さて、売れっ子ジャーナリストの上杉隆氏が、週刊朝日の紙上と自身のブログで、「産経新聞外務省担当A記者」について、いいかげんなことを書いています。現在、産経の外務省担当の常駐記者は私しかいませんから、これは私のことなのでしょうし、少なくとも他に該当者はいません。これまでも上杉氏は、なぜか、私について面識もなく知りもしないのに事実に反することを書いたり、しゃべったりしていて迷惑を被っているので、いい機会だと考えてこの際、反論するとともに、上杉氏の執筆手法に関して少し考えてみることにしました。
発端は、10月23日付の産経政治面に載った「週刊朝日に外務省抗議 『記事は事実と異なる』」という次の記事からです。順を追って説明していきたいと思います。
《外務省の児玉和夫報道官は22日の記者会見で、21日発売の週刊朝日(朝日新聞出版発行)に掲載されたジャーナリスト、上杉隆氏の記事「麻生『外交』敗れたり」は事実に反するとして、水嶋光一報道課長が同社を訪れ抗議し、訂正を申し入れたことを明らかにした。外務省が週刊誌報道に抗議するのはまれだ。
記事は、斎木昭隆アジア大洋州局長が米国による北朝鮮のテロ支援国家指定解除に関連し、担当記者とのオフレコ懇談会で「いい加減な記事を書くな」と激高したとあるが、児玉氏は「発言内容も激高したという点も、いずれも事実と異なる」と指摘。また、外務省幹部が「中曽根(弘文)外相ほど無能な大臣も珍しい」と述べたとある点についても、「幹部が上杉氏の取材を受けた事実は確認されず、信憑(しんぴよう)性は疑問だ。記事を掲載した週刊朝日の責任は重大だ」と語った。
週刊朝日は「筆者である上杉隆氏とも協議した上で、今後の対応を考えたいと思います」(山口一臣編集長)とのコメントを出した。》
これは、22日夕の児玉和夫報道官の定例記者会見で児玉氏が抗議の事実を明らかにしたことを受け、私が書いたものです。翌日の紙面では、産経のほか、朝日新聞が社会面で「週刊朝日に外務省抗議」という見出しで報じています。
まず、私が記事を書いた理由について2点を述べます。一つは、上の記事にある週刊朝日の上杉氏の記事で、外務省の斎木アジア大洋州局長がオフレコ懇談の席で「いい加減な記事を書くな」と激高したとある部分について、その懇談の場にいた私は斎木氏がそんな発言はしていないことを知っており、事実と異なるという点は外務省の指摘通りだと考えたことです。このコメントは記事の構成の骨格を成す部分でもあり、また、読者の関心もひく場面でしょうから、少なくともそこを外務省が否定したということを伝えることには意味があると思ったのです。それに、斎木氏は確かに不機嫌ではありましたが、激高などはしていませんでした。
もう一点は、外務省による週刊誌への抗議という行為自体が、仮に珍しいものであるならば、それ自体、一定のニュース価値があるだろうという発想からでした。そこで私は、記者会見の席で児玉氏に「外務省が週刊誌報道に抗議することはよくあるのか。それとも珍しいのか」という趣旨の質問をしました。児玉氏は即答は避け、後ほど調べて返答する旨答え、実際、しばらくして「自分が報道課長をしていたときは一度だけだった。極めてまれだと思う」と回答してきました。それとは別に報道課員からも、「調べたところ、過去2年間で2回だ」という電話がありました。とすると、多数の各種週刊誌が毎週発行している中で、1年1回程度の抗議であれば「まれ」の部類であり、記事を書く価値はあるなと判断し、抗議の事実関係だけを記しました。ただし、これはこの時点ではあくまで現場の私の判断であり、実際にデスクに採用され、紙面化されるかどうかは私には分かりませんでしたが、結局、翌23日の政治面に囲み記事として掲載されました。
さらに言えば、これには前段があります。現在、外務省記者クラブの幹事社(2カ月ごとに交替で回す世話係)は産経、日経、NHK、ジャパンタイムズの4社が務めており、この週刊朝日が出た21日に、外務省報道課から幹事社に非公式な接触がありました。それは、「記事内容が事実かどうかはともかく、オフレコ懇談の内容が週刊誌に出るのはまずいという話を一応、伝えます」ものでしたが、私はそのときに初めて記事をざっと読みました。そして、冒頭にある斎木氏のコメントを見て、「私もたぶんこの懇談の席にいましたが、こういう発言はありませんでしたよ。そういうテキトーな記事を元にわれわれに何か言われても困る」という趣旨のことを話しました。正直なところ、記事内容にも外務省がそれを気にしていることについても、この時点では関心がありませんでした。
その後、他の幹事社から「外務省が言ってきたことについてどうするか」という相談があったので、私は「真っ正面から取り上げるまでもないので、幹事社が聞き置く、ということでいいのではないか」と返事をしました。すると、結局、記者クラブの掲示板に外務省側の言い分が張り出されていたようですが、実はそれもろくに読んでいません。各方面に気を遣わなければならない報道課には申し訳ありませんが、私には「どうでもいいこと」だったからです。
そして翌日の夕方の児玉氏の記者会見となるわけですが、私は会見でわざわざ報道課長が週刊朝日まで行って抗議をしたと聞いて驚いたぐらいでした。そこまでやるのか、と。上杉氏の記事は、外務省幹部の匿名コメントを引用して「中曽根外相は無能」と書いているので、役人側もナーバスになっているのだろうと会見を聞きながら感じていたのを覚えています。これが私が記事を書くまでのざっとの流れです。
