1.第一に豆の攪拌が均一に行なえる構造を検討する。(これは必須)
2.回転との関連を適切なものに設定する。
3.形式や容量の検討を行なう。
4.バーナーの燃焼効率を加味した熱量を検討する。
上記映像は生豆5kgを投入、54rpmで回転させた状況
見て頂ければ分かると思いますが、釜の中央にある貫通軸が障害となって、豆を左右に分離させています。右に流れた豆は釜の内側だけを回転し、左に流れた豆は外側だけを回転しているのが確認出来ます。
また、多くの焙煎機が豆の投入経路と排気口が併用になっているため、前方に押された豆は排気の障害にもなります。(図面参照)
攪拌される豆も外側と内側では熱の伝わり方や、熱風の抜け方も違って来るので、投入量が多くなると、より一層煎りムラが出やすくなります。この様な現象は、大なり小なりどの焙煎機も抱えている問題で、攪拌の状況が悪いと熱量バランスを取るのが難しくなってしまいます。
生豆5kgを投入、TypeTと同じ速度で回転させた状況
この釜では、豆を跳ね上げ、釜の内面から浮かせるような動作にして、奥行きを有効に使えるような羽根構造を検討しました。最終的に釜の回転数は実験当初より遅いものに設定しました。(1)の羽根の役割
釜の前方にある豆を
跳ね上げる
(2)の羽根の役目
釜の後方にある豆を
前方に送り出す
(3)の羽根の役目
跳ね上げられた豆を
後方に戻す
羽根の取付け位置はそれぞれ角度、高さを変えた試作を数個作り、釜の中の攪拌状況を目視で確認しながら構造決定する、という製作方法を採用しました。
特に(3)の羽根は重要で、角度と高さが微妙に違うだけで攪拌状況が違ったものになります。「タイプT」と「タイプU」の違いは(3)の羽根だけです。
・マイスターシリーズでは、すべて半熱風式の釜を採用しています。
i = このギヤ比は通常モータの銘板に刻印してあります
Z1 = モータ側のベルトプーリーの外径(スプロケットの歯数)
Z2 = 釜駆動側のベルトプーリーの外径(スプロケットの歯数)
上記の様に、汎用交流モータでは、東日本と西日本で電源周波数が違うので、ギヤ比を変えるか、インバーターで周波数を変えない限り、釜の回転数は東と西とではおのずと違って来ます。排気ファンのモータも同じなので東と西では排気される風力が違います。ダンパー開度の比較は同じにはなりません。
焙煎機マイスターの開発に当たっては、例のアクリル板の装置にセットして、回転数を変えながら目視で検証をし、試作を行いました。その結果、攪拌の良い羽根でも、回転が60rpmを超えると、豆が釜の内面に張り付くようになり、28rpmを下回ると、釜の下部に固まるようになります。しかし、その中間の回転域では、攪拌の精度に大差の無い事を確認しました。
よって釜の回転数は、インバーター制御などで可変させず、周波数が変わっても攪拌の精度が良好になる範囲内のギヤ比を選定しています。逆に、釜の回転より重要だと判断した排気ファンは、インバーター制御にして、東と西でも風力(排気量)に格差が付かない機能にしています。
焙煎機を独自に改造される方もいるようですが、「タイプT」を見るまでもなく、目先の結果だけで直接的な真の原因がどこにあるのかを特定出来ない限り改造には慎重になるべきです。
焙煎機には、相反する要因(トレードオフ)が混在しており、その中から客観的で正しい判断や対策を導き出すには、焙煎技術は本より機械に精通した知識の方がより重要になって来ます。
「タイプT」を見て分かる事は「従来の情報はいかに歪んでいたか」ということです。巷の定説というものには科学的根拠が薄く、一方的な主張で俗説を批判し、その流れから詳細な研究もせず、具体的な説明が無いまま自己の主張を通そうとするのは、いささか無理があります。
攪拌が抱える問題を抜きにして、バーナーの増設本数や二重ドラムの優位性を語っても意味があるのだろうか。また、直火式の方が豆の個性を表現するとか、熱風式が理想だとかの形式議論も、本質を突く話しになるだろうか。
熱が均等に伝えられない釜でも、過熱水蒸気は有効なのか、その状態で実験されたデータから何が読み取れるというのか、また同じ状態でインバーターを使い釜の回転を可変させる効果は何を期待させるのか、果たして火の入っていない焙煎機の排気を測ることに意味はあるだろうか。熱気球がバーナーを焚くだけで上昇下降する原理と同じで、焙煎の途中で火力を上げたり下げたりするのは、ダンパー開度に関係なく排気を狂わせます。その意味を探らないで焙煎におけるダンパー操作とは何なのか?
