きょうのコラム「時鐘」 2012年1月29日

 目が覚(さ)めたらドカ雪というユウウツな朝が、これから何度あるのだろう。美しい雪景色どころでない

玄関に出ると、雪の上に足跡(あしあと)が道まで点々と往復している。未明に新聞配達の人が歩いた跡に違いない。その足跡を踏んで道に出る。配達の人はひざまで雪にうまったに違いないが、足跡をたよりにすれば、雪に「ゴボる」ことは少ない

「道筋をつける」という言葉のありがたさが、雪の朝にはよく分かる。道に出れば、足跡はだいぶ踏み固められて歩きやすくなっている。早起きの近所の人たちに感謝である

言うまでもなく、足跡をなぞって歩くのが雪道の常識。足跡の間隔(かんかく)が短いと、強い向かい風に足を踏ん張って歩いたのかと「先人(せんじん)の苦労」を思う。後ろ姿の美しい人が前を歩いていると、その足跡をなぞるのが、なぜか楽しくなる

雪のない方が歩きやすいに決まっている。難儀(なんぎ)な雪ではあるのだが、「足跡を踏む」という新雪の朝の気分は悪くはない。雪も風も冷たいが、足跡からはぬくもりが伝わる。あと何度、そんな雪の朝を迎えるのだろう。楽しみなようであり、もう結構という気もする。