第六話-こうして弾丸と幸運の天使と巡り会った-
クーデターより3年――
アルトの士官学校に入学から卒業の一年間はそこら中からやっかみが飛んできた。
一応アルトは市民出身とされ、一年間の体験入学として、ルフト准将が校長のトランスバール皇国軍中央士官学校へと入学した。
年齢は一応17歳として――
身体は19歳のままであったし、183cmの長身だが童顔のアルトは17歳でも大丈夫だった。
アルトは戦場で培った生きた経験の土台があった為、実技は成績優秀だが、問題は科学や技術を除いた座学がかなり赤点ギリギリだった。
しかしたったの一年間体験入学など初めての事例、さらに入学したのがその年の卒業組だった。そんなだから様々な噂が飛び交って、そんな特別扱いを受けたアルトを一部の貴族の子弟やエリート気質の強い連中にはかなり絡まれた。
だがアルトは持ち前の頭を使いのらりくらりと嫌がらせややっかみを退き、座学も少しずつ追いつかせ、卒業間際には普通に他の同期と同じレベルに勉強を追いつかせ、最終的には中央士官学校次席での卒業となった。
もう二生分の知識を頭に叩き込んだアルトは勉強なんか真っ平御免だと思いながら、アルト・チェリー少佐として軍務に着く事になるのだが問題発生。
士官学校を卒業した途端に辺境に飛ばされたのだ。
それは中央のバカ貴族や軍上層部が、アルトが白き月に戻るのを嫌ったからだ。
ゴースト部隊やフリッケライオーキスを接収して調べようとしたが自動迎撃システムが作動したりして被害が続出したのを、アルトの仕業だと証拠もないのに言い張って未だ内戦が勃発中の辺境惑星へと飛ばしたのだ。
それにガトー中将やルフト准将が気づいた時には既に人事部で書類が通った後だった。
ルフト准将はともかくガトー中将ならばその権限でなんとかならなくもないのだが彼は軍人としてはアルトに育って欲しくもあり中央では逆に危険だろうと判断し、アルトは第2方面軍惑星サーペントへと配属された。
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生い茂るジャングル特有の蒸し暑さに汗を流しながらアルトは分隊支援火器込みの完全装備を担いで、同僚と行軍していた。
時に皇国歴410年12月のことであった。
右目に眼帯をするアルトは8ヶ月間このジャングル惑星と寝食を共にした古参組の1人として生きていた。
この惑星サーペントは、第2方面軍領内でも辺境にある星の60%がジャングルのジャングル惑星である。
今より約三十年前にトランスバール皇国軍の支配下に入った。
現地の中央政府はクロノクェイクによる多くの科学技術の喪失により宇宙への道を断たれ、その失政を問う各地の地方政府や反政府組織などとの内戦に明け暮れる日々を、もう300年前から続けている惑星なのだ。
未だに決着が着かない理由は――
「このジャングルだな。十中八九」
アルトは1人愚痴を漏らした。
そう、ジャングルを巧妙に使ったゲリラ戦で反政府勢力は中央政府軍と300年も戦っているのだ。
「距離300。三時の方向に三人だ」
アルトが網膜に投影された各種モニターを確認しながら短く小さく告げる。
二年前に右目の視力を失ってから、ただ眼帯をするのは無駄と思い、眼帯にMuv-Luvの戦術機に使われている高解像度網膜投影システムや精密照準用の電子機器を一括にした眼帯を開発してそれを着けているのだ。お陰で、右目は機動兵器のコックピットさながらの映像を移し出していた。
さらに白き月で開発した衛士強化服装備まで上着の下に着込んでいる為、歩兵としてはかなり反則技を使っている。
「へえ、良く見分けましたね。その眼帯欲しいですよ」
「高いからやらん」
隣に身を潜めている三十代後半のベテラン下士官と軽くお喋りするくらいならば、アルトも余裕が持てるくらいに戦場慣れしてきた。
「それにここまでやっておいて、見つけられずに無能とか役立たずにされたくはないからな。私とて死にたくはない……。右を殺る」
「自分は左を」
「じゃあ、私が真ん中だね。外すんじゃないよ、少佐殿」
そして、そのベテラン下士官の隣には、背はかなり高いがスタイル抜群の、着飾ればかなりの美女になるであろう赤い髪の若い女性准士官がいて、彼女も同じ様に銃を構え照準を合わせていた。
サイレンサー着きのアンチマテリアルライフルを撃つアルト。
分隊支援火器をジャングルで使って当てられるのは機械の恩恵が大きいが、決してセンスが無いワケではない。でも中級が良いところとはアルトの師匠談――
鬱蒼と木々が繁り、様々な動物が泣き声をあげるジャングル内に三発の銃声が響き渡った。
「右、沈黙確認」
「中央、沈黙」
「左、沈黙」
追加の銃声がしないという事は、彼ら全員が一発で敵を仕留めたという事であり、とりあえずの戦闘はこれで終了したという事であった。
「生体反応ゼロ」
「外さなくなったね。褒めてあげるよ、少佐殿」
