--政府・与党が進める「一体改革」をどう評価しますか。
◆消費税さえ引き上げれば現在の社会保障制度が維持できるという「幻想」を振りまいているという点で、非常に問題のある内容だ。実際に何の問題解決にもなっておらず、今のままなら仕切り直した方が日本の将来にとってはよっぽどいい。
--どこが問題なのですか。
◆現実を直視していない。高齢者1人あたりの社会保障費を現状水準で維持したまま高齢化が進展した場合、名目国内総生産(GDP)に占める社会保障費の割合は10年の24・6%から、54%まで上昇する。これをすべて消費税で賄うと、税率を58・8%引き上げなければいけない計算になる。こんな増税は不可能だから、社会保障費を大幅に削減しなければ制度はもたない。だが素案ではむしろ社会保障給付を拡充しており、方向が真逆だ。
--社会保障費はどこまで削減しなければいけないのですか。
◆高齢者1人あたりの社会保障費を現在の398万円から1980年並みの233万円まで4割強減額する。それでも消費税率は20%は必要だ。政府が厳しい数字を示すことで国民の論議を起こさなければならない。
--4割削減は政治も国民も受け入れ困難では。
◆年金のカットや、高齢者の医療費自己負担の3割への引き上げ、延命治療の見直しなど、厳しい改革が必要となる。試算はGDPの成長に従って社会保障費も増加していく前提だが、経済が成長して賃金水準が上昇しても、社会保障給付は据え置く制度を導入することも必要だ。これなら、成長に従って実質的な社会保障費を削減できる。50年後を見据え、社会保障の給付、国民負担、成長率の水準を定めるのが本当の一体改革だ。
--人口減少で成長の維持も容易ではありません。
◆ドイツのように、人口は減少していても、成長を維持できている先進国もある。決して難しいことではない。規制緩和によって企業の技術革新や競争力が高まる環境を作ることが必要だ。そのためにも、日銀が一段の金融緩和を行い、他国通貨に対して一方的に上昇してしまっている円を適切な水準に下げ、輸出の競争条件を韓国などと対等にすることが最低限必要だ。【聞き手・坂井隆之、写真・小出洋平】
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■人物略歴
74年東大農卒、旧経済企画庁(現内閣府)入庁。04年大和総研に入り、専務理事チーフエコノミストなどを経て11年4月から現職。東京財団上席研究員も務める。著書に「なぜ日本経済はうまくいかないのか」など。61歳。
毎日新聞 2012年2月2日 東京朝刊