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日露の企業間トラブルは多い?少ない?――ロシアの弁護士に聞いてみた

ドミトリー・チェルヌーヒン弁護士 「ロシアと共同事業?事業が軌道に乗ったとたんに乗っ取られるんじゃないの」。少しロシアに関心のある人でも、一般的な反応はこんなところではないだろうか。日本国内と同じ感覚で一緒にお仕事できる相手じゃないとはわかってるが、実際どうなのか。サハリンで企業法務を専門とする弁護士ドミトリー・チェルヌーヒン氏に、見解を聞いた。

 ――日本企業から見たとき、ロシア企業のイメージは良くない。特にサハリンサッポロ、サンタリゾートホテルのような「ロシア側に乗っ取られた」との話が今でも頻繁に話題になる。

 「私の知る範囲では、サハリンで日露の企業間トラブルは少ない。契約前に揉めないように慎重に検討しているのだろう。契約後に大きな裁判になったのはサンタリゾートぐらいではないか。ほかには船が事故で沈んでオイル流出が起き、これをどう処理するかなどの問題が発生した例はある。日本に限らず、国際的な共同事業にトラブルはあるもので、日露の裁判はむしろ少ないと感じている」

 「当然だがトラブルがないと言ってるのではない。相手の言うことを何でも信じ込んで、のちに小さな紛争が起こることはあるだろう。ただ実際、裁判沙汰というのは少ない」。

 ――たまたま裁判になっていないとしても、トラブルはよく語られる。

 「日本企業にとっては、どんなロシア側パートナーに出会うかが最重要ポイントだ。ロシアにはいろいろな経営者がいる。全員が善良というわけではなく、前科持ちだっている。パートナー次第ですべてが変わるだろう。モスクワに進出した東京の会社が、パートナー企業との間で問題を抱えているといった話も聞こえてくる。よく調べて相手を選ぶことだ」

 ――日本企業は、ロシアのパートナー企業をどうやって選ぶのがいいのか。信用調査は。

 「日本のような企業の信用調査会社は、ロシアにはない。少しなら、税関などから情報が得られる場合もあるが、現実的にはオフィシャルな方法では難しい。調べるには、あらゆるルートを活用する必要がある」

 「ロシアの実業界は取引先企業の評判を気にしないと思っているかもしれないが、そんなことはない。ロシアでも企業の評判というものは重要だ。やはり評判のいい企業なら、他社と提携・連携の関係をつくりやすい」

 ――ロシア企業の遵法精神は、おそらく日本では怪しまれている。

 「残念ながら、法律を遵守しない企業は存在する。脱税がその一つだ。例えば、振り込み記録を残したくないという目的で、従業員への給料を現金で払う会社もある」

 ――ビジネスに関連する法律改正も数々おこなわれてきたはずだが、近年はどんな変化があるか。

 「ここ数年ではあまり変化はない。8年前に税金関係で制度変更があり、売上高が一定以下の企業には部分的減税になったが、給料に関わる税金は逆に上がったりしている。また、起業支援という意味では、若い経営者がビジネスプランを練り、それが評価されれば国の援助を受けて小資本で会社を設立できる仕組みもある」

 「今後の改正スケジュールで、確実に言えるものは特にない。大統領選挙前でもあり、いろいろな人がいい話をするが、現実にどうなるのかは誰にもわからない」

 ――サハリンの外資企業としては、エネルギー系を除けば韓国資本の積極性が目立つようだ。これに比して日本企業は消極的。理由をどう考えるか。

 「韓国企業は、露・韓の双方にビジネス上のメリットがあって進出してきているのだと思う。これは個人的な印象だが、ロシア側から見れば、日本政府がロシアとのビジネスに賛成していないという印象だ」

 「サハリンで見かける日本製品は、車以外ではシャンプー、化粧品、ベビー用品など。食品は少ない。私自身も日本に行ったことがあるので気づくのだが、ロシアでは同じ商品が日本の数倍の高さで売られており、なぜという気持ちだ」

(ちょっとした補足):北海道の弁護士会とも交流

 便宜上「弁護士」と訳すものの、ロシアの弁護士は、犯罪など刑事事件を扱う「アドバカート(Адвокат)」と、個人や企業のもめごとなど民事を扱う「ユーリスト(Юрист)」に分かれている。チェルヌーヒン氏は後者だ。ちなみに30代で、仲間2人と法律事務所を経営。外資企業を含む法人相手に仕事をしている。
 日露のビジネス拡大をにらみ、チェルヌーヒン氏のような弁護士とすでに接触を持っているのが、北海道弁護士会連合会だ。まだ連合会としての具体的な提携プランはないようだが、将来の、日露連携法務サービスを視野に入れている、らしい。
 さて、どうなるでしょうね。

※チェルヌーヒン氏は、11月4日に札幌市で講演予定。
詳しくはこちらへ。 https://www.sapporo-cci.or.jp/content/details/information/2011/08/91.html