「それは私に対する皮肉か?フォルテ・シュトーレン曹長」
「まぁ、そんだけゴテゴテ装備してりゃあねぇ…」
衛士強化服装備のお陰で分隊支援火器を平気で持ち運びピンポイントで中てられる装備をして外しましたは、余程のへっぽこだと、アルトの師匠は言うのだった。まぁ、2ヶ月前までそのへっぽこだったのだが――
アルトの師匠――フォルテ・シュトーレンは、幼い頃に反政府ゲリラの無差別攻撃で全ての家族を失い、自身も片目の視力の大半を失っていて、左目に付けているモノクル-片眼鏡-はその時の名残りであった。
以後孤児院に居たのだが、彼女の星も内戦状態で、人並みに食える職業といえばやはり軍人になる事であり、彼女もその掟に従った。
ただ、彼女が普通の他の人と違った所は、縁あってとある人に引き抜かれたことで、トランスバール皇国辺境軍学校に入学した事であった。
3年前のクーデターで軒並み人手不足になった皇国は、自国のために働く人に対しては積極的に門戸を開いていたので、フォルテは辺境軍の運営する軍学校に入学し、卒業後一兵卒から血の滲むような努力をして曹長の地位を得ていた。
そしてフォルテは、自分が世話になった人物が、お世話になりお世話した人物に銃とゲリラ戦のイロハを教えるという奇妙な縁でフォルテとアルトの縁は繋がったのだった。
「シュトーレン曹長」
「何だい?チロル伍長」
「隣で、カスフ軍曹と阿部一等兵が……」
「そうかい……」
敵ゲリラの屍骸――約一名はアルトの所為で上半身が挽き肉に変わってしまった。を確認していたチロル伍長が、自分の通信機に入ってきた情報を自分の上官に伝える。
「これで、当初からの生き残りは……」
フォルテは、またしても戦死してしまった部隊派遣当初からの同僚の死に表情を曇らせる。
この地に赴任した当初は新人隊員であった自分が、今ではこの小隊の指揮を執っている現状からして、この戦場が地獄そのものである事は誰にでもわかる事実だった。
一週間の平均生存率が55.5%の、地獄のサーペント戦線――
この嫌な数字が、この惑星の全てを物語っていたのだ。
「ッ!?」
目を見開いて頭を急に下げ、中途半端な体勢でアサルトライフルを片手で連射したアルト。
「いきなりなんだい少佐殿!?」
いきなりで身構えたフォルテ。
当のアルトは一息吐いて腰を上げた。
「敵だ。頭に一発中てられた、生きてはいまい」
アルトは事務的に答えた。
8ヶ月のジャングル惑星生活は否応なくアルトに子どもである事を完膚なきまでに否定して粉砕して撃砕した。
故にアルトは大人の面を鍛えた。子どもの心を似非偽物で塗り固めた。
故に一人称も『俺』ではなく『私』であり喋り方も随分変わったのだ。
「少佐殿!ちょっと!」
先ほどと同じ様に死体の確認をしていたチロル伍長が、アルトを手招きで呼び寄せる。
「どうしたんだ?伍長」
「このゲリラの死体なんですがね。おかしいですぜ」
「何がおかしいんだい?伍長」
「いえね、シュトーレン曹長。どうもこいつは、この星の人間ではないようでして……。まあ、それなりの偽装はしているんですがね……」
この隊――今更ながら名をゴルゴーン隊と言い、隊でもかなりの古株であるチロル伍長は、すぐにその偽装を見破っていた。
「傭兵ということか?」
「まさか。この星の内戦で、そんな連中は見た事がありませんよ。それに、中央政府軍の懐具合ならいざ知らず、ゲリラ共の懐事情では……」
皇国軍の支援がある中央政府軍ならば可能だろうが、300年以上も内戦を続けているこの星に、他惑星の傭兵を雇う余裕など存在するとも思えない。
中央政府であれば無理をすれば可能なのであろうが、反政府勢力のゲリラ達の財政状況に、それを望むのはかなり酷であろう。
「まさかな――だとしらた余程の暇人と見える」
「少佐殿…?」
顎に手を当てて1人ゴチるアルト。
それから二時間ほどで本日の戦闘は終了したのだが、アルトはそれから一言も口を利く事は無かった。
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「少佐殿は、気難しいですね」
「そう言うなチロル伍長。彼は今までの腰掛けのお飾りエリート達とは違う。ちゃんと我々のために、骨を折ってくれているじゃないか」
「だから、曹長殿が直々に銃を教えているので?」
「機械頼りだけど、筋も良いからね」
戦闘終了後の夕刻、後方の仮設基地に下がったフォルテ達は、簡単な夕食を済ませて食後のコーヒーを楽しんでいたのだが、アルトは唯一人ぽつんと焚き火の近くに座り、投影型端末をいじっていた。
「お昼の件ですかね?」
「だろうな」
一時間ほど前にフォルテは司令部に、『今日殺したゲリラの中にこの惑星外の人間がいる』と報告を行ったのだが、司令部からの返答は『敵も戦力強化の為に傭兵を雇い始めたのであろう。以後、気を付けるように』という通達のみで終了していた。
