Wikileaks によって 4月 5日付に公開された " Collateral Murder "
'07 年 7月 12日にイラクのバグダード郊外で起きた、
『米軍攻撃ヘリによる民間人への攻撃映像(実機のガンカメラ映像と無線交信の音声)』 を確認検証してみました。
事件への政治的追求は当事国メディアにお任せするとして、映像と交信をネットユーザーなりに追ってみます。
なお映像は実際の攻撃を実行した米陸軍の攻撃ヘリ AH-64 アパッチに備わる TADS(目標の捕捉や照準指示を行う高機能カメラ・他)によって撮影・記録されたもの。
なお、殺害された方達のなかには 2 名のロイター社現地スタッフがおり、ロイター社は発生直後から公式に映像などの資料を要求していましたが、拒否されていた内容であったようです。
当然この映像は軍または米国防省の公式な発表ではなく、匿名の関係者から内部告発を行う市民団体 " Wikileaks "にもたらされたもの。 現在も米当局は沈黙を守っていますが、ロイター社の確認によれば、(匿名の)米国防総省の関係者はビデオが本物であることを認めているとのことでした。
題名の " Collateral Murder(コラテラル・マーダー) " とは、単語としては「従属的な殺人」を意味するでしょうが、恐らく'02年ハリウッド映画の題名「コラテラル ・ダメージ(" Collateral damage ")」=「国家目的のための、やむを得ない犠牲」をイメージさせていると思えます。
" Collateral damage "
" an expression meaning people who are hurt or property that is damaged as a result of war, although they are not the main TARGET, used especially by the Army, Navy etc. "
「主要な標的ではないにも関わらず、特に軍隊などによる戦争がもたらすものとしての人的被害あるいは物的損害のこと」
音声は米軍内通信であるため、コールサインや略称など、単に英語というだけでなく一部難解な会話となっています。
ざっと拾って対照してみました。
コールサインなど
" Hotel Two-Six "「ホテル トゥーシックス」
" Crazy Horse One-Eight "「クレイジーホース ワンエイト」
(単に " Two-Six " " One-Eight " と略する場面もあり)
これには AH-64 アパッチ 2機が該当し、実際の攻撃も全て同機が行っています。
なお状況からは " Crazy Horse One-Eight " 機の取得映像と思われます。
" Bushmaster〜 "「ブッシュマスター・〜」
には、地上部隊の各ユニットが該当。
交信からは " Bushmaster Six " 「〜・シックス」が地上管制と指令を担当し、 " Bushmaster Six-Romeo " 「〜・シックス ロメオ」が 同隊の指揮部署となっているように感じました。
その他の交信中表現についての概略
" Roger(ラジャー) " については「了解」と判ると思いますが、" Copy(コピー)" も応答時の類義語で " i hear you " に相当、日本語では「(了解)〜、こちら〜」が該当します。(略している場面も多々ある)
" AK47s "または" RK "
通称「エー・ケー」または「カラシニコフ」軍民問わず、反西欧勢力などに蔓延る軍用ライフルとその派生型
" RPG "
通称「アール・ピー・ジー」同上、ライフルのように個人携行できるロケットランチャーとその派生型
" Engage "または" Engaged "
交戦または発砲(の許可)
" Brad "または" Bradley "
(米軍の)「ブラッドレー」歩兵支援戦闘車両
" Humvees "
民生型の HUMMER ( H1 系)でも広く知られる、米軍の汎用車両「ハンヴィー」
" we see two birds "
交信中では 2機の AH64を指す
" KIAs " [Killed In Action]
(合法的な「戦争」行為の結果であることに敬意を払い)敵味方を問わない「戦死(者)」を意味するが、テロや偶発的な戦闘に巻き込まれた場合にも用いる、米軍用語
" evac " [evacuate]
避難させる・ 緊急搬送
" grid " [map reference]
軍事用の地点座標 MGRS
" dismounts "または" dismounted element "
歩兵部隊
" PIDed " [Positively IDentified]
明確な識別
" Hellfire "または" kilo "
「ヘルファイア」 AH64 に搭載される空対地誘導ミサイル
" November "
通信中ではヘルファイアの目標 一種の軍隊用語
" BACKSCATTER "
通信中ではAH64の管制モニター警告
" BDA " [Battle Damage Assessment]
軍隊用語における戦闘(損傷)評価
" IPs " [Iraqi Police]
イラク警察
blip.tv wikileaks より
CollateralMurder (ロングバージョン映像:要 Quick Time )
http://blip.tv/file/3449769
位置情報の取っ掛かりとなったのは、 Full Version 映像における 5:32過ぎの交信
" Uh, location of bodies, Mike Bravo five-four-five-eight eight-six-one-seven "
つまり現場の MGRS値を「 MB54588617 」と報告している点から。
場所がバグダード近郊であるなら、グリッドは 「 38SMB54588617 」であるはず。
結果として、通信内容から現地の明確な位置が判明しました。
