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【社会】

母乳検査実施へ 「福島の子」喜びと不安

2012年2月3日 07時10分

寿羽ちゃんを見守る(左から)藤田政寿さん、寿弥くん、寿美さん=東京都江東区で

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 福島第一原発事故を受けて、福島県は二日、新年度に県民の母親約九千人を対象に、母乳に放射性物質が含まれていないか検査すると発表した。今回の事故で多い一〇〇ミリシーベルト未満の被ばくでは胎児や乳児に影響はないとされるが、数値を示すことで安心感につなげる。

 県の担当者は検査の意図について「基本的に母乳を乳児に与えても問題はないと考えているが、検査で母親の不安を解消したい」と説明する。県内在住者だけでなく、県外避難者も対象とする方向で検討している。

 新年度に、妊婦や乳幼児がいる母親を対象とした電話相談窓口を設け、出産の悩みや子育てに助言する。母乳を与えていることが不安だという相談があれば、母乳の提供を受けて民間の検査機関に委託する。

 放射性物質が検出された場合、授乳を続けていいか専門家の見解を伝える。

 検査費用は一人当たり約一万円。国庫補助を活用し全額助成する。県内の新生児は年間約一万八千人だが、粉ミルクを与える母親もいるため、県は検査対象は九千人程度とみている。

 福島県が二日、母乳の安全検査を実施する方針を打ち出したが、乳児への放射線の影響は本当にないのか。福島から東京に避難している家族は子どもが誕生した喜びの一方、不安な思いも抱えながら、子育ての日々を送っている。 (鷲野史彦)

 ベビーベッドですやすやと眠るわが子。「五体満足で生まれてくれて、ひと安心です」。東京都江東区の国家公務員宿舎「東雲(しののめ)住宅」で避難生活を送る藤田政寿(まさとし)さん(30)と、妻の寿美(かずみ)さん(30)は愛らしい姿に目を細めた。

 長女寿羽(ことは)ちゃんが誕生したのは、昨年十一月二十九日。二人の寿の文字を取り、「幸せに包み込まれて育ってほしい」と願いを込めた。寿羽ちゃんがぐずると、寿美さんは母乳を与えてあやす。

 「福島県の検査で妻の母乳が安全だと分かれば、少しは安心できるかな」。政寿さんは言った。

 政寿さんは福島第一原発から約七キロの福島県浪江町で、すし店を営んでいた。1号機が水素爆発した昨年三月十二日、妻と長男の寿弥(としや)君(2つ)を連れて、町の指示で津島地区の高校に三日間避難した。

 原発の北西約二十七キロにあるその高校は、空間線量が今年一月の測定でも毎時一四マイクロシーベルトあり、町内でも高い。だが当時は情報がなかった。

 寿美さんが妊娠五週と分かったのは、妻の実家がある江東区に避難した昨年四月初旬だった。

 いったいどれほどの被ばくをしたのか−。政寿さんと寿美さんは八月、福島県が実施する内部被ばく調査を受けた。寿美さんは未検出だったが、藤田さんからは一三六〇ベクレルの放射性セシウムが検出された。五十年間の生涯被ばく線量に換算すると〇・〇六三ミリシーベルトになる。

 不安にかられ、質問を繰り返す政寿さんに、調査担当者は言った。「体内になかったものがあなたに取り込まれたのは事実です。でも、この量なら胎児に影響はないはずです」

 内部被ばくを知ってから、政寿さんは結婚前に妻の母(58)に言われた話を思い出した。「寿美の父方の祖父母は、広島の原爆被爆者なんです」。当時十代だった祖父母は広島市内の爆心地から二〜三キロで被ばくした。

 祖父母に後遺症はなく、家族にも影響は出ていないのに、義母は打ち明けた。政寿さんは「原爆から七十年近くたっても、広島の人と家族になることは、原爆の影響も考えて受け入れるということなんだ」と思った。

 子どもの安全を考え、福島には戻るつもりはない。だが子どもたちが結婚する時、きっと義母のように言うだろう。

 「結婚相手には、自分が内部被ばくしたことや、子どもたちが『福島の子だ』と伝えたい。それでも受け入れてくれる人と幸せになってほしい。それが親の務めだと思うんです」

 子どもたちがいずれ出会う最愛の人は、福島の親の気持ちを分かってくれるだろうか。政寿さんは、二人の子を静かに見つめた。

(東京新聞)

 

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