去年は40代アーティスト再評価の年でもあったと思う。時流に左右されない確かなスタンスと経験と実績に裏付けられた活動。失われない音楽への情熱と冒険心。岡村靖幸もそんな一人だった。7年ぶりの新録音となった2枚のセルフカバーアルバム「エチケット」はともにオリコンチャートのトップ10入り。東名阪のライブも成功、目下、全国アンコールツアー中だ。
80年代は、10代から20代そこそこの若い才能がそれまでとは違うリアルでみずみずしい青春を歌った時代だ。
岡村靖幸が渡辺美里への楽曲提供で注目されたのが20歳。翌年、21歳でソロデビューした。ほとんどの楽器を自分で演奏する多重録音。デートやキス、そしてセックス。思春期特有のひそかな欲望や性への好奇心。部活や生徒会、家庭教師など、身近な題材を会話調を交えながらの奔放な歌詞にアメリカでも新しい波だったニューファンクに対応した激しいダンスパフォーマンス。86年のデビュー直後に渋谷公会堂で見たステージの印象は強烈だった。自分でも収まりのつかないようなエネルギーと衝動があふれ出る型破りさは、スタイルこそ違え、先に世に出ていた尾崎豊の初ホールライブと重なり合った。
それから26年。彼は46歳だ。どこまでやれるのだろう、という懸念は杞憂(きゆう)だった。ほぼ歌いっぱなし、踊りっぱなしの約2時間半。ホーンセクションやパーカッションも加えたバンドの生演奏のグルーブと一体になった歌や動きの快感は打ち込み系ダンスミュージックにはない。更にギターやキーボードも披露、多才さを見せつけていた。年齢や状況を克服する気迫や覚悟。オーラは変わらない。“鬼才”は復活した。“鬼才”も“天才”も元は同じだ。2月8・9日、新木場STUDIO COASTが最終公演になる。1月11日、SHIBUYA‐AX。(音楽評論家・田家秀樹)
毎日新聞 2012年2月2日 東京夕刊