「明らかに無かった事にしたいようですね。上に連中は……」
「鍵を知るは、チェリー少佐殿のみ……か」
アルトは、フォルテ達にとって謎のある人物であった。
経歴を見ると、トランスバール皇国中央士軍官学校を次席での成績で卒業していて、将来を嘱望されたエリートのはずであり、こんな場所に長居をするような人では決してなかった。しかし一年間の体験入学と備考欄に記載されているわ、8ヶ月前は本当に少佐で見るからに軍人には不向きな……正直ガキ臭すぎるなよっとして頼りなく見えたが、それはすぐさま克服したように別人に生まれ変わるわ、とにかく頭が周りメカに強く、物資が足りなければ時間が少し掛かるが必ず要望の物を持ってくるなど、さらに強化服装備なりかになりと正規軍には出回っていない装備が数多くゴルゴーン隊には――正確にはアルトとアルトがいるシュトーレン分隊には数多く配備されている。
フォルテも迷彩服の下には衛士強化服装備を着ていた。
この衛士強化服装備はどういうわけか、ピッチリのボディスーツみたいなクセして防刃防弾は完璧で、しかもパワーサポーターも付いていて、幾度かフォルテも命を救って貰っている。
有り難いがきな臭い。それがフォルテのアルトへの評価だった。それでもボンボンで使えないエリートや貴族様の何百倍も、信頼も信用も置けるのは伊達に8ヶ月を共にしている。
この部隊に中央からエリートが派遣されてくる事もあるのだが、それは彼らが中央で出世をするための箔付けであり、普通は平均で一ヶ月間前後ほど、サーペントの首都にある司令部で書類仕事をこなすだけであった。
『某○尉殿は、あのサーペント戦線に派遣され――』
表向きはそういう事になっていたが、彼らが前線に出るはずもなく、フォルテ達が彼らの顔を拝んだ事などは一度としてなかった。
ところが、アルトもといチェリー少佐は違っていた。
彼は、『ゴルゴーン隊前線司令部歩兵団長』という、いまいち良くわからない役職で赴任して来て、常に自分達と同じく戦場で命を懸けていたからだ。
始めは、『高級士官のエリート様が、何しに来やがったんだ?』という態度を示していた隊員達であったが、彼は今までのエリート連中とは一線を画していた。
彼は、わからない事があれば部下に頭を下げてでも教えを請い、常に最前線で命を懸け戦った。
味方の戦死者が居る夜には1人で空を見上げては冥福と鎮魂を祈る涙を流す姿も見かけられている。
そして『歩兵団長』という立場を生かして、最前線で苦労する隊員達のために、補給物資の工面や状況把握、待遇の改善等も積極的に行い、武器弾薬の帳簿一覧もすべて記憶し適切に運用し、現地改修類の仕事も引き受けていた。
上に睨まれる事も恐れずにだ。
おかげで彼は、最前線で戦う隊員達の絶大な信頼を得る事に成功していた。
それは無論、フォルテも同じであった。でなければ、彼女が恩人の口添えでも直接銃を彼に教えるはずもなかったからだ。
「少佐殿は、あまり自分の事を話しませんからね」
「私が、探りを入れてみようかねぇ?」
「そうですね。一応は、曹長殿も女ですからね」
「『一応』!は、余計だっての!」
フォルテはもう一つコーヒーを淹れたカップを持つと、無言のままで焚き火の炎を見つめているチェリー少佐の正面に座った。
「シュトーレン曹長か…」
「少佐殿、邪魔するよ」
「かまわないさ」
「元気がないんだね。ほら、これでも飲みなよ」
フォルテがチェリー少佐にコーヒーを渡すと、彼はそれに一口だけ口を付ける。
「で、何があったんだい?あの時からおかしいよ。少佐殿は」
「そうだろうか?」
「一目瞭然だね。ねえ。何があったんだい?世の中には、話せば楽になるって事もあるんじゃないのかい?」
「『知らぬが仏』という諺-ことわざ-もあるのだがな」
「……確かに、少佐殿の言う通りかもね。でもさ、私もあんたがただの嫌味なエリート殿ならこんな事は決してしなかったさ。『勝手に悩んでろ!』で、終わるだろうしね。でもあんたは他の連中とは違っていた。あんたは、私達の事を懸命に考えてくれた。私達の為に上に噛み付く事までしてくれた。だから……」
「これは、あくまでも私の推論と憶測と仮定と状況証拠からの、私の独り言だが――」
その長くセリフまわしな一言で、フォルテはレイトンが大切な事を語ろうとしている事を理解する。
そしてそれを察したのか、二人の近くにいた多くの隊員達は静かに自分達の寝床へと戻って行く。
皆、人生に苦労している連中ばかりなので色々と察してくれたのであろう。
「シュトーレン曹長。皇国の紅い彗星……噂は知っているか?」
「ああ。3年前のクーデターの時に、本星衛星軌道上の『白き月』から出て来た『死を振り撒く白い悪魔』、『皇国の紅い彗星』は、この第2方面軍で知らないやつは居ないだろうさ」
3年前のクーデター時――
世間ではジータマイア大将が英雄視されているが、あの日あの場に居た軍人達は皆知っている。
