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interview【西本智実】  CDデビューから10年。ロシア国立交響楽団との、満を持してのチャイコフスキー

西本智実 / 2011/05/12掲載
【西本智実】 CDデビューから10年。ロシア国立交響楽団との、満を持してのチャイコフスキー
 CDデビューから10年になるという。「がむしゃらに駆け抜けてきた10年」と、指揮者・西本智実は語る。その傍らにあったのはいつも、チャイコフスキーの交響曲第5番だった――。
 
 昨年カーネギー・ホール公演を大成功させ、世界を一巡したあと、還るのはやはり原点チャイコフスキー。意外にも初のCD化となる交響曲第5番は、首席客演指揮者として彼女を迎え入れたロシア国立交響楽団との就任記念盤であり、来日記念盤となった。その裏にある思いを、3月、いまだ非日常感漂う東京に戻った西本に訊いた。サンクトペテルブルクを愛し、ロシアの音楽家たちを敬い、なにより音楽の力を信じる指揮者の活躍は、新たな拠点となる日本でも広がっていきそうだ。
――まさに満を持してのチャイコフスキーの交響曲第5番。初CDなのが意外なくらいです。
西本智実(以下、同)「5番は私にとって“扉を開ける”曲です。去年のアメリカ公演もそうだし、この10年いつだって私の指揮者人生の傍らにあった曲。ロシア国立交響楽団が用意してくれたポスト(首席客演指揮者)への就任記念であると同時に、個人的にはもう一度チャイコフスキーにじっくり向き合っていく第一歩だと考えています。
――そもそも、音楽を学ぶ場としてロシアを選ばれたのはなぜでしょう。
「言葉のように語りかけてくる、ロシア系の演奏家が好きでした。“ああ、この演奏好きだな”と感じる人のほとんどがロシア系だったのです。歴史も魅力的でした。ソビエト時代があって、その前にロマノフ王朝。この王朝は当時のヨーロッパの粋を集めて、新しい街サンクトペテルブルクを作った。そこにリストなどのスターも訪れて、いろいろな影響を残していった。その直後にロシア革命が起こり、ソビエト連邦の統治が始まった。結果、街は冷凍保存。連邦が崩壊して、博物館に入ってしまう前の街を見てみたかったんですね」
――かの地での暮らしは、演奏にどのように影響しましたか。
「チャイコフスキーの場合、スタイルはドイツの古典的な手法です。外側の色塗りはロシアの手法も取り入れたロマン派だけれど、非常に細かい。性格も細かかったんなんだろうな、といつも思っています。彼の趣味、なんだと思います? 編み物なんです。かわいいでしょう(笑)。でもこの編み物が、彼の音楽をよく表わしていると思う。編み物って細かい編み目がかけ合わさった結果、大きな美しい形ができるでしょう。彼の音楽、とくにメロディはこの“形”なんですね。そこに至るまでにいくつもの編み目があるんだけれど、みんな“形”、つまりメロディの美しさに耳を奪われるから気づかない。でもその形が美しいのは、編み目が細かいからなんです。
 
 それからもうひとつが、風土の問題ですね。クリスマスの季節、ショーウィンドウなどに白いスプレーで描かれた大きな雪の結晶。ロシアでは、その本物を見ることができます。ダイアモンド・ダストが家々の窓に張り付き、それを繰り返すうちに、窓には大きな結晶ができ上がるんです。これも編み物と一緒で、少しずつ積もったものがきれいな形になるということを、彼は知っていたのだと思う。これはチャイコフスキー個人の資質でもあったし、風土が生んだものなのだ、と実感しました」
――チャイコフスキーへの理解とともに、愛情が伝わってきます。
「そうですね。やっぱり、会いたかったな。ぺテルブルクに暮らし、彼の家の前を通るたびに思いました。チャイコフスキー財団の指揮者をやっていたとき、クリン博物館という、チャイコフスキーの別荘にもよく行きました。彼の日記や手紙、それこそ編み物などを見せてもらえたことに感謝しています」
――それを叶えたのが、この10年で培われたロシアの人々の西本さんへの信頼ですね。
「嬉しいことです。カーネギー・ホールでのアメリカン・シンフォニー・オーケストラとのコンサートは象徴的でした。じつは準備期間が短く、最高のクオリティというわけにはいかなかった。それでも全力を出した、と自分を励ましていたら、楽屋に何人かの団員が訪ねてきました。オーケストラの中のロシア系の人々でした。彼らが“まさにロシアのスタイルだった。よくやってくれた”と泣きながら言ってくれたとき、“私はもうロシア人かもしれない”と感じました」
――春からは日本にも拠点を構え、新たな活躍が期待されます。
「このような時期ですから、優先順位というものがあります。9月のオペラ公演は延期となりましたが、それでも私は音楽が必要とされることを信じて、準備しておきたい。オペラが一般とは無縁な別世界のもののように扱われる日本の現状には、すばらしいプロダクションを作り上げても、公演が終わったら廃棄しなければならないといった事情に一因があります。オペラやバレエを積極的に取り上げ、変革していきたい。新しい可能性にはりきっています」
取材・文/高野麻衣(2011年3月)


■西本智実指揮ロシア国立交響楽団 ジャパンツアー2011
5月15日(日) 東京・オリンパスホール八王子
5月17日(火) 横浜・みなとみらいホール
5月19日(木) 大阪・NHK大阪ホール
5月26日(木) 福岡・アクロス福岡シンフォニーホール
5月27日(金) 東京・サントリーホール大ホール
5月29日(日) 神戸・神戸国際会館こくさいホール
5月31日(火) 石川・石川県立音楽堂
※詳細は西本智実オフィシャル・サイトをご覧ください。
http://www.tomomi-n.com/
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