2012年2月2日03時00分
日本酒に関する知識全般を問う「日本酒検定」の4級に昨年、合格したのは、東京都杉並区の小学4年生新倉茜音(あかね)さん(10)だ。
検定は、1990年設立の「日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会」(東京都北区・略称SSI)が2010年から実施している。SSIは、利き酒師の資格も認定している民間団体で、塩川正十郎・元財務相が名誉会長を務める。
日本酒検定は難易度別に6段階に分かれ、マークシート式の筆記試験で審査。においをかいだり口に含んだりする利き酒はない。
新倉さんが、最も易しい5級に合格したのは8歳のとき。SSIは「史上最年少の快挙」と位置づけ、ホームページ上で発信した。複数の民放テレビ局が注目し、母(38)が営む小料理屋をともに切り盛りしながら「将来は立ち飲み屋をやりたい」と語ったり、香りをかいで日本酒の銘柄をあてたりする場面が、テレビで放映された。
新倉さんはその後も、「子ども天才料理人」として、酒の肴(さかな)のレシピ本など、親子で3冊を昨年末に出版している。
SSIの板場正義・事務局長は「未成年者に資格を与えることについては事前に協議し、『消費の低迷が続く業界立て直しのために、若年層へ訴求力ある対策は不可欠』と踏み切った。早くから酒の魅力を知ってもらい、未来のファンを育てたい」と話す。
昨秋に都内で催した毎年恒例の利き酒会では、子どもが対象の「ちびっこ日本酒検定」を初めて導入し、簡単な筆記テストをした。
こうした動きに異論が出始めたのは、昨年春以降。ネットの掲示板に「受験資格に年齢制限を設けないのはおかしい」という書き込みが相次いだ。
業界関係者の間でも、賛否両論の声がわいた。
反対派は「未成年飲酒を誘発しかねない」と年齢制限を主張する。日本酒普及のイベント企画を手がける会社社長、中野繁さん(66)は「『絶対運転しないから』とせがむ子どもに免許を発行するだろうか。知識や技術が身につけば試したくなる。昨今の子役ブームに便乗する話題作りは公序良俗違反」と手厳しい。
賛成する関西の老舗蔵元の管理職は、「酒造りは元々世襲制で、未来の当主は幼いころから蔵へ出入りし、酒かすを口に含んで伝統の味を引き継いできた。地域の産業を担う一員として歓迎したい」と話す。
一方、日本酒造組合中央会は「民間の活動にコメントする立場ではない」とした上で、「CMなどのモデルには子どもを絶対使わず、子どもが興味をひきそうなキャラクターやタレントの起用さえ『未成年飲酒を連想させる』として固く禁じている」と、酒の広告宣伝に厳しい自主基準を設けていることを強調する。
新潟県酒造組合は、独自に「清酒達人検定」という資格制度を設けている。難易度は3段階で、テストには利き酒もあり、未成年者の受験を認めていない。
国立病院機構久里浜アルコール症センター(神奈川県横須賀市)の樋口進院長は、絶対反対の立場だ。「アルコールに興味を持たせる宣伝広告で、最も効果が高いのは未成年層だと、これまでの研究ではっきりしている。口に含まなくても未成年者の受験は反対です。再考を促したい」(高橋美佐子)