33°18'49.57"N,44°30'42.40"E(33.313769, 44.511778)
Google maps における対照地点
http://maps.google.com/maps?f=q&source=s_q&hl=ja&q=33.313769+44.511778&mrt=loc&ie=UTF8&geocode=h&t=h&z=16
映像冒頭に戻ります
何らかの情報錯綜?ロイター記者らが乗るミニバンは、現着直前から既に「目標」視されています
そもそも「ターゲット」は「地域」で、そこに居る人間・車両は全て「敵」認識。 という印象
Google Earth で映像を再現。 緑ピンが冒頭に映るモスクの尖塔、青の矢印がミニバンの進行(南下)です
時系列では飛びますが、このミニバンを瞬間的にマツダ「ボンゴ( Bongo )」と認識する発言に興味を持ちました。
画像を確認したところ、同車は確かに日本国内での上位グレード(やや長大)の「ボンゴ ブロウニィー( Bongo Brawny ) GL スーパー」に該当する極めて類似の車両ですが、さらに厳密にはマツダがフォード向けに OEM 供給する「スペクトロン ( Spectron ) 」もしくは「エコノバン( Econovan =米国内モデルにはない、オセアニア向けモデル)」でした。
車両前部の破損は、銃撃後に米軍装甲車「ブラッドレー」が引っ掛けたため
二車の外観にはエンブレム以外に差異がなく、「ある意味」米国人である彼らにとって「フォード」ではなく「マツダのボンゴ」と映ったのは当然でしょう。
「フォードの米国内モデル」では、同世代の OEM 車両でもフェイスデザインが異なります。
マツダ インドネシア工場におけるオセアニア地域向け「エコノバン( E-Series =バン・トラック)」と、米国内モデルの「フォード スペクトロン(ワゴン=ミニバン)」フェイスデザイン。
何にせよ、この世代の 1 BOX 形式車両は日本メーカーだけでも複数社・多モデル、そしてそれぞれが極めて近似型なはず。 多少クルマに詳しい男性でも、映像越しに瞬時に見分けられる人は少ないでしょう。
それとも、米国内ではこの形式の車両を「ボンゴ」と総称するのでしょうか??
ここまで正確に見分ける「視認性」を持ちながら、望遠レンズ付カメラを " PRG " と誤認することには、やや疑問を感じずにいられません。
画像を見る限り、私にはロイター記者らのそばに居た「太ったシマシャツの男」と「細身で長身の男」が手に持つ物は、不鮮明ながら「 AK と RPG 」にも見えましたが、逆にだとしたら(映像の比較類推からも)カメラマンの構えるそれは全く別物、「カメラか何か」と直感できます。
望遠レンズ付カメラを RPG と誤認?興奮しつつ、強い危険性を訴える AH64
一方の地上部隊は 「そいつが正面やや右手に居るのは見えるが、他には何もない」 と全く冷静
交信から、「先頭のブラッドレー」が交差点の角から顔を出すカメラマンを視認していた可能性は高い
その(やや上空)視点を Google Earth 上で再現
臨戦態勢には見えない「敵」を、一刻も早く制したい?その間一分足らずで射撃は許可される
ズームの効いた映像からは、攻撃ヘリがそばに居る危険性に気付かない?と思えるかもしれませんが・・・
画像位置を Google Earth 上で再現
射撃音〜着弾の時差を換算すると
攻撃ヘリには、この程度の高度がありそうです。(映像から方位角を概算し、該当距離までアンズーム)
当時のバグダット上空には常に米軍機がいたでしょうし、この距離では着弾するまで発射音など聞こえない。
その死の瞬間まで、何が起こったかすら判らなかった犠牲者も居たでしょう。
掃射に使われた「 M230 30mmチェーンガン 」は、一見細身の機関銃のように見えますが・・・
口径が5mm小さい・連射速度はずっと遅い、同系 M242 25mmチェーンガンの威力
bradley 25mm blows up car in iraq
他社の新型ですが、同口径の機関砲としてはこの威力
Future Weapons - Bushmaster Mk44 (airburst)
着弾周囲数メートルの破片ですら、死亡もしくは重症を負うのは明らかです。
ジャーナリストの魂が宿ったのか? Namirさんの遺されたカメラには、その瞬間が記録されていました。
専門家ではありませんが、これは戦闘に巻き込まれた「偶発的な悲劇」などではなく、やはり「戦争犯罪」に該当するように思えます。
ただ・・・この手の事件・事例は、どうやら数え切れないほど膨大にある模様。
本件は「ロイター社の(イラク人)スタッフ」が犠牲となったことで、より広い関心・衆目を集めたようでした。
むしろその他多くの事象は、その場に居合わせた兵士達自身が良く知っているはずです。
「検問所で射殺した2000人のうち“敵”は60人だけ」(映画「リダクテッド」より)
米イラク駐留軍 2年間の集計による事実。もちろん犯罪性を訴追されたものは一件もない。
「こんな人間になってしまって、本当に恥ずかしい。幸せで、自信をもって、人生を楽しんでいた子どものころの僕のことだけを覚えていてほしい。」
自殺したイラク帰還兵の遺書(メモ)
「君にも両親にも言いたくないことがある。心配させたくないから。それに、言ったって、たぶん話を大げさにしているとしか思わないだろう。戦争にはもう絶対行きたくない。一生頭にこびりついて離れないようなひどいことを見たし、自分でもやった。」
イラク帰還後、自殺した兵士が恋人に送った手紙
一方では彼らと彼らの社会にも、善悪論だけでは通じないジレンマがある。
国益に反する?米メディアの大半が無視した、イラク従軍兵 証言集会の映像。
どんな事実があったにせよ、それらは全て「コラテラル ・ダメージ」。
彼ら自身が探り、伝え、告発しない限り、永久に謎のままでしょう。
Collateral Murder
http://www.collateralmurder.com/
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