特別展「法然と親鸞 ゆかりの名宝」/見どころ

見どころ

800年余を超え、乱世を生き抜いた師弟が再び出会う 史上初の大合同展で、ゆかりの名宝を一挙公開!

 保元・平治の乱などの戦乱や地震などの天変地異が続き、政治・社会が混迷した平安末期――。来世の往生おうじょうを願った富者は財を尽くして功徳くどくを積み、僧侶は教義論争に明け暮れるなか、鎌倉仏教の先駆者・法然ほうねん(1133〜1212)は現れました。民衆を含む万人の救済を考えた法然は、「念仏ねんぶつをとなえれば誰もが救われる」と阿弥陀如来あみだにょらい名号みょうごうをとなえることを説き、浄土宗の宗祖となりました。


重要文化財「善信聖人絵(琳阿本)」 巻上第4段 選択付属(部分) 鎌倉時代 13世紀 京都・西本願寺蔵

重要文化財「善信聖人絵(琳阿本)」
巻上第4段 選択付属(部分)
鎌倉時代 13世紀 京都・西本願寺蔵

 その教えを受けたのが、40歳年下で、のちに浄土真宗の宗祖となる親鸞しんらん(1173〜1262)です。法然と同じく比叡山で修行を積んだ後、29歳のとき法然に出会い、たとえ地獄におちようとも、その教えを信じて念仏をすると決断しました。


 しかし専修念仏の教えは既成教団から弾圧を受け、法然は四国へ、親鸞は越後へ流罪となります。その後、二人が再会することはかないませんでしたが、 親鸞は越後への配流後、関東などでの布教活動を経て、京都に戻り、真摯な研鑚を続けて思索を深めました。


 この特別展は、 法然没後800回忌、 親鸞没後750回忌を機に、両宗派からの全面的な協力を得て、法然と親鸞ゆかりの名宝を一堂にあつめ、 その全体像をご紹介する、史上初の展覧会です。国宝・重要文化財が半数を占める第一級の美術品およそ190件をとおして、二人の生き方やその魅力をご紹介します。


 大震災に見舞われ、社会の転換期を迎える今日、二人の教えと生き方は現代人にも大きな示唆を与えるに違いありません。


史上初の合同展

鎌倉仏教の二大宗祖、法然と親鸞の全体像を一緒に紹介する史上初の展覧会です。法然800回忌、親鸞750回忌が重なる浄土教の節目の年に、両宗派の全面的な協力を得て大々的に開催する決定版展覧会です。

ゆかりの名宝が一堂に

展示作品は約190件。国宝・重要文化財94件を含む一級の美術品を多数出品します。

解き明かされる師弟の絆

選択本願念仏集せんちゃくほんがんねんぶつしゅう』や『教行信証きょうぎょうしんしょう』『歎異抄たんにしょう』など二人の思想をあらわす書物や、絵伝、肖像などで生涯を紹介しながら、師弟の関係性に焦点を当てます。鎌倉時代の浄土教をより深くご理解いただける展示構成です。

現代人に投げかけるもの

法然と親鸞が生きた平安時代末期は、天災や戦乱、飢饉が重なり、末法の世と信じられていました。大震災に見舞われ、大きな転換期を迎えた今、二人の教えと生き方は現代人にも多くの示唆を与えることでしょう。


展示構成/※会期中、展示替えがあります。/作品リストはこちら

第1章 人と思想

第1章 作品

法然と親鸞の面影を写実的に表現した肖像画や彫像、肉筆の資料からは、多くの人々をひきつけた親しみのある人柄や、新しい主張がよみとれます。さらに著作、言行録、その思想の背景となった作品などをとおして、二人の存在を身近に感じることができます。


重要文化財 選択本願念仏集 一冊/紙本墨書 鎌倉時代 12〜13世紀 京都・廬山寺蔵

重要文化財 選択本願念仏集 一冊/紙本墨書 鎌倉時代 12〜13世紀 京都・廬山寺蔵

展示期間 : 10月25日〜11月13日

法然の著作になる浄土宗の根本聖典。建久9年(1198)前関白の九条兼実くじょうかねざねの懇請により著した。様々な経典や著述より念仏の要文を抄出し、念仏の要義を述べている。阿弥陀仏が諸行のなかから念仏のみを選択して本願の行とされたという、専修念仏としての立場を明らかにしたものである。本書はその最古写本で、草稿本といわれ、巻頭の内題にあたる「選択本願念仏集 南無阿弥陀仏〈往生之業/念仏為先〉」の21文字は法然の真筆と伝えている。


