長年、依存症の治療に取り組む田辺等・北海道立精神保健福祉センター所長(精神科医)によると、災害後、被災地でギャンブル依存症が増加することはよくあるという。「ギャンブル依存症やアルコール依存症、また、その傾向のある人は、被災生活が長期化すると症状の再燃や悪化のリスクが高くなる。本来、自分が能力を発揮すべき仕事や学業、家族関係が失われ、仮初めの生活をしている情けなさや将来への不安などが長く続くことで、アルコールやギャンブルを使いたい気持ちが高まる。また、治療のために通う当事者グループへの参加が、災害によって途切れてしまうと、リスクがさらに高まるからです」と指摘する。
ギャンブル依存症とは、気分が晴れず、自尊心の失われた状態の時、賭け事に勝って刺激を受け、それが習慣化して、賭け事をやらないと気が済まない状態になること。生活資金などを投入してしまうため、問題化し、二度とやらないと誓っても、家族に隠れてまで続けることから「否認の病気」とも呼ばれる。
どう治療するのか? 田辺所長は「まずは依存症を治療している病院や精神保健センターを訪れ、専門家に判定してもらうこと。本人と家族が依存症だと受け入れる作業から治療が始まります」と説明する。その後は「専門家のアドバイスを受けながら、依存症患者の当事者グループに根気よく通い、生活スタイルを切り替えていく。ギャンブルをしなければいいのでしょう、と本人が思うだけでは決して回復しない」と強調する。
被災地では「保健師やボランティアが、依存症を判定するチェックリストや相談窓口のチラシを配るほか、生活が破綻した依存症患者やその家族が頼る債務相談窓口の司法書士らと依存症の専門家が連携していくことも有効」という。同県ではすでに司法書士のグループがギャンブル依存症の専門家を招き、学習会を開くなど対策を始めた。
だが、被災者の心のケアに取り組む別のボランティアは「被災者と一口に言っても、生命保険や義援金を受け取った人から、仕事を失って何の補償もない人まで懐具合はさまざまです。パチンコをしていたとしても適度な範囲なら息抜き。ボランティアの立場で、被災者のお金の使途を聞き出すことは困難です」と、難しさを説明する。
午後7時。同じ店を再び訪れると店内は順番待ちする人まで出ていた。中学生ぐらいの女の子が、誰かを捜している。出玉の箱を5箱積み上げていた女性の所へ。短く言葉を交わすと女性が1000円札を手渡した。女の子の顔が一瞬、悲しそうにゆがんだ。
店を出た女の子に追いついて「お母さんなの?」と声をかけると、うなずいた。「1000円もらったよね?」「『隣でご飯を食べておいで』って。あそこのレストランに行くところ」「お母さんは毎日パチンコに来るの?」「『パートに行く』と出ていくのだけれど……」。最後は消え入りそうな声だった。
誰かを責めて解決することはないだろう。被災地の闇をパチンコ店の青白いネオンが寒々と照らしていた。
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毎日新聞 2012年2月2日 東京朝刊