こう言い換えろ→論文に死んでも書いてはいけない言葉30 読書猿Classic: between / beyond readers こう言い換えろ→論文に死んでも書いてはいけない言葉30 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
    を書いたとき、「あとは穴埋めしたら論文を出力してるものが作れないか」みたいな話があったので、作ってみた。

     何であれ、文章を書く骨法は、書きたいことではなく、書くべきことを(そしてそれだけを)書くことである。
     問題は何を書くべきかであるが、幸いにして、論文については後述するようにほとんど決まっている。
     
     結論から言えば、以下の表を埋めていくだけで、論文の骨組みができあがる。
     必要な項目は揃い、しかるべき順序で並ぶ。
     



     
     こんな簡単な穴埋め表がこれまであまり取り上げられなかったのは、わざわざ作るまでもないことも勿論あるが、その他にも次のような理由がある。
     つまり、こうした穴埋め表が、

    あなたは論文が書けないのではない。
    研究ができないのだ。


    という目の当たりにしたくない事実を突きつけてしまうからである。
     
     論文が書けなくて苦しいのは、文才が欠けているからでも、ことばの神様が降りて来てくれないからでもない。
     研究がうまくいってないのだ。
     
     実験はした、調査は終わった、データはある。だが書けない。何がダメなのか?
     
     研究の根っこにあたる部分、暗黙のうちに処理されることが多いけれど大切なことが忘れられている。
     研究の(書かれざる)半分は、それをより大きな文脈に繋留し位置づけることに費やされる。
     研究で得られたデータが、検証したい命題に結び付けられることで初めて生命を得るように、あなたの研究もまた、その分野の学術研究のコンテクスト(文脈)に位置づけられることで、命を吹き込まれる。言い換えれば、はじめて研究と呼ぶべきものになる。
     研究は、それが正しいことを自ら証明するだけでは十分でなく、それが必要かつ重要であることをも自身で示すことで、立つことができる。 何を証明すべきか、書き手自らに対して明らかにすることは、何を書くべきかを自ずから照らす。
     より大きなコンテクストで、より上位のレベルで必要なことが定まると、そのために書かなければならない、より下位レベルの項目が決まってくる。
     
     以下の穴埋め表は、論文を書くのに必要なことは何か、いま欠けているものは何かについて、埋まっていない空欄の形で示す。
     
     書き出しを決めるためのインスピレーションを待つ必要はない。
     空欄を、埋まるところから埋めていけば、何が足りないか、ならば何をしなければならないか、考え進めていくことができるだろう。
     
     何をしたら分からなくなったら、何ができていて、何がまだなのかを点検することから始めよう。
     
     これが、このささやかな穴埋め表の正しい使い方である。
     

    何故これらの項目が必要か?

     およそ論文ならば、主張を言いっぱなしにするのでなく、主張を証拠に基づいて論証しなくてはならない。
     論証の基本フォーマットはつぎの3つで構成される(論証の三角形)。
    ・クレーム(主張)
    ・データ(主張を支える事実)
    ・ワラント(データと主張を結びつけ、データによってどのように主張が根拠付けられるかを示す説明)

    (この枠組みを文章へ展開するには)
    (1)〜を明らかにしたい。〜だろうか。(検証命題の提示)
    (2)〜というデータが得られた
    (3)このデータからは〜と推測できる(〜と矛盾しない)。
    (4)したがって〜であると主張することができる。(先に提示した検証命題が論証されたという宣言)



     論文の論証は、この三角形が積み重なることでなされる。
     それぞれの論証の三角形を埋めるための質問から、今回の論文穴埋めシートは構成されている。
     以下に示す考え方で、論文を構成するための最低限の質問を抽出した。 
     
     論文で論証すべきものは、大きく分けて二つある。
     一つは〈この研究が正しいかどうか〉であり、もう一つは(必ずしも表面に出てこないが)〈この研究を行う価値があるか〉である。
     
     〈この研究が正しいかどうか〉は、2つの段階を経て論証される。
     1段階目は〈科学的方法が取られているか〉についてであり、得られたデータが信頼できるかどうかを示すことでもある。
     2段階目は、そうして得られた信頼できるデータから、どのような推論で論文の結論が得られるか(論文の結論が正しいと論証できるか)が示される。
     

