深刻な産婦人科医不足の解消に向け、山梨大医学部付属病院など県内7病院が来年度から、統一した研修プログラムを設置し、これまで病院ごとに募集していた研修医を一括して受け入れることになった。各病院が得意とする分野を研修医が幅広く経験できる利点があり、大都市に集中しがちな研修医を呼び込むのが狙いだ。【曹美河】
研修医は、各診療科を経験する初期研修(2年間)の後、志望する専門の診療科で後期研修(3年間)を受ける。研修先を自由に選べる新臨床研修制度が04年に導入されて以降、全国的に研修医の地方離れが進み、県内の受け入れも低迷。特に産婦人科志望は全体数が少なく、現在県内の研修医は4人だけだ。一般的に研修後は受け入れ先の都道府県にとどまることが多いため、まずは研修医の確保が大きな課題となっている。
今回、統一プログラムを設置したのは、県内で産婦人科を持つ同大付属▽県立中央▽市立甲府▽国立病院機構甲府▽甲府共立▽山梨赤十字▽富士吉田市立の全7病院。
同大などによると、産婦人科は分娩(ぶんべん)のほか、婦人科腫瘍や不妊治療などの各分野を学ぶ必要があるが、現行のように1カ所の病院で3年間学ぶシステムでは、技術や経験に偏りがでてしまう懸念があった。
そこで新プログラムでは、3年間のうち同大付属と県立中央で1年ずつ研修、残る1年は5病院のいずれかで学ぶ。難しい症例が集まる同大付属や、高度な周産期医療が学べる県立中央、分娩数が年間800以上と県内最多の市立甲府など、それぞれの病院の特性を生かし、幅広く学べる環境をつくるという。このほか診療所での研修も検討中だ。
来年度からの運用に向け1月17日、7病院と県、山梨産婦人科医会の代表者が集まり、「産婦人科専攻医研修プログラム管理委員会」を発足。県の地域医療再生基金から助成を受け、具体的なプログラムの策定や全国への周知活動を進める。
管理委員会責任者を務める同大医学部付属病院の平田修司医師は「全病院が連携できるのは小規模県ならではで、全国にも例がない。地域の産科医療をこれ以上崩壊させないために、魅力的な研修内容で一人でも多くの研修医を確保したい」と話している。
7病院は2月25、26両日、県内外の医学生や初期研修医を対象に、プログラムの説明会と各病院の見学会を開く。
説明会は25日午前11時~正午、山梨大医学部キャンパス(中央市)で実施。その後、1泊2日の日程で7病院を回りながら、それぞれの特徴を知ってもらう。宿泊費は無料で、事前の申し込みが必要。
問い合わせは山梨大医学部産婦人科(電話055・273・9632)。
厚生労働省が2年ごとに行う医師・歯科医師・薬剤師調査によると、県内の産婦人科医(主たる診療科を「産科」「産婦人科」とした医師)数は、00年末の88人から、10年末は75人(約15%減)まで落ち込んだ。医師総数が10年間で1593人から1810人(約14%増)に増えたのに対し、産婦人科医の減少傾向は顕著だ。
県医務課によると、分娩ができる県内の医療機関は、7病院と8診療所。04年には24病院・診療所があったが、医師の不足などで約3分の2に減った。峡北と峡南地域には全くない状態だ。出産は時間を選ばないため拘束時間が長く、医療訴訟率も高いことなどから、若い医師が敬遠するのだという。
毎日新聞 2012年2月1日 地方版