一機の戦闘機がクーデター艦隊左翼のを七割を食い荒らした伝説――『皇国の紅い彗星』又は『死を振り撒く白い悪魔』。
その影響で今まで大艦巨砲主義だった皇国軍では皇国始まって以来の新型機動兵器の開発ラッシュと戦闘機ブームであるのだ。
公式記録ではその活躍も存在も隠すように抹消されているが、人の口に戸は建てられず、多くの私用映像データや噂と共に語られていた。
実際フォルテも映像データを目にする機会があったが、正直頭がイカれてるか、頭のネジが100単位でぶっ飛んでいるやつにしか思えなかった。敵艦隊の横っ腹からだろうが、艦隊を一気に3/4突っ切るアホが居るのかと――
「アレはな、先史文明EDENの技術を転用した機動兵器だ。1/4くらいな」
「つまりロストテクノロジーの塊…」
「そういうわけだ。3/4は新技術の塊だがな。アレを平和の象徴、白き月が用意していた。大問題だ。軍上層部は焦るな。しかもそれに乗っていたのは皇国人でもましてや『人間』ですらない、白き月の中から発見された『機械人形』だ」
「は?アレが、あんなことをプローブみたいなヤツがかい?」
偵察用なり戦闘用プローブは、様々な組織が斥候用として使用することも多い。しかし機械だ。
紅い彗星の機動も挙動も確かに人間の物だった。
「そいつはナノマシンの集合体で、ナノマシンが生体パーツを産み出して人の形を取っている。機械なのに生きているのさ。しかし生きて意思のある機械が何をするか怖かった者達はその機械人形を封印しようとした。だが――」
アルトは言葉を発しながら、星が煌めく海を見上げた。
その目は真っ直ぐ、見えないはずの白き月を捉えていた。
「月の聖母様がそいつを救った。以来機械人形は白き月、ひいては聖母様の為に尽くした。しかし代わりに面白くなかったのが軍上層部や公爵貴族達だ。クーデターの時にも最高副司令官を隣りにして聖母様へ出撃許可を願った」
「おいおい……よく死ななかったねえ」
「最高副司令官殿が庇ったからさ。……クーデター後に短期間自らに足らない所を補った機械人形は、再び白き月へ尽くす思いだったが、それを良しとしない連中が、機械人形を辺境へと追いやったのさ――」
アルトはコーヒーを一気に煽り飲み干して立ち上がり身体を伸ばした。
「この私、アルト・チェリーをな――」
これで色々の合点がいった。
「中央の刺客……か」
「おそらくはな…」
しかし状況証拠なら十分過ぎる。
「戦闘機乗りの英雄様が、悲しいもんだねぇ」
「世の中など大概はそうだ。疎まれれば讃えられもする。特に貴族やエリートにはな」
確かに戦時のどさくさに少佐となったアルトではあるが、そのこと自体に後悔はない。少佐という身分は准尉相当官の非正規階級よりもちゃんとはっきりした権限を行使出来れば、トランスバール皇国にて宙ぶらりんのアルトにちゃんとした居場所というものを確立する物でもあった。
それにやっかみを飛ばすのはバカな無能とつまらないプライドの塊で貴族だから平民だからと見下すどうしようもないアホ貴族ぐらいだ。
だから今まで知らん顔もしてこれたし、辺境に居ても白き月にちゃんと代行者も残してある為、研究も抜かりはない。
しかし亡き者にしようと刺客を送られるのは勘弁願いたかった。
「8ヶ月……案外短くも長い間だったな、こんな長い間一部隊に留まったのは初めてだ」
大体が2、3ヶ月くらいで次の任地に鞍替えしていた。
理由は刺客だ。
自分が狙われるのは構わないが、アルトは他人が巻き込まれるのを酷く嫌う。
だから刺客が現れては転属を繰り返していた。
「だが、それも潮時だな」
「少佐…あんた」
「戦友に迷惑はかけられんからな……」
寂しく笑うアルトの横顔――眼帯に覆われて表情を読むことは出来なかったが、本当に寂しく思っているのは見て取れた。
「世話になったな。貴女には、色々と」
「世話になったのはこっちだよ、少佐殿」
フォルテは8ヶ月振りに見た以前のアルトの頭をガシガシと乱暴に撫でた。
「わ、ちょ、なに!?」
この自分より身長はデカいクセに甘ったるいガキなのに年上のオーラも放てる、ON/OFFを切り替えられる器用で不器用な少佐殿を、フォルテは大変に気に入っていた。
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一週間後――
第一種礼装に身を包んだアルトは、サーペントの宇宙港にその姿があった。
2年前よりは軍服もしっくり板につき、眼帯があるお陰で、帽子も映えやり手の艦長に見えなくもない。
「似合ってるじゃないか。男前に見えるよ、少佐殿」
「世辞でも嬉しいな、シュトーレン曹長――や、准尉殿か、出世に乾杯といきたいな、我が御師匠」
休暇を取ってまで宇宙港に見送りに来てくれたフォルテに、アルトは最後の挨拶をしていた。
階級は違ったが、書類上は同じ歳で8ヶ月も生死を共にして来た二人であった。
