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社説:放射能汚染石材 使用の実態解明を急げ

 福島県内で、放射性物質に汚染された石材が、マンション建設や小学校の通学路、農業用水路の補修工事などに使われていた。石は、県内の業者が東京電力福島第1原発事故に伴う計画的避難区域に指定された浪江町内で保管していた。

 同じ採石場から、約5200トンの石が流通した。国や県は、汚染の実態解明を急ぐとともに、放射能にさらされるおそれのある住民らの救済を図る必要がある。

 問題の石材は県内の砕石会社が原発事故後、計画的避難区域に指定される昨年4月22日までに出荷した。その石を材料にした生コンは、建設会社約200社に出荷された。

 石の一部が、昨年7月に完成した二本松市内の賃貸マンションの土台に使われ、1階床から屋外より高い放射線量が測定された。同じ砕石会社の石を材料にした同市内の農業用水路からも周囲より高い放射線量が測定されている。

 汚染された石材が、どこでどれだけ使われたのか。住民の安全対策を講じるためにも、まず実態の解明を急ぐ必要がある。

 県は、同じ採石場から出荷された石材を使った住宅や道路など全建造物を対象に、放射線量を測定する方針だ。対象は数百件にも及ぶという。住民の不安を考えれば、作業の長期化は避けたい。迅速な調査には国の支援が不可欠だ。

 特定避難勧奨地点近くには他にも砕石業者がある。国や県は、そうした業者から汚染された石材が流通していないか、調査を徹底すべきだ。

 昨年7月には、汚染地区で保管された稲わらが流通し、それを食べた肉牛の放射能汚染が表面化した。今回も構図は同じだ。石材でも同様の事態がありうるとして、国や県が迅速に対応していれば、被害の拡大を抑えられた可能性がある。

 後手に回った行政の責任は大きいといわざるを得ない。経済産業省は昨年末、二本松市内のマンションで高い放射線量が測定されたとの報告を受けたが、調査を始めたのは今月10日ごろだった。認識の甘さを露呈した形だ。

 汚染が確認されれば、被ばく防止の対策が必要になる。遮蔽(しゃへい)措置で十分なのか、撤去せざるを得ないのか、放射線量を見極めながら万全の対応を講じるべきだ。二本松市のマンションでは、入居している12世帯のうち10世帯が、被災地から避難してきた人たちだ。希望者への代替住居あっせんなど救済を急いでほしい。

 住宅などの建て替えが必要になれば、その賠償も大きな問題になる。国や東電、関係事業者が責任を押し付け合い、救済が遅れることがあってはならない。

毎日新聞 2012年1月18日 東京朝刊

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