山形のニュース
原発事故賠償、東電提案 山形観光業界に波紋
福島第1原発事故による観光業の風評被害の賠償をめぐり、東京電力から山形県側に示された賠償案が波紋を呼んでいる。対象を米沢市に限ったことに不満が集中する一方、放射性物質の影響が少ない山形で風評被害を認めたことを評価する声もある。県側はあくまで県全域での賠償を求める方針だが、千葉県のように一部地域の賠償を優先させた例もある。
<「資料反映されず」>
25日に示された賠償案は、米沢市の観光業者に対し、昨年3〜5月に生じた解約や予約控えによる減収などを賠償する、との内容。同市が対象になったのは「福島県と近接している」という地理的関係が理由だが、県内業者からは「実態を見ない机上の論理」と批判されている。 温泉施設の利用実態を反映しているとされる入湯税の納付額を見ると、昨年3〜5月の平均は、米沢市で前年から43.8%減った。これに対し蔵王温泉がある山形市は前年比49.0%減、銀山温泉がある尾花沢市は同49.2%減で、減少率は米沢市以上だ。 25日の東電と県側の会合でも、出席した観光業者から異論が噴出。県旅館ホテル生活衛生同業組合の佐藤信幸理事長は「東電の提案には入湯税や売上額など我々が提出した資料が全く反映されていない」と憤った。
<他地域へ突破口に>
一方、佐藤理事長は今回の賠償案を「前進」とも受け止める。 これまで、観光業の風評被害の認定には、観光客が旅行を敬遠したくなるような放射性物質による実害が、事実上必要とされていた。山形県は空間放射線量が低く、農産物の出荷制限もないため、風評被害を認めにくいと見られてきた。 今回、地理的関係が認定の理由に採用されたことで、県内の他の地域でも風評被害が認められる余地が出てきた。佐藤理事長は「米沢は突破口」と今後の交渉に期待する。 原発事故による観光業の風評被害の賠償では、東電が今月、政府の中間指針で対象とされた福島など4県以外で初めて、千葉県の太平洋沿岸16市町村を対象に加えた。 千葉県も山形県と同じく県全域での賠償を求めていたが、昨年12月に東電から賠償案を示され、即座に合意。他の市町村の交渉は続けているが、千葉県観光課は「一部地域でも賠償を受けることを優先した」と説明する。 山形県でも一部地域の賠償を先行させる可能性はある。米沢市のある温泉旅館の経営者は「数百件のキャンセルで相当な損失を受けた」と賠償を歓迎する一方、「うちだけが賠償を先行してほしいとは言えない」と複雑な心中を明かした。
◎山形知事「県内全域認めるよう要請」
山形県の吉村美栄子知事は30日の定例記者会見で、東京電力が福島第1原発事故による風評被害の賠償対象地域に県内の一部を加える案を示したことに対し、「事故の影響は県内の広範囲に及び、被害も大きい。一部地域のみの認定は不十分」と述べ、県として受け入れられない考えを示した。 県旅館ホテル生活衛生同業組合は県全域の賠償を求め東電と協議しているが、25日の会合で東電側は米沢市のみを対象とする案を提示した。吉村知事は寒河江市の観光サクランボ園や山形市の蔵王温泉の観光客減少などについて言及した上で、「一部地域が示されたのは第一歩。今後東電に対し、県内全域を認めるように要請する」と話した。
2012年01月31日火曜日
|
|