普通の会社や学校などでは、8ヶ月は長いようで短いのであろう。しかし、明日がわからない前線では、それはもう数年も付き合った時間にも匹敵する日々となる。
フォルテは、アルトに銃の実戦的な使い方やサバイバルなどの戦闘術を教え、逆にアルトは上に通り易い書類の書き方や、士官としての心構え、部隊の指揮の執り方などを教えた。
お互いの得意分野と不足分野が合致していたフォルテとアルトは、本当に互いに背中を任せられる程に信頼出来る『親友』同士になっていた。
「よしとくれよ。あんたが私らの為に色々してくれるヤツだったから、私もそれに答えたまでさ」
「フッ、粉骨砕身走り回った甲斐があったと言うものだ」
似合わないナルシストな言い回しだが、フォルテにとってはいつもの様子に安心した。
8ヶ月間被り続けた仮面をいきなり剥がされるよりかはいつもみたいに居てくれた方が良かった。
「第2方面軍の新型機動兵器技術開発局主任になるんだってね」
「さすがだな、耳が早い」
「ウォルコット大佐に聞いてね」
「……あの人という方は――」
アルトは呆れ気味の苦笑いで呟いた。
そう、フォルテの恩人はウォルコット大佐。
アルトもウォルコット大佐に恩がある。
同じ恩人を持つもの同士、互いに愚痴を言いやったのがきっかけでもあった。
親友を得られた辺りには感謝はしているが、一応まだ正式着任前の機密情報をペラペラ喋る御仁に頭が痛かった。
「戦闘機乗りのあんたのことだ。戦闘機でも造るんだろ?出来たら私にも一機おくれな」
「実弾武装をハリネズミにして贈らせていただこう、レディ」
「わかってるじゃないか、少佐殿」
互いに口元に弧を描いた2人は、固い握手を交わした。
「死ぬなよ、シュトーレン准尉」
「あんたこそね、チェリー少佐殿」
互いに敬礼し、アルトは改札をくぐった。
「フォルテ・シュトーレン……か。ありがとう、フォルテ――」
「礼には及ばないさ、アルト・チェリー少佐殿――」
互いの姿が見えなくなったのにも関わらず、2人は友情で結ばれて今は最後の会話を交わした。
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第2方面軍領内ダスト星系――
宇宙のゴミ捨て場と言われるダスト星系は、星系内に様々な宇宙のゴミやアステロイドがひしめき合って、海賊が横行する危険地帯も数多く、星間ネットワーク構築にも手間取る厄介な星系だ。
そんな星系だからこそ、第2方面軍司令のトーブ大将(クーデター後に昇進した)は、アルトをまわしたのだろう。
新型機動兵器の的にはこと欠かないからだ。
「ダスト星系へのシャトル便は――」
アルトは3回もシャトルを乗り継いでダスト星系へ向かっていた。
サーペントとダスト星系は正反対の辺境にあり、しかも辺境故に便も悪い。
普通、軍人が新しい任地へと赴く時には大抵は、軍の船に便乗するという手を使う者が大半であったのだが、都合の良い船が期限までに出ない等の理由があると、軍から旅行代金を預かって民間の船で移動するという方法が用いられる。
ちなみにアルトは、いつも派遣される先が不便な僻地である事が多い事と、軍内部の様々な勢力の都合によって、常に民間の便を使うという方法を取らざる得なかった。
理由や出自はどうあれ、アルトはあの戦いを生き延びた良識派の軍人や若手、今まで大艦巨砲主義の皇国軍において不遇だった戦闘機乗り達には英雄なのだ。
軍閥は貴族派と市民派で日々小競り合いしているが、それに鎌かけてジータマイア派とチェリー派とでも、アルトの預かり知らぬところでも派閥争いが起きていたのだ。
これはある意味皇国社会事情の縮図でもあった。
民間人出身の軍幹部と、貴族階級出身の軍幹部の対立――
皇国がまだ王朝であった頃に、家臣として皇国の設立に功績のあった者や、皇国が拡大する過程において功績のあった者が、代々の皇王より貴族の位を授かっていたのだが、彼らの子や孫も優秀であるかといえばそれは違っていた。
だが、彼らは皇国の国家制度を支える基幹であり、長年皇国より多くの特権を受けている。
同じ士官学校を卒業した同期なのに、貴族出身の士官は早くに出世できたり、他の公職でも出世が早いなどかなりの優遇を得ていた。
特に軍人だと、士官学校卒業後五年以内で佐官という事も珍しくなかった。
まぁ、アルトのように戦時の特例緊急処置で階級がうなぎ登りなり、いきなり要職に就かされる場合も無きにしも非ずだ。
その点を言えば、アルトも幸運の女神がついているのかもしれない。でなければいくらなんでもいきなり市民階級の十代で佐官は異例で異常過ぎた。
「困ったな~。どれだよ」
すっかり化けの皮が剥がれているが、人間何時までも緊張状態を保って居られないのと同じで、今のアルトは軍人モードはOFFであった。
「……あ、あの――軍人さん、ですよね?」
「ん?私に何用かな?」
声をかけられたアルトは瞬時に仮面を被り応対した。
歳の頃は、十五~六歳くらいであろうか?
