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寄稿■犯罪トラブル、日露で捜査協力――刑事共助条約が発効

 海外とのビジネスと聞けば、犯罪行為に巻き込まれたときのリスクを感じる人は少なくないだろう。実は最近日本とロシアの間で、刑事事件に関して2国間で協力しましょう、という枠組みがスタートしたというのだ。ロシアに最も近い北海道・稚内に東京から移住した異色の弁護士、古井健司氏から寄稿が届いた。

日・露刑事共助条約について

宗谷ひまわり基金法律事務所
弁護士 古井健司

 以前、どこぞの国のものと思われる不審船が日本海で海上保安庁の巡視船を振り切って逃走、などと言ったニュースが話題になりましたが、移動手段やITネットワークの発達によって犯罪行為の国際化も進んでいます。

 特に北海道のように、漁船がロシア国境警備隊との緊張関係の中での操業を余儀なくされているなど、日常生活が文字通り隣国と隣り合っている地域では、国(あやうく「国境」と書きかけましたが、もちろん北海道海面漁業調整規則による「参考ライン」「地理的中間線」等と言われるものです)を越えて発生する水産物の密漁・密輸出や、薬物、銃器、盗難車両の不法取引といった犯罪は頭の痛い問題です。

 ところが、日本の捜査当局といえども犯人をロシアまで追いかけて逮捕したり、ロシアで捜査活動を行うことはできません。だからといって,長大な海岸線を有する我が国において、時と場所を選ばない犯罪を水際で完全に阻止できるかといえば、それはなかなか困難です。ロシア側も、事情は似たようなものでしょう。

 そんななか、今年2月に発効したのが通称「日・露刑事共助条約」です。この条約は、一方の締約国が他方の締約国の請求に基づき、捜査,訴追その他の刑事手続において共助を実施すること、そのための枠組みとして、関係当局が相互に直接連絡をとること等を内容とするものです。

 正式名称は「刑事に関する共助に関する日本国とロシア連邦との間の条約」といいます。平成17年(2005年)11月のプーチン 大統領(当時)の訪日の際の刑事共助条約の締結に向けた政府間交渉開始の合意をふまえ,政府間での交渉が開始され、同21年(2009年)5月12日、東京において、中曽根弘文外務大臣(当時)とロシア連邦コノヴァロフ法務大臣との間で署名されました。

 要するに、両国の捜査当局が協力して犯罪に対処しましょう、ということなのでしょうが、たとえば、ロシアが実行支配している「中間線」の向こう側に犯人が逃げ込んだ場合、日本の捜査当局は国際問題を引き起こす覚悟で犯人逮捕に向かうのでしょうか。それとも、ロシア側の主権を認めることにもなりかねない捜査共助をお願いするのでしょうか。問題はそう簡単でもなさそうです。

 ロシアとの関係は,今後ますます発展する可能性を秘めた重要な2国間関係であり,犯罪の国際的な抑圧と 一層良好な両国経済の発展に資することを期待したいところです。 

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古井 健司(ふるい・けんじ)
1965年東京都出身。弁護士。1989年早稲田大学政治経済学部卒業、外務省入省。2000年4月に弁護士登録。東京弁護士会に所属し,あさひ法律事務所国際部門(現西村あさひ法律事務所)で企業法務を中心に活動。北海道の自然と食に魅せられ2009年に稚内市に移住。民事法研究会『情報をめぐる法律・判例と実務』(共著)、民事法研究会『保険関係訴訟』(共著)など著作多数。
事務所公式サイト「宗谷・稚内の弁護士/北の大地の法律事務所」 http://www.sylo.jp/
ブログ http://www.sylo.jp/blog