ハンドピックの意味

2012年01月16日

普段、コーヒー関係のサイトは見ないなのですが、正月休みに久しぶりにアクセスして見ると、あるブログで目が点に・・・。以前からハンドピックや、焙煎後の珈琲豆の取り扱いについては、懸案事項として心に留めていたのですが、さすがに今回は改めて考えさせられました。

焙煎後の珈琲豆を「生鮮食料品」として扱うのか、「一般加工食品」として扱うのかで包装の仕方も違ったものになります。最近はラミネート加工の小袋で包装しているものをよく見かけます。(下の写真)



気密性と遮光性があるので「レトルトパウチ食品」並の扱いが出来て長期保存には適しているでしょう。珈琲豆を「一般加工食品」として保存に重きを置いて扱うのであれば問題ないのかもしれませんが、「生鮮食料品」として扱うことを主張して、この包装では問題があると思っています。

同じ生鮮食料品の類では、生ハム、ソーセージ、肉・魚加工品、などがありますが、どのメーカーの商品も中身が見える包装をしています。焙煎豆も鮮度を考えるのであれば、ある程度の気密性は必要だと思いますが、露天で販売する訳でもないので遮光性については、他の生鮮食料品と同等の扱いで良いのではないでしょうか。

仮に、生ハムには遮光性が必要なく、珈琲豆には必要だという主張があるのなら、その言い分には相当、無理があります。

これまでにも食品については賞味期限や鮮度の問題でさんざん世間を騒がせて来た経緯があります。生製菓の賞味期限偽装に始まって、女将と息子の二人羽織の迷演を見せつけられ、ユッケを食べた子供が死亡しても、HACCP(ハサップ)「食品の衛生管理手法」の義務付けを決められない厚生労働省を甘く見ているのだろうか。

「安全」と「安心」は一緒に使われますが、使い分ける必要があります。

安全とは
科学的・客観的に評価できる問題。リスク評価の結果、無視出来るぐらい少ない状態。

安心とは
心理的・主観的な問題。信頼出来て、不安の無い状態を示すものです。

風評被害にもあったように、科学的に「安全」と解っても、「安心」出来ない場合もあります。

目が点になったブログは、「少量入荷のパナマシリーズ」と題して、「ママカタ・ゲイシャの豆」をラミネート加工のフィルム袋に入れ、開封したものを写真に取ったものです。

明らかにハンドピックしなければならない豆が混在していました。

わざわざ写真を撮ってブログにアップするのですから、普段からハンドピックの重要性を認識していれば、この時点で気が付いて適切な処置が出来たはずです。

ハンドピックには二通り(狭義と広義)の意味が含まれます。

狭義としてのハンドピックとは、
生豆の欠点豆を取り除くだけでなく、焙煎後判明する欠点豆や煎りムラも取り除く事です。

広義としてのハンドピックとは、
生産者の「志」を消費者に届けることを目的にし、お客様のカップを濁らせない事です。
なぜ産地や農園にこだわるのか? それは、そこにしかない、他で補う事のできない産物があり、「高き志」を持った生産者がいるからです。「種からカップまで」といわれますが、お客様に渡る最後の一杯が一粒の欠点豆で濁るようでは、生産者の志は消費者には届きません。

自家焙煎店を志す人は、是非一度コーヒの生産国、農園、生産現場に行って下さい。
現場で生産者がどんな思いでコーヒーを生産しているか、コーヒーに架けた情熱を肌で感じて下さい。一粒のコーヒー豆が出来るまで・・、スペシャルティと称されるコーヒー豆がどのような「志」の中から生まれて来るのか。その思いや情熱、「志」を現場で知って頂きたい。生産者の「志」を知ってハンドピックもせず消費者にコーヒーが売れますか?

田口さんが再三ハンドピックの重要性を説くのは、
ただ単に、目の前に欠点豆があるから取れ、ではないのです。
これはバッハのHP、昨年10月3日のブログHOT、ティップス(2)にも明記されています。
ここには、「生産者の志や生産国の文化をよりよく理解するため」とあります。田口さんは、日本の指導者の中でもいち早く現場に入って生産者の志、生産国の文化を伝えた先駆者です。

ハンドピックの重要性を説いていながら、ラミネート加工のフィルム袋に入れて販売する業者には、疑問を感じます。どこまで生産者の思いを理解しているのか? 何を消費者に届けたいのか? 商売優先なのか? やはり珈琲豆を「生鮮食料品」として扱うのなら中身を見せる必要があります。

コーヒーの豆問屋なら、ハンドピックをする必要の無いほどの高品質な豆を仕入れて、右から左に動かせば商売は成立します。以前は「ウチの豆はハンドピックの必要がない」という、モノ作りをしない豆問屋が言う商売上の口上を真に受けて、モノ作りの意味を理解しない自家焙煎店の店主が同じ口上を使っていました。今でもそうなのでしょうか?

下の写真を見比べて下さい。
生鮮食料品として扱うコーヒーはどちらでしょうか。
仮に、ラミネート加工フィルム袋の中に、生産期日、賞味期限が明記された「生ハム」が入っているとしても、安心して封を切る事が出来るでしょうか?
コーヒーなら中身が見えなくてもいいのでしょうか?



お店に入って、銀袋が並ぶコーヒー屋さんには違和感を感じます。



最近のMOOK本にも自家焙煎店のコーヒー豆が紹介されていますが、大多数は中身が見えない包装で、一般加工食品としての扱いです。これにも違和感を覚えます。「種からカップまで」というのは建前なのか?
せめてスペシャルティと称する豆は、生産者の「志」を伝え、消費者の最後の一杯を濁さないような、プロと名乗れる仕事で販売をして頂きたい。
  

Posted by 設計屋 at 09:26Comments(2)TrackBack(0)珈琲の焙煎