第2回
「初めての顧客」
「デバッグの会社を始めました」
「何それ?」
「デバッグを専門に請け負う会社です」
「機材は持ってるの?」
「ないので貸してください」
「顔洗って出直してきたら」
さすがに一日中、セールスの電話をかけまくっていれば、それなりに話せるようにはなる。何とか自分たちがデバッグ専業だという説明ぐらいはできるようになったが、そこから先、受注にたどり着くまでにはまだいくつも難関を乗り越えなければならなかった。
「ゲームのデバッグをやるためには、専用の機材が必要なんです。ところがこの手の機材はどれも高価なものばかり。とてもじゃないが我々には手が出ない。完全に行き詰まりました」
ところがセールスを開始してから2ヶ月後、運命の女神は遂にデジタルハーツ社に微笑みかける。
「それが何社目だったのかは、もう覚えていません。少なく見積もっても数百社に電話をかけた後だったと思います。特別な機材はいらないから、一度やってみますかとチャンスをくれた企業さまがあったのです」
デバッグ受注第一号は、今でもデジタルハーツ社の大切な顧客である。大手オモチャ会社のゲームソフトを受託開発している企業で、そのソフトなら市販のオモチャさえあればチェックできるのだ。
「すぐにみんなで指定されたオモチャを家電量販店に買いに行って、その日からデバッグに取りかかりました」
当時の事務所は宮澤氏が借りているワンルームマンション。たまたまロフト付きだったことを幸いに、宮澤氏の生活道具をすべてそこに放り上げてしまい、狭い部屋に20代の若者が6人、引きこもった。そして24時間ぶっ続けでひたすらゲームをする。事情を知らない人が傍で見ていれば、間違いなく異様な光景に違いない。
「とにかく必死でしたね。この仕事で何とか自分たちの力を認めてもらおうと全力で取り組みましたから。可能な限り短時間で、開発者の方に最高に役に立つレポートを出そうと、それだけを考えてやりました」
結果は吉と出る。バイト時代の経験・ノウハウを活かしたデジタルハーツ社のデバッグレポートは、開発者にとってはまさにかゆいところに手の届く内容に仕上がっていたのだ。バイト時代からデバッグのノウハウがいずれ必ず生きる時がくると考え、その蓄積に意識的に取り組んできた成果が出た。
▲インタビュー風景(左から川口氏、経営企画部 IR・広報担当 都筑 百合氏)
■自社の価値を知る
「初仕事の評価は非常に高かった。なるほど、確かにデバッグ専業をセールスポイントにしているだけのことはあると認めてもらえましたから」
新しい事業を始めて、もっとも苦労するのが一人目のお客様を開拓すること。一社目を開拓できれば、そこからのつながりが生まれるだけでなく、開拓プロセスでの学びが次の顧客を見つけるためのノウハウとなる。