国宝 教行信証(坂東本) 親鸞筆 六冊/紙本墨書 鎌倉時代 13世紀 京都・東本願寺蔵(京都市烏丸七条)

国宝 教行信証(坂東本) 親鸞筆 六冊/紙本墨書 鎌倉時代 13世紀 京都・東本願寺蔵(京都市烏丸七条)

展示期間 :

1・2冊 10月25日〜11月6日
3・4冊 11月8日〜11月20日
5・6冊 11月22日〜12月4日

親鸞の主著。正しくは『顕浄土真実教行証文類けんじょうどしんじつきょぎょうしょうもんるい』といい、広く経・論・釈の文章を集めて、浄土真宗の教義を明らかにした根本聖典。教・行・信・証・真仏土・化身土の六部門で構成されている。『教行信証』の唯一の親鸞自筆本であり、全体にわたって、記号や朱筆、書き直しや新たな綴入れなどがみられ、親鸞自身によって晩年に至るまで改訂が続けられていたことが明らかにされている。坂東報恩寺に伝来したことから「坂東本」とも称される。


重要文化財 二河白道図/絹本著色 鎌倉時代 13世紀 京都・光明寺蔵

重要文化財 二河白道図/絹本著色 鎌倉時代 13世紀 京都・光明寺蔵

展示期間 : 10月25日〜11月13日

二河白道は中国唐時代の浄土教家・善導ぜんどうが説いたたとえ話。清浄な信心を現世と極楽浄土をつなぐ細く白い道にたとえ、火の河(瞋憎[しんぞう])や水の河(貪愛[とんあい])などの煩悩に惑わされてもこの道を一心に渡る(念仏する)ことで極楽へいくことができるという。法然が『選択本願念仏集』で、親鸞が『教行信証』でこの話にふれており、鎌倉時代以降に絵画化された。光明寺本はその最古の遺品。本展ではこの他に3点が出品される。


重要文化財 歎異抄 蓮如筆/紙本墨書 室町時代 15世紀 京都・西本願寺蔵

重要文化財 歎異抄 蓮如筆/紙本墨書 室町時代 15世紀 京都・西本願寺蔵

展示期間 :

上巻 10月25日〜11月13日
下巻 11月15日〜12月4日

親鸞の没後、東国の門弟たちの間で師説との異義が生じたことを嘆き、遺訓を守るべきとの意図で書かれた。親鸞から直に聞いた教説を書き記したもので、常陸国ひたちのくに河和田かわだの門弟である唯円ゆいえんがまとめたとされている。「善人なをもて往生をとぐ。いはんや悪人をや」で知られる悪人正機説など親鸞の思想を端的に示している。本書は末尾に流罪記録を収めた唯一のものとして史料的価値が高く、蓮如筆になる現存最古の写本としても貴重である。


第2章 伝記絵にみる生涯

第2章 作品

波乱に富んだ生涯のなかで、法然と親鸞がどのように考え、行動したかをたどります。伝記として描かれた絵画には、その構成や内容に、それぞれの特色があります。最近の研究によって制作の背景や、各絵伝相互の関係などが明らかになってきたことで、その資料的価値がさらに評価されています。


国宝 法然上人行状絵図〔部分〕/紙本著色 鎌倉時代 14世紀 京都・知恩院蔵/巻6第3段 吉水で専修念仏の教えを説く

国宝 法然上人行状絵図〔部分〕/紙本著色 鎌倉時代 14世紀 京都・知恩院蔵/巻6第3段 吉水で専修念仏の教えを説く

全期間展示 (教えを説く場面は10月25日〜11月6日)

数ある法然上人絵伝のなかで最も大部を誇る絵巻。
無量寿経むりょうじゅきょう』に説かれる阿弥陀如来が衆生を救済するために立てた48の誓願にちなみ、48巻で構成される。法然の生涯や教え、さまざまな帰依きえ者や門弟、高僧の事跡など内容は多岐にわたる。この場面は巻6第3段で、法然が京都東山の吉水で多くの人々に対して極楽浄土と専修念仏について説く記念的場面を表す。


重要文化財 善信聖人絵(琳阿本)[部分]詞書覚如筆/紙本著色 鎌倉時代 13世紀 京都・西本願寺蔵

重要文化財 善信聖人絵(琳阿本)[部分]詞書覚如筆/紙本著色 鎌倉時代 13世紀 京都・西本願寺蔵

展示期間 :

巻上 10月25日〜11月13日
巻下 11月15日〜12月4日

【巻上第4段 選択付属】(上図)