     学術研究では、新しい知見を付け加えようとするものが、その〈住所表示〉を行う義務がある。
     ネットワーク状に結ばれた既存研究群に対して、今ここに発表する研究がどのように位置づけられるべきか、アンカーを打ち係留することは研究者自身が行わなければならない。

     研究の位置づけは、ふたつのコンテクスト(文脈)に対して行われる。ひとつは学術研究のコンテクストであり、もうひとつは(明示されないことも多いが)社会的コンテキストである。

     アリストテレス以来の古典的定義が、何と似ているか(どの類に属するか)+どこが違うか(種差は何か)の組み合わせで行われるように、学術研究のコンテクストに対する位置付けは、何についての研究か(どの分野の研究か?類似の研究は何か?先行研究は何か?)+どこが新しいのか(着眼点?対象?方法?)の組み合わせで行われる。対峙される先行研究を背景に置くことで、〈独自性〉(どこが違うのか?何が新しい貢献なのか?)を明確にすることができるのである。

     社会的コンテキストに対する位置付けは表立って触れられないことも多いが、これは研究を動機づける、そのそもの問題意識に関わるものである。単に「これまで誰もやってない」から研究してみた、というのでは「まだ穴が空いてないから掘ってみた」というのと同じことになる。
     
     以上から、論文を構成する論証の三角形は最低でも4つ(=2×2)あることが分かる。
     
     図にまとめると以下のようになる。
     

    proof3.jpg
    (クリックで拡大)



     個々の論証三角形について、簡単な解説は以下のとおりである。

    A. このデータは正しい
    ・(クレーム)このデータは正しい(得られたデータは信頼に値する)
    ・(データ)データの収集方法(実験手続、測定方法、統計処理の方法、実験回数など)…論文のMethods & Materials
    ・(ワラント)(データ収集方法が確立されている場合省略されることが多い)

    B.この研究は正しい
    ・(クレーム)論文全体の主張(検証命題)は正しい(「XXのモデルとよく一致した(あまり一致しなかった)」など)
    ・(データ)得られたデータ…論文のRsults
    ・(ワラント)データから言えること(推論)…論文のDiscussion


    (以下はまとめて、論文のIntroductionで)
    C.この研究は意義がある(学問的コンテキストに対する位置づけ)
    ・(クレーム)この研究は意義がある
    ・(データ)先行研究、検証しようとしている命題
    ・(ワラント)この研究で検証しようとしている命題は、先行研究での未解明点を@@の点で明らかにする/知見を加えるものである。

    D.この研究は必要だ(社会的コンテキストに対する位置づけ)
    ・(クレーム)この研究は必要だ
    ・(データ)社会的コンテキスト、この研究が加えるだろう知見
    ・(ワラント)この研究によって@@が明らかになることは、%%につながる。



    論文骨子の出力は下の本のヘルプシートを参考にした。


    理科系のためのかならず書ける英語論文―論文作成用ヘルプ・シート付き理科系のためのかならず書ける英語論文―論文作成用ヘルプ・シート付き
    (2006/03)
    藤野 輝雄

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    この本の形式の研究メモからヘルプシートをつくる穴埋めシートは以下。








    (参考)穴埋めシートの入力と出力

    (入力)導きの問い

    A. このデータは正しい(信頼できる)
    Q−A1−1.データはどのように収集しましたか?(どのような実験?測定?出典?)
    Q−A1−2.データをどのように加工しましたか?(どのような統計手法?表?グラフ?)

    B.この研究は正しい(根拠づけられている)
    Q−B−1.この論文で検証したいことは何ですか?
    Q−B−2.どんなデータが得られましたか?
    Q−B−3.データから言えることは何ですか?
    Q−B−4.この論文で明らかにできたことは何ですか?
    Q−B−5.この論文で明らかにできなかったこと、今後の課題は何ですか?

    C.この研究は意義がある(学問的コンテキストに対する位置づけ)
    Q−C−1.この論文のテーマに関連する先行研究にはどんなものがありますか?
    Q−C−2.先行研究によって明らかになっていることは、どんなことですか?
    Q−C−3.先行研究によって解明されていないことは、どんなことですか?
    Q−C−4.この論文は、未解明点についてどのような貢献ができますか?
    Q−C−5.この論文は何を明らかにする研究の一部(ひとつ)ですか?