桃色の髪に花をあしらったカチューシャを付け、ほんわかとしたまるで春の日差しのような笑みを浮かべた、とてもこれから軍人になるようには見えない女の子に――
「じ、実は、皇国軍中央士官学校へ行きたいんですが……」
「君は士官学校へ通うのかね?」
「あ、いえ、失礼しました。士官候補生のミルフィーユ・桜葉と申します!と、トランスバール皇国軍中央士官学校に通わせて頂いております!」
慌てて敬礼した女の子――ミルフィーユ・桜葉。
アルトの階級章に気づいたのだろう。相手が相手なら厳罰ものだ。
「第2方面軍所属、アルト・チェリー少佐だ。そう固くなる事もない。今の私はOFFだ。しかしこの様な田舎港……里帰りからの帰りかな?」
「は、はい!」
「そうか、良き休暇だったとお見受けするが、同時に困ってもいる」
「はい。実は本星に向かう最後のシャトルが故障してしまって、一応学校には連絡はしたんですが――」
「間に合いそうにないというわけで、困っていたところで私を見掛け、藁にも縋る思いで声を掛けてみた」
「はい……」
シュンとするミルフィーユに、アルトは如何なものかと思案する。
確かにシャトル便の故障は仕方がないが、1日の遅れでも士官候補生にはかなり手痛い。
アルトも風邪で1日休んだからわかる。あの置いてけぼり様は、追いつくのがハンパじゃなかったと――
アルトは投影端末を呼び出して指を走らせた。
表情されたのはトランスバール皇国の勢力図。本星からこの田舎港までの所要時間諸々だ。
「君は運が良いな、桜葉候補生」
「え?」
「少し職権乱用だが、私も遅刻になりそうだった。ちょうど良い」
アルトはトランスバール本星からこの田舎港の航路上にメーロン星系があるのを見つけた。
アルトはすぐさま通信を送ると、例の如く茶を啜っているウォルコット・O・ヒューイ大佐に繋がった。
「これはこれは、チェリー少佐。ご無沙汰ですね」
「ご無沙汰しております。ウォルコット大佐。実は折り入って頼みたい事があります。そちらにお預けしてある試作高速戦闘機、アレを一機私の所まで送って頂きたい」
メーロン星系のウォルコットが預かる惑星シフォンでは極秘裏にアルトの代行者がアルトの研究を続けていて、今皇国内で一番早い乗り物がシフォンにはあるのだ。
「通商艦隊の一大佐の老骨に無理を仰りますな」
「その通商艦隊艦艇の装備品の融通はこちらがしているのですし、トーブ大将やガトー中将閣下にも許可はとりますし、長距離航行のデータも取れますから、利益は大きいと考えます」
「確かに推進剤代がゼロなのはかなり役に立っていますよ」
ウォルコット大佐指揮下の通商艦隊は、各方面軍に数ある通商艦隊とは一線を画する装備が揃えられている。
ガトー中将最高副司令官やトーブ大将に掛け合い、新型艦艇や機動兵器のテストを信頼の置けるウォルコット大佐の下に預けていたのだ。
艦隊運用も死線を共に切り抜けたチェリー艦隊の面々だ。
アルトにとっては安心して兵器開発を頼める場所だった。
まぁ、一部それをどこからか知った官僚などが煩いのだが、アルトには預かり知らぬところだ。
「298年もののビンテージで――」
「お引き受けしましょう」
「さすがはウォルコット大佐。決断が早い。では――」
「良き旅を、アルトさん」
「ええ」
通信を切ったアルトは固まるミルフィーユの唇に人差し指を触れるギリギリ手前に立てた。
「今のは内密に頼みたい。でなければ学校どころではないからな」
アルトの言葉にカクカクとミルフィーユは頷いた。
機密情報に賄賂に職権乱用――
確かにコレを喋ったらミルフィーユは学校どころではなくなる。
「しかし1日暇が出来た。君はどうする?部屋がないなら用意するが」
「そ、そんな、お会いしたばかりでこれ以上は悪いです!」
「遠慮するな。金を使う暇がなかったからな。少佐の安月給でもこんもり貯蓄はある。偶には浪費しないと金銭感覚が狂う」
「でも……」
「遠慮するなと言った」
「……はい。では、お世話になります。チェリー少佐」
「今はOFFだ。階級は気にしなくて構わんさ、ミルフィーユ・桜葉」
「そ、そうですか、えっと、それじゃあチェリーさんだと……さくらんぼになっちゃいますから、アルトさんと呼んでも良いですか?」
「構わんよ。桜葉はさくらんぼは好きか?」
「はい!あの酸っぱさと甘さはとっても好きです。それとアルトさんも、ミルフィーユで構いませんよ。それかミルフィーでも、友人や家族はそう呼んでくれますから」
「ではミルフィーと呼ばせて貰おうか」
「はい!」
アルトは手を差し出すとミルフィーユはそれを両手で掴みオーバーにブンブンと上下に振って握手した。
子どもみたいな握手に、アルトは懐かしさを感じていた。
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アルトがとったのは格安のホテルであった。
元来貧乏性の彼はホテルは未開拓の領域で、アルトはミルフィーユと相談してサービスが良く安いホテルを選んだところは貧乏性で几帳面で金が無い中で色々装備を揃えてきたアルトは、培った経験をこんなところでも無自覚で発動していた。
「アルトさんも中央士官学校の出なんですか」
「ああ。ミルフィーは後輩と言うわけだな」