上下2巻からなる親鸞の伝記絵巻で、巻頭に「向福寺こうふくじりん阿弥陀仏あみだぶつ」と旧蔵者の署名があることから「琳阿本」と呼ばれる。この場面は親鸞33歳のとき、法然から自らの御影と『選択本願念仏集』を写すことを許可され、その正当な後継者の一人として認められたことを伝える。


重要文化財 善信聖人絵(琳阿本)詞書覚如筆/紙本著色 鎌倉時代 13世紀 京都・西本願寺蔵

【巻上第5段 信行両座】(下図)

同じく親鸞33歳のころ、法然のもとに集まった弟子たちに親鸞が信と行どちらが重要か問いかけた。多くの弟子が行の座につく中、聖覚せいかく信空しんくう、遅れて駆けつけた法力ほうりき熊谷[くまがい]直実[なおざね])、親鸞が信の座についたところ、法然も信の座についたという(奥で数珠[じゅず]を持つのが法然、左手前で筆を[]るのが親鸞、頭を掻きながら親鸞のほうへ向かうのが法力)。


第3章	法然と親鸞をめぐる人々

第3章 作品

弟子との間でやりとりされた書状などを中心に、法然と親鸞およびその周辺の人々の活動を具体的に示す資料をとりあげます。法然を慕う多くの人々の結縁けちえんによって没後に造立された阿弥陀如来立像や、親鸞の妻である恵信尼えしんになどの書状を通して、二人の魅力ある人間像をうかがいます。


重要文化財 慕帰絵〔部分〕藤原隆章・隆昌・久信筆/紙本著色 南北朝時代 観応2年(1351) 京都・西本願寺蔵/巻5第2段 親鸞聖人の行状絵を制作する覚如

重要文化財 慕帰絵〔部分〕藤原隆章・隆昌・久信筆/紙本著色 南北朝時代 観応2年(1351) 京都・西本願寺蔵/巻5第2段 親鸞聖人の行状絵を制作する覚如

展示期間 : 11月8日〜11月20日

親鸞の曾孫であり、親鸞・如信にょしんに次ぐ本願寺三世にあたる覚如が没した年に、その往生(帰寂)を哀しみ慕って(=慕帰)制作された伝記絵巻。覚如は法然上人伝である「拾遺しゅうい古徳伝ことくでん」や親鸞聖人伝(高田本、琳阿本、康永本として知られる伝絵。いずれも重要文化財。本展に出品)をまとめ自ら詞書を執筆するなど、多くの功績を残した。絵師とともに伝絵を制作する様子を表したこのめずらしい場面は、11/8〜11/20に展示。


重要文化財 阿弥陀如来立像/木造、漆箔、玉眼/鎌倉時代 建暦2年(1212) 浄土宗蔵

重要文化財 阿弥陀如来立像/木造、漆箔、玉眼/鎌倉時代 建暦2年(1212) 浄土宗蔵

全期間展示

法然の弟子源智げんちが師の一周忌供養にあわせて造った像。像内に源智の造立願文のほか、源頼朝、後鳥羽院をはじめとした4万6千人ほどの姓名を記した文書が納められていた。仏師快慶の作風に近いが、衣文の彫りなどに相違が見られ、別の有力な慶派仏師の作と考えられる。


重要文化財 恵信尼自筆書状類/紙本墨書 鎌倉時代 13世紀 京都・西本願寺蔵

重要文化財 恵信尼自筆書状類〔部分〕/紙本墨書 鎌倉時代 13世紀 京都・西本願寺蔵

展示期間 : 11月15日〜12月4日

親鸞の妻恵信尼が京都にいた娘覚信尼に宛て越後から書き送った書状類で、親鸞の素顔を知る貴重な史料。親鸞の訃報に接して書かれた弘長3年(1263)2月10日の書状には、親鸞が、京都の六角堂に参籠して聖徳太子の夢告をえて、これを機に法然の門下になったことや、経典読誦きょうてんどくじゅによる自力の功徳への執着を内省し、絶対他力へと向かったことなど、ありし日の親鸞の様子が、格調高い豊かな言葉で、迫真的に生き生きと綴られている。


第4章  信仰のひろがり

作品

浄土宗や浄土真宗の各寺院などに伝来する名宝の数々をご紹介します。法然や浄土宗にゆかりの阿弥陀如来像、晩年の親鸞が道場の本尊として用いた自筆の名号、さらに先徳祖師として法然、親鸞が仰いだ善導像、聖徳太子像などがあります。また教えを受け継いだ人々によって守られてきた文化財は、信仰の歴史を伝えるとともに、美術品としても極めて高い価値をもっています。


