東日本大震災から10カ月余り。被害が大きかった東北3県からは県内に岩手県7世帯12人、宮城県30世帯65人、そして福島県47世帯100人が避難している(16日現在、県調べ)。被災地の状況はどうなっているのか。これまで熊本面では、岩手県宮古市、宮城県の現地の様子を伝えてきた。今回は地震と津波に加え、かつてない原発事故災害に苦しむ福島県いわき市を訪ねた。【勝野俊一郎】
今月18日午後4時過ぎ、JRいわき駅に降り立った。厳しい寒さを覚悟していたが、晴れているせいか予想したほどではなかった。商業施設や飲食店などが建ち並ぶ駅前は震災の爪痕は見当たらない。学校帰りなのか高校生らしい男女が談笑する姿も見かけた。ただ駅近くの地魚料理が売り物の居酒屋には、原発事故で地元の港が壊滅的状態に置かれていること、そのため日本海側から主に魚を仕入れていることを知らせる張り紙があった。
駅前に「グローバル・ミッション・センター」の堂前正吾さん(49)が迎えに来てくれた。同市のプロテスタント系教会を拠点に、炊き出しや仮設住宅訪問などを続けている団体のスタッフだ。
「震災が起きてしばらく、いわきは『陸の孤島』だったんですよ」。堂前さんは当時を振り返る。いわき市では多くの家で電気や水道、ガスなどが止まったばかりでなく、原発事故の「風評被害」で運送会社などのトラックも入ってこなくなった。商品がなくなったスーパーやコンビニはシャッターを降ろし、ガソリンが手に入らないため、街から車が少なくなった。避難所では生まれたばかりの赤ちゃんを抱えた夫婦が何日も風呂に入れないままの状態でいたという。
「いわきの人の中には原発事故の情報が正確に伝わらないため逃げる機会を逃したり、逃げる手段がなかったりした人もたくさんいる。震災後、東北の人は我慢強いといわれたが、いわきの人は不安のなかで怒る元気もなくなるほど疲れてしまったのではないか」と堂前さんは話す。
いわき市は福島県の沿岸部、福島第1原発などがある「浜通り」地域の中心都市。茨城県と接する広大な面積を持ち、映画「フラガール」の舞台となったことでも知られる。昨年3月11日の震災では約8万棟(非住家含む)に被害が出て、津波などで310人が死亡、37人が行方不明になった。一方、原発事故で古里を追われた他市町村の住民ら2万人以上が市内に避難し、仮設住宅などで暮らしている。
毎日新聞 2012年1月29日 地方版