取った部屋で茶を啜りながらアルトはミルフィーユと士官学校のことを話していた。
茶を啜る姿すら板に着くほどに茶も飲み慣れている。
その姿勢は何故かウォルコット大佐に見えた。
「ルフト先生にはたくさん世話になったよ。シミュレーションで1000回挑んで全負け、さすがはルフト先生だよ。私もお陰で何度助けられたか――」
苦笑いしながらアルトは士官学校の出来事を思い出していた。
毎日毎日勉強をして暇な時間には校長室に行ってルフト准将とジュースを賭けてシミュレーションで勝負して毎回毎回負け越して卒業を迎えた。
しかしそのお陰でいつの間にかアルトの艦隊運用や部隊指揮技能は天井知らずに上がっていた。
死にかけもしたが、アルトが今生きているのはルフト准将とのムキになって挑み続けたシミュレーションのお陰でもあった。
「勉強は辛かったがな、楽しいこともいくつかあったさ」
眼帯に手を掛けて取り外したアルト。
眉間から頬の辺りまで走る傷痕がある姿は、やはりアルトも過酷な軍生活を送っていた証だ。
「アルトさんは、どうして軍人に?」
「成り行きだな」
「成り行き……ですか?」
「ああ。成り行きで人を殺し、人の命を預かった。3年前のクーデターでね」
「3年前……」
ハイライトの消えた真紅の瞳。
元々黒だった瞳。
色々いじったらそんな風になった。
そんな眼帯がなければ物も光も感じない瞳を、アルトはミルフィーユに向けた。
「キミは、今の道を悩んでいると見たが――」
「はい……アルトさんとお話しして、私は今の道に進んで良かったのかと――」
「私で良ければ、相談に乗ろう」
「お願いします」
ミルフィーユは語り出した。
学校の教師を目指し皇国師範学校に願書を送ったはずが、なぜか通常では起こり得ない郵送事故によってトランスバール士官学校に誤配された挙句、何故か士官学校の入学試験の受験資格を手に入れ、強運により見事試験に合格してしまった事。
その後、なぜか落第もせずに、波乱の学校生活を送っている事などをだ。
「でも、アルトさんの話を聞いていたら、自分には向いていないような気がして……」
教師志望の少女が軍の学校に通っているのだ。
普通なら違和感を覚えて当然であろう。
「……キミは、今の道を後悔しているか?」
「わかりません。友達も居て、楽しいです。勉強はちょっと大変ですけど。でも私なんかが、アルトさんみたいになれるかどうか」
「無理だな」
「そうですよね……」
ミルフィーユの言葉をバッサリ切り捨てたアルトは、俯くミルフィーユを横目に茶を啜った。
「ミルフィーユ・桜葉候補生」
「……はい」
「キミは私、アルト・チェリーか?」
「え…?」
「キミは私かと聞いている」
「い、いえ、私はミルフィーユ・桜葉です」
「それでいい」
「はい?」
ミルフィーユにはアルトが何を言いたいのか解らず、首を傾げた。
「キミはキミだ。ミルフィーユ・桜葉候補生。私のようになる必要もない」
「でも…――」
「私の様な人間は参考にはならんさ。キミは私の様になるべきではない。そしてこれは私には言えないことだが、選択を間違えるな。ここから往くも退くもまた選択だ。キミはまだ選べる。退くこともできる、往けば、確かにいつか血を流すこともあるだろう。キミに今それを選べとは言わん。心の隅にでも留めていてくれればいい。だがこれだけは私にも言える。人の縁-えにし-は大切にすることだ、辛い時、悲しいときに支えてくれる友、嬉しいとき、楽しいときに喜んでくれる友、ウォルコット大佐やルフト准将のような人とかもな。私は様々な人に支えられて今ここに居る」
「縁-えにし-……」
「人の縁……絆とでも言えばいいか。私とミルフィーの出逢いもまた縁となっている。――少し難くワケのわからない話になってしまったな」
「いえ、とても参考になりました」
「後半以外は忘れてくれたまえ」
荷物から取り出したモノクルを右目に掛ける。
フォルテからの贈り物だ。
ロストテクノロジーの応用品で、視覚難の手助けをしてそれなりに見えるようになるらしい。
「私は眼帯のアルトさんの方が好きですね」
「ありがとう」
また茶を啜るアルト。
「ミルフィー。結局のところあとはキミが決めることだ」
「はい。でも話しを聞いて貰えて、大分、なんだか肩が軽くなった気がします」
「悩み事というのは、他人に話すと楽になるらしい。キミのような美人の肩が軽くなるのならば、私も男名利に尽きると言うものだ」
「……あまり似合いませんよ。それ」
「フッ、知っているさ。これは弱い自分を隠す――」
一息吐き、仮面を剥いだ顔を向ける。
「仮面だから――」
「……そっちの方が、メガネは似合いますよ」
「そっか……」
アルトはモノクルを外してまた眼帯を着ける。
「ならばモノクルはまたお預けとしよう――」
「元に戻しちゃうんですか?」
「私は臆病者でね――」
=====================
翌日――
港の一区画を権限で借りていた。
「ザ・職権乱用!」
「あはは……」
アルトの言葉に苦笑いするミルフィーユ。
港の隔壁が開き、機影がゆっくりと入ってきた。
紅い光を引き連れ――
「コレって……」
「私が基礎設計した機体だ。名はフラッグ――」
「フラッグ……旗…ですか?」
「ああ、御旗だ」
パイロットスーツに身を包んだ人影がフラッグから降りてきた。
