──日本の投資家はどうすべきだと思いますか。
「国債市場が崩壊すれば金利が急上昇し、預金をしていた一般の人々が最も大きな損失を被ります。私ができるアドバイスは、円資産をできるだけ手放した方がいいということです」
「これからは、自律的な経済成長が可能で、金融の膨張や信用創造に頼ってこなかった国に投資すべきです。生産性の高さや若い労働者がいる人口構成も重要な要素です。条件に合致するのはカナダやノルウェー、豪州、インドネシア、インドなどでしょう」
■先進国の信用創造 明らかに過剰
──欧米など先進国はどうですか。
「借金が膨れあがった国は投資に値しません。02年から10年にかけて政府や民間を合計した世界の債務は年率で11%増えてきました。これに対し、世界のGDPの伸び率は平均で4%前後にとどまります。実体経済の規模に比べ信用創造が明らかに過剰だったわけです。これがもう限界に来ています。特に厳しい状況にあるのが日本や欧州、米国などの先進国です」
──欧州の債務問題をどうみていますか。
「ギリシャでは債務減免交渉が長引いています。仮に民間債権者が元本を50%程度減額することで合意できても、同国のデフォルトは避けられないでしょう。その程度の債務削減ではギリシャの財政再建は期待できません」
「欧州中央銀行(ECB)が流動性の供給で何とか欧州危機を食い止めようとしていますが、イタリアなど南欧諸国では預金の流出に歯止めがかかりません。12年中に、ギリシャからポルトガルにまで波及する連鎖的なデフォルトが起きる可能性は高いとみています」
──これまで米住宅バブルの崩壊や欧州の債務危機を予見してきました。投資家として心がけていることはありますか。
「世の中で正しいと思われていることを、そのまま受け入れないということです。自分の力で考えて、常に論理的であろうとすること。我々はこれまで、中央銀行のバンカーたちが提示する世界観を受け入れるよう求められてきました。まるで彼らだけが真実の箱の中身が何かを知っているかのように。その彼らは今、無制限にお金を刷り、経済の安定を何とか保とうと躍起になっています。しかし、この経済政策に限界が来ているのは明らかです。もはや、国家を信用することはできません。自らの力で考え、生き残っていかなければならない時代が来ているのです」
(聞き手はニューヨーク=川上穣)
カイル・バス氏 米投資銀行ベアー・スターンズや米運用大手レッグ・メイソンなどで、経営不振企業に投資するディストレスト戦略に携わる。2005年末にテキサス州ダラスに本拠を置くヘイマン・キャピタル・マネジメント設立。米住宅バブルの崩壊、欧州債務危機の到来を見事に的中させ、ヘッジファンド業界で一躍有名になった。運用資産残高は公表していない。42歳。
[日経ヴェリタス2012年1月29日付]
カイル・バス、GDP、日本国債
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