか、専門家に聞いたことがある。答えは「官僚が支配し、教師・職員も官僚のような組織で、不良人材(教師)も多いので、買い手はなかなかつかない。ただし、東京都文京区に土地を持っているのは評価が高い」というものだった。
その後、地価はすっかり下落。完全民営化はますます遠のいた。秋入学への移行は5年後という。体質改善は間に合うだろうか。
「週刊現代」2012年2月11日号より
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最終更新:2月5日(日)7時5分