余録

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余録:「官僚組織では仕事が減るにつれ…

 「官僚組織では仕事が減るにつれ、報告書作成の時間が増え続ける。増えなくなるのは仕事がゼロになり、報告だけに全時間が割けるようになった時だ」。A・ブロック著「21世紀版マーフィーの法則」(アスキー)の「お役所学」からの引用だ▲行政学の教科書をみると、近代の官僚制の特質として「法にのっとった権限による執行」「ピラミッド型組織による上意下達」などとならんで必ず「文書主義」の原則が挙げられている。情実や恣意(しい)にとらわれぬ公正な職務執行を後から検証できるようにするためだ▲だがこの合理的原則も、お役人の手にかかれば文書を増やすのが仕事の目的のような倒錯に陥るのは洋の東西を問わない。おかげで何かの許可を役所に申請する人は煩雑な書類作りと格闘するはめになる。役所のレッドテープ(繁文縟礼(はんぶんじょくれい))は先日の小欄でも触れた▲ならば、この間の原発事故への政府の対応においてはどれだけの記録の山ができたことか。いや、そんな心配ははなから無用だったという。政府の原子力災害対策本部は、事故発生から昨年末までに行った23回の会議の議事録をまったく作っていなかったというのだ▲記録どころではなかったとの釈明も事故後何カ月もたてば通用しまい。未曽有の原発事故への対応の記録は国民のみならず人類が共有すべき貴重な資産である。文書主義の趣旨を熟知する役人や政治家にして記録を避けたのは、後の検証を恐れたからとしか思えない▲どんな政治家も役人もいつかはその行動の検証を受ける覚悟なしに国民の安全や利益にかかわってはならない。申請書類の煩雑に耐える国民の声だ。

毎日新聞 2012年1月27日 東京朝刊

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