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東証トラブル:最新システムもろさ露呈

システム障害についての会見を終えて深々と一礼する東証の
鈴木義伯専務(中央)=東京都中央区の東証で2012年2月2日午後5時33分、石井諭撮影
システム障害についての会見を終えて深々と一礼する東証の 鈴木義伯専務(中央)=東京都中央区の東証で2012年2月2日午後5時33分、石井諭撮影

  東京証券取引所で2日午前、「アローヘッド」と呼ばれる株式の売買・情報配信システムに不具合が発生し、241銘柄が売買停止になったシステム障害が起きたのは、予備の正常な装置に自動的に切り替わらなかったためだ。過去のトラブルを踏まえ、東証が2年前、満を持して導入した最新鋭の高速取引システムのもろさを露呈した格好。市場関係者からは「海外投資家らの信頼が低下し、日本株離れが進みかねない」との懸念が出ている。【岩崎誠、大久保渉】

 「発注済みの取引はどうなるのか」「再開のメドはたっているのか」。東証のシステム障害で取引が停止した2日午前、大手インターネット証券会社の松井証券のコールセンターには顧客の個人投資家から数百件に上る問い合わせが殺到した。東証のコールセンターにも苦情や問い合わせが約150件あった。

 障害の原因は、株価などの情報を証券会社や情報配信会社に伝える「情報配信システム」で、サーバー8台のうち1台(6号機)に異常が発生したためだ。東証によると、2日午前1時27分ごろ、6号機で情報を処理する装置に不具合が発生したことを監視システムが感知。担当者は2時半ごろ、6号機の予備の機器2台に自動的に稼働が切り替わったと判断した。だが、実際はシステムが誤って切り替え完了と判断しており、7時40分ごろ、切り替えがされていないことが判明。東証は8時45分ごろ、予備の2機に手動で強制的に切り替える作業を実行した。

 東証は当面、システムが切り替え完了を伝えても、担当者が手動で切り替える臨時の対応をとる。東証は「万が一同じことが起きても適切に対応できる」と強調したが、市場では「高速化された売買システムに管理体制が追いついていない」との指摘も出ている。

 東証が10年1月に稼働させた「アローヘッド」は、1件で2~3秒かかっていた証券会社からの注文処理を0・002秒程度まで縮めた。高い利益を求めて頻繁な注文を繰り返す投資家が増え、高速システムを整備しないと投資マネーを呼び込めず、証券取引所の国際競争に後れを取りかねないためだ。一方、情報を処理する装置の不具合は、アローヘッドの稼働後、今回も含めて計5回発生しており、さらに予備機への自動切り替えがうまくいかなかった問題が新たに表面化した。

 東証はシステムを設計した富士通とともに原因究明を急ぐが、カブドットコム証券の河合達憲チーフストラテジストは「東証はアローヘッドに対し、世界最高水準の高速性とシステムの安定性を求めているが、300キロのF1カーで安全に急カーブを回ろうとしても難しいのと同じ」と指摘している。

 ◇国際的存在感低下の恐れ

 今回のシステム障害が東証に与えるダメージは大きい。東証の取引が低迷する中、外国人投資家などの「東証離れ」が進むと、東証の国際的な存在感が一段と低下する恐れがある。東証は、国際競争力強化のため、13年1月に大阪証券取引所と統合する方針だが、統合の柱であるシステムの一本化にも不安材料となりかねない。

 「外国人投資家にあきれられてしまう。同じようなトラブルが再発すれば、外国人投資家の日本株離れが一気に進む」と危ぶむのは三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘投資情報部長。

 日本の株式市場は取引の6割以上を占める外国人投資家の動向が与える影響が大きい。世界の市場に投資する外国人投資家が「東証は海外の取引所と比べて安心できない」と判断し、同じアジアの中国・上海やシンガポールなどの証券取引所にシフトしていくと、東証の地盤沈下がさらに深刻化しかねない。株式の売買代金で東証は10年まで2年連続で上海証取を下回り、世界4位にとどまった。11年は中国の景気減速もあって上海を上回ったが、今回の障害が逆風となりかねない。

 東証によると、ニューヨーク証券取引所でも昨年、システム障害が4回発生したが、東証のシステム障害は大規模な売買停止に発展しただけに痛手だ。

 また、東証が大証と経営統合するのは、投資家を呼び込むために多額の投資が必要なシステムを一本化するためだ。今は現物株式とデリバティブ(金融派生商品)でともに別のシステムを使っており、東証と大証は一本化による合理化効果を年間70億円と見込んでいる。現物株式は東証、デリバティブは大証に一本化する方向で協議しているが、今回のシステム障害で東証への一本化が投資家の不安を招く可能性がある。

 東証は、経済成長で証券市場の発展も見込めるベトナムやインドネシアなどとの提携を模索し、「アローヘッド」の売り込みも検討している。だが「今回の問題が海外展開の障害になりかねない」との指摘も出ている。

毎日新聞 2012年2月2日 21時00分(最終更新 2月2日 23時18分)

 

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