ケタ違いの感動がある

前職の総合商社では、黎明期の携帯電話事業やインターネット事業を担当。東南アジア駐在や米国ネットビジネスの日本市場導入,事業立ち上げなど、充実した毎日を送っていました。それでも日本テレビへの転職を決意したのは、インターネットの進化とともにテレビビジネスは変革期を迎え、戦略次第では民放キー局がネットビジネスのキャスティングボートの一端を握る存在になりうると考えたから。30代に入った時、日本テレビが未来戦略を策定するメディア戦略局を組織したということもあり、この世界に身を投じました。商社とテレビ局の大きな違いは2つ。1つ目は、商社は様々な分野に顔を出す反面、その事業の業界内影響力は実は小さいことがほとんどで、影響力が大きい事業に取り組もうとすると、残念ながら自らの主体性は薄れパートナーの調整が仕事の中心となってしまう一方で、テレビ局は日本のメディアコンテンツ産業の王道で中心であり、事業主体として舵取りができるという点。2つ目は商社の仕事は金額ベースでのみほぼ語られるのに対し、テレビの仕事は金額には代えられない「人の心を動かす感動」として語られるという点です。ここまでの高揚感は、商社で働いている時には決して味わえないものでした。

世界に先駆けてワンセグをサービスイン

入社後すぐにワンセグ、つまり携帯機器を受信対象とする地上デジタルテレビ放送をスタートさせる仕事を担当。当時、ワンセグは世界でまだ誰も実現していない事業で、社内でも議論が始まったばかり。実現にはテレビ局だけでなく、複数の通信キャリアとの連携など、幅広い合意形成が必要でした。当時の上司から「テレビ業界が経験したことがない仕事は、かえってテレビを知らない人間の方がいい。お前が中心になってやれ!」と命じられ、キー局6社の幹事として各通信キャリアとの交渉を開始。互いの要求が必ずしも一致せず、何百という搭載機能の選択に関して一つ一つ整理していくタフな交渉が続きましたが、最終的な合意を得て2006年4月、放送がスタート。以後とんでもないスピードで普及が進み、2010年3月現在、ワンセグ搭載携帯電話の累計出荷台数は8000万台を超え、世界にも類をみない普及を達成しています。この事実を受け南米各国やフィリピンなども日本の地デジ方式の導入を決定。ワンセグの存在により日本方式が世界の標準となりつつあるという非常に稀有な事例を作っています。

ネットと放送の融合、その未来

現在所属しているクロスメディア事業推進部とは、メディアが劇的に進化している中で、どのツールを使えば「日本テレビ」の全社価値を高めていくことができるのか、その戦略を決定していくセクションです。インターネットは今後も間違いなく進化していくでしょう。しかしその進化の方向は「必要な情報がいつでもどこでも瞬時に手に入る世界」に向かっています。それは言い換えれば「ユーザーに不要な情報は目も触れずに捨て去られる世界」であるため、結果として広告メディアとしてのパワーには限界があると見ています。一方、テレビ局の強みはコンテンツメーカーとしてのノウハウと、言うまでもなく「テレビ電波を持っていること」であり、テレビ電波を活用した圧倒的広告メディアとしての強さにあります。私は、ネットとテレビは互いに補完関係にあり、ネットが進化するほど相対的に電波の価値も高められると考えています。お互いの違いを意識しつつ、両者の強みを融合し、新しいものを創っていくことがいい結果を生む、来るべき世界にワクワクしながら日々の仕事に臨んでいます。 

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