ところが、これに対し、上杉氏は翌週(28日発売)の週刊朝日で「『外務省が本誌に抗議』に反論する」という記事を書き、そこでやり玉に挙げられたのが産経と私というわけです(朝日も記事を書いたのにそれに対する言及は皆無です)。上のような一連の経緯が、上杉氏の筆にかかると次のようになります。
《「発売前日、産経新聞のA記者が盛んに煽っていました。報道担当に断固として抗議すべきだと――」(記者)》
…呆れるしかありません。大げさなようですが、天地神明に誓ってそのような事実はありません。私は至らない人間ですから、間違いは犯しますし、保身のために言いたくないことをなるべく言わずに済ませようとすることはないとはしませんが、嘘は大嫌いなのです。そもそも私には、外務省が週刊朝日に抗議するという選択肢すら、頭の中に全くありませんでしたし、そんなことにいちいちかかずらわっているほどの暇は持ち合わせていませんから。
これは、匿名の「記者」が話したという形式をとっていますね。仮にその記者が上杉氏の妄想ではなく実在していて、そう話したとして、その確からしさと真実性、脈絡を判断し、記事に書いたのは上杉氏なわけですから、その責任は上杉氏が負うべきものでしょう。A記者とぼかしてはいても、実際問題、私しかそこにいないわけですから、この記事を読んで「阿比留がそんなことをしているのか」と思った人もいることでしょう。万一、上杉氏が、私に悪意があるか、いたずら心を催したどこかの「記者」にだまされた結果だとしても、その迂闊さ、いいかげんさは否定できないものだと思います。一事が万事だとまではいいませんが、いま、雑誌やテレビでもてはやされている売れっ子ジャーナリストの取材・執筆手法は、果たしてこの程度のものなのでしょうか。
また、この2度目の上杉氏の記事は、斎木氏の懇談のもようを日時、場所も特定して細やかに描写し、前回の記事では書いていない斎木氏のコメントにも言及しています。おそらく、その場に居合わせたどこかの社の記者のメモが上杉氏の手元に入ったということだろうと思います。ただ、一方で外務省が抗議した最初の記事にある「いい加減な記事を書くな」と斎木氏が述べたという部分については、この反論記事では一切触れず、間違っていたともやはり正しかったとも触れないようにしています。その点については自信がなくなったのかもしれません。
それなのに上杉氏は今回、自身のブログでも「外務省報道課と一緒になって、ハシャいで攻撃してきた『産経新聞外務省担当A記者』も、事実関係、まちがってますよ~。ちゃんと取材してから、記事を書きましょうね」と私を挑発してきました。
私がいつ、「外務省報道課と一緒」になり、「ハシャいで攻撃」したというのでしょう。また、どこが事実関係が間違っているというのでしょう。これまで私は、たびたび上杉氏に、事実と異なるか、あるいは微妙に事実とずらした表現で取り上げられてきても「まあ別にいいや。この人も商売なのだから」と特に反論はしてきませんでしたが、今後は少し考え直すべきなのかもしれません。「ちゃんと取材してから」記事を書くべきは上杉氏の方ではないでしょうか。
第一、私は何度も上杉氏にあることないこと書かれてきましたが、一度も取材を受けたことも、話したこともありません。おそらくこれまでも、他紙の記者らから聞いた伝聞話を元に私のことも書いてきたのでしょうが、今回の週刊朝日の記事を見ただけでも、それがいかに怪しくいい加減なものか分かることだと思います。そして、そのいい加減な二次情報、三次情報、あるいは妄想がネットその他で独り歩きし、それが私への批判となって迷惑している現状もあります。
ちなみに、この2度目の記事に関し、産経新聞は広報部長名で朝日新聞出版の山口一臣氏と上杉氏あてに「訂正文掲載の申し入れ」を29日付で送りました。以下の内容です。
《御社発行の「週刊朝日」11月7日号に掲載された「『外務省が本誌に抗議』に反論する!」の記事には、読者に誤解を与える、一方的な記述、曲解が多々見られますが、少なくとも、以下の明らかな間違いに関しては、速やかに訂正文を掲載するよう求めます。
1.「発売前日、産経新聞のA記者が盛んに煽っていました。報道担当に断固として抗議すべきだと――」(記者)とありますが、そうした事実はありません。
2.弊社に対し、記事の最後に「ヒマな人たちである。」とありますが、弊社は御社からの《取材のお願い》に対して、きちんとお答えしたにもかかわらず、こうした記載をされるのは極めて遺憾です。ジャーナリストの良心に従い、撤回すべきです。
以上、速やかに対処されますよう要望致します。》
本来、私は争いを好まない平和的な人間(?)ですが、事実でないことを放っておいて、また既成事実化されたらたまらないなと考え直し、あえて挑発に乗って反論してみました。これについての判断は、当然のことながら、読んでいただいたみなさんにお任せするしかありませんが、そもそも事実関係が間違っているのだから、上杉氏には素直に謝罪・訂正してもらいたいと思います。
by iza0730
短信・鳩山前首相のことを「あ…