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変化を訴える前に、目指すべき社会像を語るべき

 もちろん、「このままの社会でいい」とは、今日本にいるほとんどの人が思っていないでしょう。私もです。とはいえ、既存のシステムを壊した後に、どのような社会ができ上がるのか、市民としては気になるのは当然のことではないでしょうか。

 「では、現状のままでいいのですか」と言われ、「いや、そうは思わない」と答えると、「じゃ、代案を示してくださいよ」とさらに言われます。しかし、精神科医である私にそんなことができるはずもないし、その権利もありません。

 私は、「改革はすべてダメ」と言いたいわけではなく、「改革の先の社会の基本的な軸を示してほしい」と言っているのです。それは、公務員が何人減るとか、塾に行くクーポンが何枚配られるとか、そういうことではありません。「とにかく競争力ありき、実力者だけが生き残れる社会」なのか、「みんなで痛みを分け合ってでも誰もが安心して暮らせる社会」なのか、そういったことです。

 なぜ、そんなことをしつこく聞くのか。それは、橋下氏が弁護士時代、テレビ番組で何度かはっきりと、「自分は改憲論者で核武装論者」と語っていたのを記憶しているからです。そのような発言をする方をリーダーと仰ぎ、そこで行われるグレート・リセットの先には、たとえば「核武装する日本」が待っているのか、とつい想像してしまったとしても、「それはおかしいですよ」と言われる理由はないと思います。

 しかし、その点については、橋下氏は「あれはあくまで個人としての見解で」とはっきり答えてはくれませんでした。

 「昔はそう思っていたけれど、実際に権力の座についた今は変わった」というなら、はっきりそう言ってほしい。もちろん、「そうです。維新の会から国政に大勢の議員を送り込んだら、そのときこそ憲法改正、核保有です」というなら、それもはっきりさせてほしい。

 橋下氏の唱える各論には、私も賛成する部分がいくつかあります。とくにエネルギー問題では、関西電力に、発電部門と送電部門を分ける「発送電分離」を果敢に要求するなど、脱原発依存を打ち出している。ただ、せっかく脱原発なのに、脱核兵器ではないとしたら、その姿勢には疑問を感じずにいられません。

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香山リカ [精神科医、立教大学現代心理学部教授]

1960年北海道札幌市生まれ。東京医科大学卒業。豊富な臨床経験を生かし、現代人の心の問題のほか、政治・社会評論、サブカルチャー批評など幅広いジャンルで活躍する。著書に『しがみつかない生き方』『親子という病』など多数。


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