福井県の関西電力大飯原子力発電所改修工事を巡る偽装請負事件で、職業安定法違反容疑で逮捕された太平電業大飯事業所長(当時)、一瀬秀夫容疑者(58)は「会社として全国の原発で長年やってきたこと」と供述している。これを裏付けるように同社が全国の原発などの事業所30カ所以上で偽装請負をしていることを示す資料も見つかっている。偽装請負横行の背景に、放射線被ばくという原発作業特有の事情と、労働者の安全管理責任を回避する企業の姿勢が透けてみえる。
捜査関係者によると、一瀬容疑者らは10年3~9月、下請けの高田機工(福井県高浜町)を通じ、指定暴力団工藤会(北九州市)関連会社の社員を同原発改修工事に派遣し、太平電業の指揮下で働かせた疑いがある。
太平電業の高橋徹社長(65)は任意の事情聴取に「大飯事業所長に請負契約の権限を委譲していた」と話したが、偽装請負の認識については否定しているという。福岡、福井両県警は30日までに太平電業を職安法違反容疑で書類送検した。
原発は年1回程度の定期検査に大量の作業員が必要になる上、作業員は被ばく線量の上限を超えると現場で働けなくなる。一瀬容疑者や同社幹部は「自社で多くの従業員を雇うことはできないので違法と知りながらやっていた」と話しているという。人員調整が容易で安価な労働者が集めることが可能な手段として請負契約を使っていたというわけだ。
原発労働に詳しい萬井隆令(よろいたかよし)・龍谷大名誉教授(労働法)によると、本来の請負契約は、請負会社が引き受けた仕事を自社が従業員を指揮して完遂させ、発注会社から報酬を得る。
請負契約では、労働現場の安全や衛生についての責任は発注会社は負わず、請負会社だけが負う。一方、労働者派遣法に基づく労働者派遣は労働者が発注者の指揮下に入れるが、発注者にも使用者責任が生じる。
偽装請負は、労働者の大量動員と使用者責任の回避が横行の理由とみてよさそうだ。
原発での偽装請負は、発注会社に請負会社の従業員を派遣し、発注会社の指揮下で働かせるケースが多いが、労働者個人が請負契約を結ぶ「個人請負」や、個人を事業主に仕立てて請負契約を結ぶ「事業者扱い型」もあるという。いずれも職安法などに違反する。
一方、労働者にとっては、雇用主が発注会社より小規模で労働条件も決めることができないため、トラブルがあったり処遇に不満があったりしても泣き寝入りせざるを得ないのが実態だ。作業による被ばくとがんなど病気の因果関係が立証されても発注者の使用者責任は問いにくい。大量の労働者が必要な高線量の被ばくを伴う作業では、電力会社やメーカーにとって都合のいい「使い捨て」の労働者となるのが実態だ。
枝野幸男経済産業相は事件を受け、各電力会社に対して法令順守と暴力団排除対策を指示した。厚生労働省も「各労働局に調査を指示しており、結果をみて対応を考えたい」としている。しかし萬井名誉教授は「偽装請負は昔から横行しており、国が本気で排除に取り組んだら原発は動かなくなる。本来なら電力会社や元請け会社が作業員を直接雇用する以外にないが、その覚悟がどこまであるのか」と疑問視する。
2012年1月31日