2012年2月1日03時00分
NHK朝の連続テレビ小説「カーネーション」が好調だ。大阪・岸和田を舞台にした“女の一代記”が視聴者を引き込むのは、従来の朝ドラにはない仕掛けにありそうだ。その魅力を、大阪出身の作家、柴崎友香さんと、テレビドラマ・映画「モテキ」監督の大根仁さんが語る。
■演技秀逸、「業の肯定」も新鮮 大根仁
――歴代ヒロインと今回の糸子は何が違うのでしょうか。
大根 芯の強さが尋常じゃない。自分で人生を切り開いて成長し、周りも成長させていくのは、見ていて気持ちいいし、かっこいい。でもやっぱり、尾野真千子の演技ですね。
柴崎 本当にうまい。娘時代、娘が3人いる時、その年代の顔にちゃんとなっている。
大根 元々長い下積みがある人。渡辺あやの脚本の良さもあり、ここ1カ月、演技が高みに昇華した「女優の奇跡」を拝見させていただいてる。映画でもドラマでも一番幸せな、従来の喜怒哀楽に当てはまらない「何見せられてるんだろう」という瞬間が毎朝あるんですよ。
柴崎 ここまで逆境をバネに成長してきたけど、子供を怒る立場になった。この先、人間としてどう成長するのかな。
大根 糸子は幼なじみで身を持ち崩した奈津を更生させる一方、自分は不倫する。善悪でない人間の業を肯定するストーリーは、朝ドラでは珍しいかも。
柴崎 登場人物はそれぞれ人として困ったところがある。でも、奈津が髪結いの玉枝だけに弱みを見せることで立ち直るように、家族以外の人に助けられていくあたり、いいですね。
大根 ケンカしても助け合う奈津と糸子の関係でいいのは、言葉での説明を抑えているところ。とても映画的だなあ。
柴崎 いろんな役者が面白いとこを引き出されている。小林薫は大阪のお父ちゃんらしい。頼りないお母さん(麻生祐未)も朝ドラではあまりみない。
■人の弱みや不在感、描き方がいい 柴崎友香
――脚本をどう見ますか。
大根 戦後になってからの脚本は、大震災、原発事故以降の日本の状況を意識して、前向きにどう立ち上がっていくかを書いているのでは。糸子と恋仲になる周防が、長崎で被爆して岸和田に来る設定は、震災前に見たとしたら感じ方が違うと思う。ドキッとしましたもん。
柴崎 渡辺さんは兵庫出身なので、阪神大震災後の実感、書きたいことを含めていらっしゃるのかな。それと、次々に人が死んでしまうけど、死ぬ場面が全然ない。それは戦場で家族が亡くなったのと同じで、いっそう不在感が出てる。ドラマを見返したら、おばあちゃんがだんだん弱っていくのがわかった。年をとる、老けていくこともテーマなんじゃないかなと。
大根 ストーリーが大きく動くとき、生きる活力やメタファーとして洋服やファッションが使われる。糸子が周防に「好きでした」って打ち明けるシーンで初めて洋服を着たでしょう。あれはうまい。
柴崎 娘3人に「ピアノ買うて」とせがまれたとき、自分もお父ちゃんに許されなかったことを思い出した。だから「いいよ」って言うんかなと思ったら「あかん」。意地を通すキャラの強さが面白い。
――映像はどうでしょう。
大根 テレビは効率を理由に絵(映像)にこだわってこなかったが、「ハゲタカ」や「龍馬伝」など、映画を超えるくらい良くなってきた。最近、NHKは攻めるドラマを作っていて、それが朝ドラにも結実しているのではないか。一番大変な照明に時間をかけている。夕日が差し込む土間で足を洗い、光の明暗が感情を表している場面のように、周防に恋してからの糸子を、スタッフがきれいに撮ろうとしているのがわかる。
――注文はありますか。
柴崎 3月から糸子を演じる夏木マリは大阪のお母ちゃんと違う感じ。どう演じますかね。
大根 いまのスタッフ力と脚本力だったら、大丈夫。普通のハッピーエンドとは違う終わり方になるかもしれないけどね。
(構成・井上秀樹、田玉恵美 写真・伊藤圭)