第1回 「デバッグでメシが食える!?」
「キッカケは、とある求人広告でした」
現在デジタルハーツ社で取締役を務める川口氏と若狭氏、社長の宮澤氏が出会ったのは都内のあるソフト会社でのこと。デバッグのアルバイト募集広告を見て応募してきた三人は、そこで初めて顔を合わせる。
「三人ともフリーターでした。私は、いっちょう何かやったろうと意気込んで九州から出てきたのはよかったのですが、現実は都会の荒波にもまれるばかりでふらふらとその日暮らしを送っていました。若狭も似たような境遇でしたね。宮澤は作詞家をめざしていたのですが、それでは食えなくてバイトを探していたんです」
たまたまデバッグのバイト募集で出会った三人は、なぜか意気投合する。
「どうして気が合ったのかは、よくわかりません。あえていうなら、少し年上の宮澤には兄貴分みたいな雰囲気があって、こいつに付いていったら何かおもしろいことがあるんじゃないか、ぐらいの気持ちだったのでしょう」
デバッガーとして応募はしたものの、実は三人とも専門知識など持っていなかった。当時はそれでも仕事になったのだ。なぜなら、そもそも募集する側が、バイトには専門知識を求めていなかったから。
「デバッグといってもゲームの場合、基本的に作業は単純なんです。早い話が開発中のゲームでひたすら遊んで、何か不具合が出ないかチェックする。もしおかしなところがあれば、それをレポートにまとめる。そんなレベルの仕事でしたから」
言ってみれば、とりあえずゲームが好きで、少しばかり文章を書く能力があれば誰にでもできる仕事、それが当時のデバッグだったのだ。
「だからバイトで十分間に合う。実際には個人事業主としての契約を求められましたが、それはおそらくその方が雇う側にとって何か都合が良かったからだと思います。といっても、こちらは労働基準法などについて詳しいわけじゃない。ただ言われるがままに契約して、黙々と仕事に励んでいました」
結局、その会社での仕事は1年半ぐらい続いたという。その間には大きな収穫が二つあった。まず何よりも三人がとても気が合うとわかったこと。三人一緒でなら何かやれる、そんな手応えをこの間にお互いが共有できていた。もう一つは、デバッグが仕事になる可能性に三人が気づいたことだ。
▲【デジタルハーツHPより提供:デバッグ体験ゲーム】
ゲーム好きにとっては、バグ探し自体もゲーム感覚で楽しみやすい仕事だ。
■金ない、コネない、知識もない
「ちょうどプレステ2が出る前ぐらいで、ゲームがどんどん増えている時代でした。メディアはCD-ROMからDVDに切り替わり、データ容量も劇的に増えている。デバッグに対する需要は急増していました。ところが、仕事は相変わらずバイト任せで非効率極まりない。これはチャンス、必ずビジネスになると思いました」