同じ様に、焙煎の終了間際で火を消して煎り止めまで進行させるという手法は、煙が最も出ている過程でダンパーを閉めるのと同じ理屈になり、そうしなければ味が落ち着かないというのは、始めからの工程に無理があるのではないか。
そもそも「豆を上手く焼く」という根源はどこにあるのでしょうか、稚拙な主張を鵜呑みにして大切なお金と時間を無駄にしたくはありません。
焙煎機を改造する中でも、これは避けたいというものもあります。その一例は、ガス圧を測定する圧力計(微圧計)を、液晶表示のある流量計に交換している事例です。
液晶表示というのは、単純にいえば電気回路そのものなので、可燃性のあるガスに適応させる場合には「防爆仕様」のある機種を選定するのが必須の条件になります。単価的には標準的な圧力計の10〜20倍しますが、メーカーによっては対応している機種もあります。
防爆の範囲はガスが流れる配管内は当然のこと、設置環境に対しても防爆性が必要です。もし接続口からガス漏れが発生した場合は、漏れたガスが最短距離で電気回路に接触することになるからです。(これは自殺行為です)
一般的なブルドン管圧力計には、それ自体に防爆性があり、例え接続口からガス漏れがあっても直ちに危険になることはありません。ガス警報機などで感知してやれば、事故は未然に防ぐ事が出来ます。(資料「計量と単位について」を参照)
焙煎に使用する可燃性ガスを、あえて流量表示にする利点は、圧力表示よりも実際の流量を正確に把握できるので、熱量計算に都合がいいためです。ガスは気体なので、外気温や気圧などの違いで膨張係数が変わってしまうため、圧力より流量の方が正確に管理しやすいという点は理解できます。
しかし、焙煎機のように熱拡散が大きい構造の機械では、発生させた熱は、焙煎に活かされるより、大気中に拡散、投棄される熱の方がはるかに大きくなり、実質、その格差はほとんど無視できるレベルになります。最終的には捨てている熱を正確に測っている事になります。この様な事例では、焙煎機自体の熱効率を上げる方が遥かに理屈にかなっています。
ガス事業者においても、ボンベの充填圧力を、納入先の温度や標高差などで区別している話しなど、聞いた事がありません。また、家庭に取り付けられているガスメーターも標準は機械式の回転メーターが付いているはずです。
理論熱量は、圧力からでも計算できますし、どうしても流量計でなければならないという人は、必ず防爆仕様を確認して下さい。このように「木を見て森を見ず」のような改造は、マニアックであっても、プロがやることではありません。
外国製の焙煎機には、細かいダンパー操作や微妙な火力調節がやりにくい機種があります。(最近は多少改善された機種もあるようです)
諸外国で見るようにコーヒーが文化として定着している国では、もともと大きな消費を確保できる商圏があります。そのような国で開発された機械は、最初から定格容量いっぱいの豆を投入して焙煎することを目的として開発されているはずです。
釜が12kgの容量だとすると、それは生豆12kgを焙煎するための機械であって、大きな商圏があれば、あえてそれ以下の量を焙煎する必要はありません。12kg焙煎すれば10kg売れる市場があるからです。
また、焙煎をする環境にも大きな違いがあって、カリフォルニアやロシアなどでは、熱波が襲えば森林火災が頻発するぐらい乾燥した大陸性気候です。その環境では、煙突の排気力(ドラフト効果)もバーナーの持つ火力だけで保持させようという考えも成り立ちます。
日本のように梅雨があって湿気の多い気候とでは、煙突の持つ排気性能は格段に違うはずです。
焙煎も、浅煎りから深煎りまで8段階、ストレート豆も何十種類という日本独自の煎り分けるような設定もないはずです。おそらく、外国の技術者に、日本の焙煎者が普通に行なっているダンパー操作や、火力調節を説明しても理解しないはずです。彼らにとっては全てが想定外になります。
車にしても、作られた背景があって、名車といわれる外国製のスポーツカーを日本で通勤用に使ったら、使い勝手が悪いのは当たりまえです。名車には名車といわれるだけの条件と設定があり、そこが違えば、いかに名車といえどもその性能が発揮されません。
フォーミュラーカー(F1)もサーキットを何周周回しても1/1000秒まで同じタイムを叩き出せる性能が求められますが、周回するごとにタイムが大きくブレる車にフォーミュラーカーを名乗る資格はありません。
どんな優れた機械でも所詮は「道具」であり、それを使いこなすのは「人」です。その機械の本質はどこにあるのか、そこを見極め、使いこなすだけの「技量」が無ければ良い結果は生まれません。
記)大和鉄工所 岡 崎