【東京】燃料費の高騰や原発の稼働停止によって、ただでさえ高い日本の電気料金が一層押し上げられるなか、東京電力をはじめとする電力会社は一部大口顧客の反乱を受け始めている。
東京製鉄やコーセーなど一部企業は、東電が先月示した方針どおり、大口需要家向け料金を平均17%値上げするのであれば、別の電力事業者への乗り換えを検討するとしている。東電によると、他の顧客も内々に不満を口にしている。
東京都の猪瀬直樹副都知事は、東電に要望書を出し、コストの詳細開示や電力料金設定制度の公正化を要求したと述べた。猪瀬副都知事はインタビューで、値上げの提示について「とんでもない」とした。また、東京都は東電にとって第3位の大口契約者だとし、6月の年次株主総会でも苦情を伝える意向だとした。
古川元久経済財政担当相は今週、東電の西沢俊夫社長に中小企業向けの電気料金への配慮を求めた。また東京都内の主要な区も、一部施設の電力契約に競争入札を初めて導入する意向を明らかにしている。
昨年3月の東日本大震災を受け、日本ではさまざまな変化が生じており、今回の「反乱」はその一部を浮き彫りにしている。震災で東北地方の原発が被災し、福島第1原発では事故が発生、それにより東日本の企業は業種別に休業日をずらし電力使用量のピークを緩和する輪番停電を実施した。国民の原発への信頼も失われ、日本の全電力需要の約30%を供給していた全国に54基ある原発は、51基が段階的に停止に追い込まれた。
電力供給不足と料金値上げで、電力に対する国民の関心はかつてないほどに高まっており、地域的に電力供給をほぼ独占する電力9社体制に関しても疑問が生じている。
日本では1999年に大口需要家による独立系の電力事業者からの電力購入が認められたが、発電量と電力消費量を一定に保つ同時同量の義務や電力会社の送電線の利用に高い賦課金が課さられていることが、新たな事業者の参入を阻んできた。国際エネルギー機関(IEA)によると、日本の2010年の電気料金は先進国平均を40%上回っている。
電力会社に対する不満の中でも最も根深いのが東電に対するものだ。同社は、原発事故による多額の補償や除染費用の支払いに直面し、破綻を回避しようと必死だ。
東電は、電力料金の値上げは、原発を輸入化石燃料による発電に切り替えるためのコストを賄うために必要だとしている。顧客離れが起こる可能性について同社に尋ねたが、コメントは控えるとした。
他の電力会社は東電ほどの値上げは検討しておらず、彼らに対する不満は主に原発の安全性に対する懸念によるものだ。
「今は電炉メーカーは赤字すれすれ」だと東京製鉄の広報担当者は話す。同社の試算によると、東電の値上げによってコストは約7億円増える。
東京世田谷区の保坂展人区長は、区内公共施設111カ所の電力契約について、今月競争入札を実施する方針を明らかにした。世田谷区の人口は84万人。同区の試算によると、入札導入で年間の電気代を昨年の電気代の約3%、2000万円程度節約できる。
保坂区長はインタビューで、東電が値上げに踏み切った場合は、9000万円程度節約できる可能性があると述べた。入札導入の方針を発表して以来、保坂区長のもとには他の自治体から助言を求める問い合わせが相次いでいるという。「電力をまさか選択できるとは考えていなかった。他から買えるのかと。雨が空から降ってくるように、電気は東電からと考えていた」と、保坂区長は述べた。
東京台東区も今月、区内5つの小学校の電力購入について、競争入札を実施する予定。台東区議会の和泉浩司議員は、「台東の中で(われわれが)事業者になってもいい」と話す。
住友商事が設立した電力事業者、サミットエナジーは、電力購入に関する問い合わせが福島第1原発事故後、約50%も増えたと話す。
だが、独立系の事業者への関心が高まっているとはいえ、日本の電力市場がすぐに変わるとは限らない。サミットエナジーの國岡秀規企画管理部長は、同社は震災前から購入または発電した電力を残らず販売しており、震災後はさらに供給がひっ迫しているとし、「売ってほしいと言われても、なかなか売る電気がない」と話す。
同社は、供給している電力の約30%を同社が運営する5つの発電所で賄っており、残りを卸売市場で東電その他の事業者から購入している。東電が値上げに踏み切れば、同社も電力料金の値上げに踏み切らざるを得ない可能性がある、と國岡氏は述べた。
格好の教訓となるのが東京渋谷区の例だ。渋谷区は昨年後半、区役所本庁舎および隣接する公会堂の電力契約について5つの事業者と協議した。だが入札参加を決めたのは、わずか2社だった。