国宝 阿弥陀二十五菩薩来迎図(早来迎)/絹本著色 鎌倉時代 14世紀 京都・知恩院蔵

国宝 阿弥陀二十五菩薩来迎図(早来迎)/絹本著色 鎌倉時代 14世紀 京都・知恩院蔵

展示期間 : 10月25日〜11月13日

鎌倉時代の来迎図を代表する作品。全身を金色に輝かせた阿弥陀聖衆あみだしょうじゅが、経巻を前に合掌する往生者を迎える様子を描いている。急な山の斜面にそって来迎する構図が、スピード感を与えることから、「早来迎」の名で知られてきた。多くの化仏けぶつ化宮殿けきゅうでんが描かれることから、最上ランクにあたる上品上生じょうぼんじょうしょうの来迎を表していることがわかる。


国宝 本願寺本三十六人家集(重之集)/彩牋墨書 平安時代 12世紀 京都・西本願寺蔵

国宝 本願寺本三十六人家集(重之集)/彩牋墨書 平安時代 12世紀 京都・西本願寺蔵

展示期間 : 11月8日〜11月20日

藤原公任の撰になる三十六歌仙の私家集のまとまった最古写本で、装飾料紙の限りを尽くした冊子本に、当時指折りの能書のうしょ20人が分担して書写した調度手本。白河上皇の60歳の賀を祝うために作られたものと推定されている。また華麗な料紙と筆跡の見事さを競って揮毫きごうした冊子合せの遺品とする説もある。天文18年(1549)に後奈良天皇より本願寺第10世の証如しょうにょが賜ったことが知られる。書道史、美術史、国文学史上極めて貴重な遺品である。このほか、素性そせい集と能宣よしのぶ集下も出品される。


国宝 当麻曼荼羅縁起/紙本著色 鎌倉時代 13世紀 神奈川・光明寺蔵/巻下第3段 本願尼の往生

国宝 当麻曼荼羅縁起/紙本著色 鎌倉時代 13世紀 神奈川・光明寺蔵/巻下第3段 本願尼の往生

全期間展示(本願尼の往生場面は11月15日〜12月4日)

奈良・当麻寺の本尊である当麻曼荼羅(奈良時代)の縁起を二巻にわたって描いた絵巻。紙を縦に使用して継いだ大きな画面に、当麻寺の由来から本願尼の阿弥陀信仰、当麻曼荼羅の織成、往生までをつづる。巻下の最終段では、織りあがった当麻曼荼羅の前で念仏する本願尼のもとへ阿弥陀二十五菩薩が来迎する。化宮殿けきゅうでん化仏けぶつをともなう上品上生じょうぼんじょうしょうの来迎で、一番前では観音菩薩がひざまずいて本願尼に蓮台を差し出し、これに乗るよう促している。


重要文化財 阿弥陀三尊坐像/木造、金泥塗り・截金、玉眼/鎌倉時代 正安元年(1299) 神奈川・浄光明寺蔵

重要文化財 阿弥陀三尊坐像/木造、金泥塗り・截金、玉眼/鎌倉時代 正安元年(1299) 神奈川・浄光明寺蔵

全期間展示

浄光明寺は鎌倉幕府第6代執権北条長時ながときが創建した浄土宗諸行本願義派の思想に基づく浄土・真言・華厳・律などの諸宗兼学の寺。現在は真言宗泉涌寺派。阿弥陀如来坐像の像内に正安元年(1299)の年紀と、平久時たいらのひさときの名前を記した文書が納められていた。久時は長時の孫。中尊が説法印を結び、両脇侍が坐った形の像は鎌倉時代にはきわめてめずらしい。阿弥陀如来坐像の総高(台座の下から光背の頂部まで)は383センチメートル。


重要文化財 地獄極楽図屏風/絹本著色 鎌倉時代・13世紀 京都・金戒光明寺蔵

重要文化財 地獄極楽図屏風/絹本著色 鎌倉時代・13世紀 京都・金戒光明寺蔵

展示期間 : 10月25日〜11月13日

二曲一双の大画面を3つに区分し、大海の彼岸となる画面上部に極楽浄土、此岸となる画面下部に地獄(左)と現世(右)の様子を描いた屏風。現世では多くの善行悪行が描かれ、その結果としての地獄と極楽、また清浄な信心を持つことにより悪行を積んでも往生できることを示す。金戒光明寺には対として伝来した山越阿弥陀図屏風やまごしあみだずびょうぶがある。


特別展「法然と親鸞 ゆかりの名宝」
2011年10月25日(火)〜12月4日(日)/東京国立博物館 平成館(上野公園)
タイトルロゴ:重要文化財 善信聖人絵(琳阿本)〔部分〕/鎌倉時代 京都・西本願寺蔵

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