◆韓国国会議員選と大統領選
「選挙やなんて、ないのが普通やったもんな。よう分かってない人のほうが多いんとちゃうか」
今年韓国では4月に国会議員選挙、12月に大統領選挙が行われる。今回の国政選挙から初めて在外韓国人も投票できるようになり、そのための選挙人登録が今、駐日韓国総領事館で進められている。
韓国は20世紀初頭から、世界各地に多くの移民を送り出してきた。日本が朝鮮半島を統治していた頃、日本、中国、ロシアの沿海州にたくさんの朝鮮人が渡った。祖国を奪われた流浪の民は自らの足で生きる糧を求めて各地に離散していった。
祖国が解放されると、今度は米ソ対立の代理戦争を強いられ、朝鮮半島は南北に分断された。休戦後も対立は深く、南北政府は軍事を優先した。そのため食べていけない韓国人たちは新天地を求めてアメリカ大陸などに向かった。西ドイツには国策として看護師が大量に送り出された。
いまや世界各地にコリアンコミュニティーが存在する。韓国経済は、海外に暮らす韓国人たちからの支援も発展の後ろ盾となった。ソウルオリンピックの開催にあたって在日社会が送った資金は、300億円を超えるとも言われている。
冷戦が終わり、激しかった理念対立も雪解けを迎えた。南北情勢にも変化が見られ、戦争の危機は低下し、軍事優先の政治への反発が韓国の民主化を後押しした。軍事政権は文民政権へと移り、そして民主化闘争の指導者であった金大中(キムデジュン)さんが1998年に大統領になった。
一方、在外国民の参政権を求めて立ち上がったのが、兵庫県の在日2世の故李健雨(イゴヌ)さんだった。「国政選挙での投票権が在外国民にないのは『憲法違反』だ」とする主張が07年に韓国の憲法裁判所で認められた。それまで、韓国の司法は在外国民の参政権を否定してきたが、それが覆ったのも韓国の民主化が影響している。
私たちにとって最初の投票が4月に迫る。だが、選挙人登録を済ませた人は極めて少ない。冒頭の言葉のように、在日はこれまで参政権から一切排除されてきた上に、祖国への帰属意識の薄まりも背景にある。
駐大阪大韓民国総領事館(大阪市中央区西心斎橋2、06・6213・1401)は今、選挙人登録を懸命に呼びかけている。19歳以上の在日韓国人で韓国政府発行の有効パスポートがあれば登録でき、手続きは今月11日まで。土日も手続きOK。まだの人はパスポートと外国人登録証を持参して、総領事館に出かけてほしい。手続きは15分程度。韓国語ができなくても大丈夫で、領事館職員が親切に教えてくれる。
日本ではまだ私たちにない参政権だが、せっかくの機会に、社会経験としてもぜひ参加してほしい。<文と写真 金光敏>
==============
■人物略歴
1971年、大阪市生野区生まれ。在日コリアン3世。大阪市立中学校の民族学級講師などを経て、現在、特定非営利活動法人・コリアNGOセンター事務局長。教育コーディネーターとして外国人児童生徒の支援などに携わる。
毎日新聞 2012年2月3日 地方版