心不全に温熱療法が効果
サウナ浴で症状改善
心身もリラックス
 診療棟の一角に清潔で快適なサウナ風呂が設置されている鹿児島大病院。実は安全で大きな効果がある、心不全の温熱療法として利用されている。「ありふれた方法に見えるかもしれないが、温度と時間、頻度の管理をしっかりすることで、心不全の症状を大きく改善し、同時に心身のリラクセーション効果をもたらす確実な治療法だ」と第一内科の鄭(てい)忠和教授は話す。現在、高度先進医療として申請中。
▽60度で15分間
 大事な点は治療法として、入浴法がきちんと確立されていることだ。鄭教授は心不全の温熱療法に15年前から取り組み、お風呂と同時に遠赤外線サウナを使った治療法を確立した。
 「心不全も軽症であれば、お風呂を利用した温熱療法でも十分可能。サウナが優れているのは、お風呂と違って体にかかる水圧の負担がなく、温熱だけの効果が得られるところ」と同教授。
 「大学病院の心不全患者さんといえば、重症も多く、横になっているのも苦しいほどの人もいる。サウナは重症の患者さんでも負担がなく、安全に温熱療法が受けられる」
 遠赤外線サウナを利用した温熱療法では、60度の室内に横になり、15分間温まる。10分ぐらいで汗がじわーっと出始め、15分間のサウナ浴で深部体温は1度上昇。
 サウナ浴後は、湯冷めしないように毛布1枚かけて保温しながら横になり、30分リラックス。これで1度上昇した体温が0.3―0.5度下がる。最後に入浴前後の体重差から汗をかいた分の水分を補給する(200―300ml)。
▽全患者が利用
 「1日1回で週3日。入院時は週5回で2週間続ける。これで確実に効果が得られる。当科では心不全の患者さんは、すべて温熱療法を受けている」と同教授。
 サウナの60度というのは、お風呂で言えば、ちょうど「いい湯だな」という感じだそうだ。この気持ちよさが非常に大事という。
 この療法を2週間続けると、心拍出量は増加し、全身の血管の抵抗が低下、末しょう循環不全が改善する。不整脈も減り、さらにいろいろな面から医学的な効用が出てくるという。
 「患者さんは、不安や心配などのストレスが多く、緊張した状態だが、この療法を1週間やると、目に見えて顔色がよくなり、病人のようでなくなる。睡眠も取れ、食欲が出て便通もよくなる」(同教授)。
▽遺伝子レベルで
 ではなぜ一見、簡単そうな温熱療法が効くのか。鄭教授らはハムスターを使い、体温上昇が血管機能を改善することを突き止めた。
 まず、人と同様にハムスターの「いい湯」の温度39.5度を探し当て、温熱療法の実験を繰り返した。
 温熱療法を受けたハムスターの血管内皮細胞を調べると、血管拡張作用がある一酸化窒素を合成する酵素の量が有意に増えていた。
 次に心不全を起こすハムスターを使い、心不全を発病する時点で温熱療法を実施。すると、この酵素が大幅に増えるだけでなく、酵素を作り出す遺伝子もどんどん働くほか、生存期間も延びることが確認された。
 「この療法で、血管を拡張する酵素が遺伝子レベルで増える。だから温熱効果が長く持続するわけで、継続することでさらに効果が上がる」と鄭教授。「この治療法は費用がかからず、副作用もない。心臓だけでなく、総合的に全身の状態を良くしていく点でも優れている」と話している。



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