    D.この研究は必要である(社会的コンテキストに対する位置づけ)
    Q−D−1.この研究は、どのような問題を解決するのに役立ちますか?



    (出力)論文骨子のフォーマット
    1.題名

    2.要旨
    2.1目的(要点)
    2.2方法(要点)
    2.3結果(要点)
    2.4結論(要点)
    2.5今後の課題(要点)

    3.序論
    3.1研究テーマ
    3.2研究の必要性
    3.3既存研究
    3.4未解明点
    3.5目的(要点)
    3.6方法(要点)
    3.7結果(要点)
    3.8結論(要点)

    4.方法

    5.結果

    6.考察
    6.1目的(要点)
    6.2結果(要点)
    6.3今後の課題(要点)
    6.4結論(要点)

    7.結論
    7.1方法(要点)
    7.2結果(要点)
    7.3結論(要点)


    入力と出力の変換
    1.題名
    1.1メインタイトル
    →Q−E−1.この論文は何を明らかにする研究の一部(ひとつ)ですか? 〈共通性:何と同じか?〉

    1.2サブタイトル
    →Q−E−2.この論文独自の着眼点は何ですか? 〈独自性:どこが違うか?〉

    2.要旨
    3.5目的(要点)
    →Q−C−5.この論文は何を明らかにする研究の一部(ひとつ)ですか?
    2.2方法(要点)
    Q−A1−1.データはどのように収集しましたか?(どのような実験?測定?出典?)
    2.3結果(要点)
    →Q−B−2.どんなデータが得られましたか?
    2.4結論(要点)
    →Q−B−4.この論文で明らかにできたことは何ですか?
    2.5今後の課題(要点)
    →Q−B−5.この論文で明らかにできなかったこと、今後の課題は何ですか?

    3.序論
    3.1研究テーマ
    →Q−B−1.この論文で検証したいことは何ですか?
    →Q−C−4.この論文は、未解明点についてどのような貢献ができますか?
    3.2研究の必要性
    →Q−D−1.この研究は、どのような問題を解決するのに役立ちますか?
    3.3既存研究
    →Q−C−1.この論文のテーマに関連する先行研究にはどんなものがありますか?
    3.4未解明点
    →Q−C−2.先行研究によって明らかになっていることは、どんなことですか?
    3.5目的(要点)
    →Q−C−5.この論文は何を明らかにする研究の一部(ひとつ)ですか?
    →Q−C−4.この論文は、未解明点についてどのような貢献ができますか?
    3.6方法(要点)
    Q−A1−1.データはどのように収集しましたか?(どのような実験?測定?出典?)
    3.7結果(要点)
    →Q−B−2.どんなデータが得られましたか?
    3.8結論(要点)
    →Q−B−4.この論文で明らかにできたことは何ですか?

    4.方法
    Q−A1−1.データはどのように収集しましたか?(どのような実験?測定?出典?)
    Q−A1−2.データをどのように加工しましたか?(どのような統計手法?表?グラフ?)

    5.結果
    →Q−B−2.どんなデータが得られましたか?

    6.考察
    6.1目的(要点)
    →Q−C−5.この論文は何を明らかにする研究の一部(ひとつ)ですか?
    →Q−C−4.この論文は、未解明点についてどのような貢献ができますか?
    6.2結果(要点)
    →Q−B−2.どんなデータが得られましたか?
    6.3今後の課題(要点)
    →Q−B−5.この論文で明らかにできなかったこと、今後の課題は何ですか?
    6.4結論(要点)
    →Q−B−3.データから言えることは何ですか?
    →Q−B−4.この論文で明らかにできたことは何ですか?

    7.結論
    7.1方法(要点)
    Q−A1−1.データはどのように収集しましたか?(どのような実験?測定?出典?)
    7.2結果(要点)
    →Q−B−2.どんなデータが得られましたか?
    7.3結論(要点)
    →Q−B−4.この論文で明らかにできたことは何ですか?




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