幼い見掛けの体格のパイロットだった。
「………………」
ヘルメットを取った人は女の子だった。しかも日本人形のような大和撫子の女の子だった。
女の子は一直線にアルトに抱きついた。
「久しぶりだな」
「アルトさん。その子は?」
「私の子だ」
「え!?」
世界が止まった――
「え!え?え!?えええええーーーーー!?!?!?!?!?」
アルトと女の子を見比べて叫ぶミルフィーユ。
「冗談だ」
「あ、あはははははは……」
乾いた苦笑いするミルフィーユ。
「ヒナユ、ご苦労様」
「ん……………」
ヒナユと呼んだ女の子の髪を梳くアルト。
「アルトさんアルトさん、この子はアルトさんの結局どんな」
「……少し…な……」
ヒナユの髪を梳きながら顔を陰らせたアルトに、ミルフィーユはそれいじょう追求はしなかった。
「ヒナユ、ミルフィーにパイロットスーツを着せてやれ。せっかく間に合いそうなのに遅刻はいけないからね」
こくんと頷いたヒナユにミルフィーユを任せて、アルトもパイロットスーツ――ユニオンのパイロットスーツに着替えた。
このフラッグは今回の為に、ソレスタルビーイングのコロニーガードフラッグに、ゴースト二機を直結した最大加速仕様で、非太陽炉搭載機である。GN粒子貯蔵タンクにGN粒子を貯め動かしている。しかし今回は外付けで擬似太陽炉をとクロノ・ストリング・エンジンを搭載していて、単機でのクロノ・ドライブも可能だ。
対G対策を完璧にしてある為、フリッケライオーキスの時のように血反吐を吐く事もなく、直線なら高速戦闘艦の軽く倍は速い。
「GN粒子生成率98%で固定。コンデンサー粒子充填率105%。全システムクリア」
機体の調整を終えてサブコックピットに通信を繋ぐ。
「ミルフィー、ヒナユ、準備は良いか?」
「はい!」
返事をするミルフィーユと、頷いたヒナユ。
「私の操縦は荒っぽいからな。舌を噛むなよ」
「は~い!」
2人の様子を確認して、アルトは機体を動かす。
フラッグは初めて動かすが、基本はヒナユにレクチャーを受け、開発報告にも目を通していたアルトは、動かし方は知っている。
「フラッグか……フッ…アルト・チェリー、フラッグ、出撃-で-るぞ!」
身体に掛かるGが、アルトには心地良く思える。
「平気かミルフィー」
「ええ、全然平気です!」
「ならスピードを上げるぞ」
徐々に加速して、最大加速まで持って行った。
それでもGはミルフィーにもあまり影響していないらしい。
かなり対G対策が進んでいるようだ。
「お手柄だな、ヒナユ」
まだ幼いヒナユに兵器開発を手伝わせる。
最低な人間だなと、アルトは思った。
しかしヒナユは嬉しそうに笑った。
ヒナユはある事情でアルトが引き取った女の子だった。
紆余曲折を経て、今はウォルコット大佐の下でフラッグやリアルドのテストパイロットをしていた。
アルトがあちこちの部隊を転々としても問題なく技術開発が進んでいたのは、ヒナユの存在も大きかった。
「クロノ・ドライブでメーロン星系へ一気に向かう。大体半日だな」
「そんなに速いんですか!?」
「高速戦闘艦の2.5倍の速さだからな」
本来ならトランザムで加速もかけたいのだが、まだトランザムは研究段階だ。
原理は知っているが、制御システム面で手間取っているのが現状だ。
それでもゴーストを直結してる分、直線ならトランザムに追いすがる速度は出る。
「~~~~♪~~~♪~~♪~♪」
歌を口ずさみ、アルトはフラッグを動かす。
「楽しそうですね、アルトさん」
「………………うん」
歌に夢中で楽しそうに歌うアルトを、ミルフィーユとヒナユは見守っていた。
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「ありがとうございました!」
「いや、私もかなり楽しませて貰ったからな。礼には及ばないさ」
フラッグを操縦出来たアルトはとてつもなく機嫌が良かった。
さらにミルフィーユと次会った時にお菓子も作ってくれるという、かなり嬉しい約束もしてくれたことでさらに機嫌が良かった。
アルトはヒナユを腰に引っ付けて、ミルフィーユを見送っていた。
1日遅れにも関わらず、フラッグのお陰で2日の猶予が出来たアルト。ミルフィーユも半日の差で間に合えるそうだ。
「アルトさん、本当に本当に、ありがとうございました!」
「頭を上げたまえ、ミルフィー。キミの往く道に後悔が無いことを祈ろう」
「はい」
ミルフィーユは一度敬礼して改札をくぐっていった。
「幸運の女神、ミルフィーユ・桜葉か……」
キュッとヒナユが腰を絞めた。
「ヒナユ?」
アルトが声をかけたらさらにヒナユは腰を絞めた。
「ふふ、お前は俺なんかには勿体無い女の子だよ……」
「ん……」
アルトはヒナユの髪の毛を梳きながら、目前に迫りつつある運命を見据えてから歩き出した。
To be continued…
色々ぶっ飛び中です。そしてちゃっかり暗躍もしてたアルト。
これからはまた大変です。
とりあえず部下3人のキャラは決まってるんだがな~。
他のエンジェル隊との巡り会わせも出来ればさせたい。
やっぱり私はフラッグファイターを捨てきれない。不快にさせてしまったことを謝罪する!
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