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きょうの社説 2012年1月31日
◎NTNの拠点拡充 企業誘致のモデルケースに
ベアリング(軸受け)大手のNTNが石川県志賀町の能登中核工業団地に新たな工場を
設ける。同社は近く生産を始める工場を含めて羽咋市、宝達志水町、志賀町に4カ所の生産拠点を持っており、能登に産業機械向け軸受けの一大生産拠点を築くという。その経営判断の背景にあるのは、優れた品質の軸受け部品を製造する地元企業の技術力である。世界市場で競争するNTNのような企業にとって、品質は力の源泉である。その品質を 支える優秀な技術と人材が豊富な地域であると認められたことは心強い。NTNの拠点拡大をモデルケースとして、さらなる有力企業の誘致につなげたい。 NTNが2007年に能登に進出してきたのは、軸受けの主要部品である鍛造リングを 造る羽咋丸善(旧平鍛造)が羽咋市で操業していたからである。同社は大型で複雑な形のリングを強く精密に造る企業として知られ、部品の注文を受ける側の技術が発注元を呼び寄せた形である。 その後、NTNが能登で次々と工場を設けたのは、地元で採用した従業員が勤勉なこと に注目したからであろう。リスク分散の観点から今回、三重県や関西の拠点の生産を能登に移すのも人材確保が大きな決め手となった。鈴木泰信会長が県庁で能登の生産拠点拡充を表明した際、地元の従業員について「粘り強く笑顔がいい」と評価したことでも、人材が重要であると分かる。 コマツが粟津工場を強化し、金沢港に工場を新設したのも、地元に優秀な企業と人材が 集まっているからである。世界で競争に勝てる品質を実現するには、最高水準の技術と、熟練の人材を持つ石川県の協力企業が欠かせない。規模は小さくても、きらりと光る企業が集積していることはもっと知られてよい。 優れた企業と人材の存在は進出企業の撤退を抑える歯止めにもなる。製造現場では、団 塊世代の退職に伴い、生産技術の継承が課題になっているという。学生が進路を考える際、ものづくりの世界が選択肢となるように、授業に工場見学をとり入れるといった試みが増えていい。
◎水資源保全の立法化 安全保障へ一定の枠必要
民主、自民両党が、国内の水資源を保全するための議員立法をめざしている。外国資本
による水源地の森林買収が相次いでいることへの危機感からようやく腰を上げた格好であり、今国会での成立を求めたい。両党が準備する法案は「水循環基本法案」で、水を「国民共有の財産」と位置づけ、国 と自治体に保全の政策と規制を義務付けるものである。問題は水源林だけではなく、例えば北海道では、自衛隊駐屯地周辺の土地が外資に買収される事例が生じている。さらに、土地の戸籍調査ともいわれる「地籍調査」が全国的に遅れ、地主不在、所有者不明の土地が増えるなど、国土を守っていく上で危うい状況が進行している。 土地売買という経済活動は原則自由であり、外資による積極的な投資は、経済活性化の ためにも望ましい。ただ、国土の保全と安全保障のために土地取引に一定の枠をはめる必要もあろう。グローバルな市場経済の進展と安保の兼ね合いを図る観点から、土地取引に関する法律、制度を点検し、不備を改めてもらいたい。 森林の売買については、今年4月から改正森林法が施行され、これまで届け出の必要が なかった1ヘクタール未満の売買も市町村への届け出が義務付けられる。しかし、事後の届け出のため、自治体の中には条例で規制を強化する動きもみられる。地下水採取や水源地周辺開発を許可制にした町が既にあるほか、事前の届け出制の導入を検討しているところもある。外資の水源林買収に対する危機感、警戒感は自治体の方が強い。 また「外国人土地法」の問題点も指摘されている。大正時代に制定された同法では、国 防上必要な地区での外国人の土地取得を政令で制限できることになっている。実際には政令がないため法律として機能していないのだが、WTOルールなどに基づく自由経済の下で、同法を適用するのは現実には困難という認識から、自民党などで、安全保障上重要な土地の売買規制や公有化を進める新たな法整備をめざす動きもある。政府も検討すべき課題である。
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