〈ニュース圏外〉「ハッテンバ」危うい密室

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ハッテンバ「デストラクション」があった雑居ビル=昨年12月13日、東京都新宿区

 男性同性愛者向けの店が摘発された。法律のはざまで違法薬物や性感染症のリスクが広がる。

 東京・北新宿の閑静な住宅街に、その店はあった。5階建て雑居ビルの2階、テナント名が並ぶ看板に店名が書かれているだけで、何の店かはわからない。

 この店、「デストラクション」に昨年10月末の夕刻、警視庁の捜索が入った。「警察です。そのままにして下さい」。約40人の捜査員が店内に踏み込み、衣服を着けていない男性30人がその場に座り込んだ。

 警視庁は、店内のオープンスペースで男性客3人にわいせつ行為をさせたとして、当時の店の経営者の男(38)ら2人を公然わいせつ幇助(ほうじょ)容疑で逮捕した。大手企業社員や有名大学の学生を含む20〜40代の男性客25人がおり、潜入した捜査員5人の姿もあった。

 薄暗い店内は迷路のように入り組み、のぞき窓がついた個室と「ミックスルーム」と呼ばれるオープンスペースがあった。客は、店の受付で入場料1500円を支払い、タオルや性病予防用の避妊具を受け取る。シャワーを浴びた後、店内を回り、パートナーとなる男性を探す仕組みだ。1日あたりの利用客は約80人だったという。

 この種の店は、俗に「ハッテンバ」と呼ばれる。警視庁によると「男性同士の出会いを『発展』させる」ことに由来するなど、名の由来には諸説ある。以前は公園や駅など屋外が主だったが、10年ほど前から店舗型が主流になった。

 現在、全国に約170店あり、都内には新宿区を中心に約70店ある。常連の男性会社員(42)は「ネットでの出会いよりリスクが少なく、男同士の希少な出会いの場だ。まだ同性愛者に対して偏見を持つ人がおり、数年前に公園などで『ゲイ狩り』のような暴行事件が相次いだことも、店舗型のハッテンバが増えた理由だと思う」と話す。

 風俗店の届け出を義務づける風営法は、男女間の性的サービスが規制の対象になるため、ハッテンバは対象外となる。警察に立ち入り権限がなく、法律の谷間で監視の目が届きにくい、という。

 摘発された店は、創業10年あまりの「老舗」だったが、利用者の間では別の理由で有名だった。男性会社員は「性感染症のリスクや薬物がらみのうわさが絶えなかった」と打ち明ける。

 警視庁は一昨年から、この店をマークし、店を出た利用客への職務質問を繰り返した。一昨年1月以降、覚醒剤の使用や所持の疑いで約80人を逮捕したという。捜査幹部は今回の事件について「立ち入り権限がない中、公然わいせつ幇助容疑を適用したのは苦渋の選択だったが、薬物だけでなく、性感染症が広がる恐れがあった。何らかの規制が必要だ」と話す。

 一方で、首都圏の別のハッテンバ経営者の男性は「今回の事件は影響が大きく、死活問題だ。ほとんどの店はまめに清掃し、性感染症や薬物の持ち込みがないよう気を配っている」と反論する。業界関係者によると、事件以降、警察の摘発を警戒して、「完全個室化」する店が増えたという。

 差別の目にさらされやすい同性愛者たちの思いは複雑だ。同性愛専門の月刊誌「薔薇(ばら)族」の元編集長の伊藤文学さんは「ネットや店舗型ハッテンバなど出会いの場が広がった分、トラブルも増えたかも知れないが、ごく一部の話だと思う。今回の事件が同性愛者全体への偏見につながらないように願う」と話した。(奥田薫子)

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