2012年2月2日03時00分
■三浦知良(横浜FC)
プロになって27年目のシーズンがやってくる。淡々と開幕を迎えながらも、「今年こそはもっといい成績を」という気持ちだ。毎年、その繰り返し。完璧な年なんてない。
2月で45歳だが、「その年齢であそこまでできるのはすごい」という言われ方は嫌。自分のプレーでチームに生産性をもたらすことができるし、観客にも喜んでもらえる。そう思うから続ける。
「試合は大変ですか」とよく聞かれるけど、毎日、グラウンドに立つことの方が大変になっていく。スピードも切れも落ちてきているが、そこは経験の見せどころ。例えば、練習で若い大卒3年目ぐらいのDFに1対1で僕が勝つ時がある。終わった後に必ず尋ねる。「あの時、なんで取れなかったの?」と。「1歩目のスピードが速かったから」という答えが返ってくれば、練習方法が間違っていないと確認できるし、何を大事にしていけばいいかを発見できる。
年齢を重ねて、トレーニング法、取り組み方など、すべて変わってきているし、やればやるだけマイナスになるときもある。ただ試合にベストを持っていくのは同じ。20年前から何も変わらない。
Jリーグ発足は日本サッカー界にとって分岐点。日本代表に初めて外国人監督のオフト氏を迎え、韓国、中国、北朝鮮に勝てるようになったのも、初優勝した広島のアジアカップも1992年。プロ化と代表が絶妙なバランスで進歩していったのを思い出す。僕にとって92、93年は特別な年だ。
20年で10クラブが40クラブになった。どこも経営に苦労しているし、世界的に見てももうかるクラブは少ない。でも、Jリーグの掲げる地域密着の理念を考えたら成功したといえる。
最初の頃は、地方にいっても観客の9割ぐらいはヴ川崎の応援だった。今は地元サポーターが多いし、はっきりとした色を持っている。おらが街のクラブとなった。これから先は経営をどう広げられるか。日本という枠を超えてアジアに出ていかないと難しい。
今では欧州よりJリーグのほうが厳しい部分もある。日本でうまくいかない選手でも欧州で十分できる選手も増えている。本人のやる気さえあれば、日本でもどこでも成長できる。結局は自分次第。どこでプレーするかより、自分が何をするか。海外に行けばいいわけではない。
取り組み方や意識の違いで、1日や1週間では変わらなくても、1年たてば大きく変わる。私生活を含めて、積み重ねが大事。そこに若い選手が気づくのには時間がかかるけど。
毎日毎日、毎週毎週が評価されていると監督に言われても、実感できないのが日本の現実。個人で責任を持つプレッシャーがかけられていない。そこが成長の妨げになっている。
18歳でプロ契約したブラジルではメディアで試合ごとに評価され、悪ければたたかれる。ドイツでプレーする長谷部も周囲からの見られ方が明らかに違うと話していた。日本にいる選手はかわいそうとも思う。危機感を本当の意味で持てないんじゃないかなと。
ありがたいことに、僕にはずっと見られている意識がある。観客、メディア、チームメートや対戦相手が緊張感を与えてくれるから成長できる。
出場試合数や記録にこだわりがないのは昔から。数字はわかりやすいから怖さも知っている。こだわっているのは「90」。90分間、試合に出ること。試合にたくさん出たい。そのなかで質の高い、僕にしかできないプレーをやりたい。
自分という選手は一つの商品のようなものと思っている。プロと言えば、カズさん。難しいけど、そう言われるようになりたい。(構成 編集委員・潮智史)