─新作「UTAU」は、坂本さんの曲に大貫妙子さんが新たに詞をつけて歌っていますが、完成していた曲に、あらためて詩がのるというのはどんな感じでしたか?
坂本 同じ曲でも、歌のないインスト(インストルメンタル)と、歌になった場合というのは、僕にとってほぼ違う曲と言ってもいいですね。今回は大貫さんが詩も歌もやっているので、ほぼ大貫さんのものという感じですね。
─坂本さんは小さいころから、歌を聴いても歌詞が耳に入ってこない人だそうですね。
坂本 今回もそういうところもありましたけど。歌詞を聴いてないということは、インストと歌の違いでいうと、インストの世界で僕はピアノを弾いているわけね。レコーディング中に注意を受けて、大貫さんから。それであらためて詩を聴いて弾くと、まったく違う世界のものになって、少しびっくりしましたね。
─1995年発表の「スムーチー」みたいな坂本さん自ら歌う作品はもうやりませんか?
坂本 難しいんじゃないかな、それは(笑)。あのころは無理して挑戦していたけども。やっぱり自分で聴いて本当に下手だし、向いてないと思って、歌に。
─ここ数年、国内外で精力的にツアーを行っていますが、なぜですか?
坂本 単にCDが売れないから。演奏活動しないと食べていけない。不思議なことにCDは買わないのにライブには来る方がたくさんいるので。体験にはお金を払うけど、情報には払わないということが大きいかな。
─会場に行かなくても、同レベルの音質や雰囲気を享受できる音源の価値が下がった?
坂本 20世紀の長い間、レコードやCDの時代は、同じものであるかのように長く錯覚してきたんですよね、僕も含めてみんなが。でも、それは全然違うものって分かってきたのかもね。
─失礼なことを伺いますが、坂本さん、ピアノうまくなりました?
坂本 そうですね。1年くらい前にやっと家にアップライトピアノを買いました。それまでは家で練習することもない。失礼だけど、お客さんの前で練習してるんで。だから、ツアーがあるとだんだんうまくなっちゃう。
─ライブで、結局「戦メリ」が一番盛り上がることをどう思っていますか?
坂本 そんな好きじゃないですけど、自分自身は。聴き飽きたというか。昔はわざと弾かなかったりしたこともあるんですけど。でもね、昨年前半に武道館にジェイムス・テイラーとキャロル・キングを聴きにいったんですよ。やっぱり「ユー・ガット・ア・フレンド」が聴きたいし、聴けた時はうれしくてね。聞き覚えのある有名な曲は誰でも聴きたいんだなと思って、少し反省しました。だから意地悪しないで、素直に弾いてあげることにしました(笑)。今でも本当は他の曲を弾きたい気持ちもあるんですけど。
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▼坂本龍一(さかもと・りゅういち)さんは1952年東京生まれ。78年、YMOを結成。解散後も音楽や出版など多方面で活動する。映画「ラスト・エンペラー」でアカデミー賞作曲賞などを受賞する。昨年11月、大貫妙子さんとの13年ぶりに共同制作した「UTAU」を発表した。
=2011/01/16付 西日本新聞朝刊=