きょうのコラム「時鐘」 2012年1月27日

 出張の際(さい)、モノレールから夕焼(ゆうや)けに浮かぶ東京タワーを見た。東日本大震災(だいしんさい)の揺れで先っぽが曲がったままだったが、美しい名画のようだった

話題の映画「ALWAYS三丁目の夕日」は、東京タワーが大切な役割を演じている。1作目は建設(けんせつ)中、2作目が完成した年の設定(せってい)で、公開(こうかい)中の「〜’64」はCG(特撮(とくさつ))で東京タワーを真上から描(えが)いて、中高年の観客(かんきゃく)を感心させたと映画評にあった

64年は東京オリンピックが開かれた年だ。当時を知る世代には懐(なつ)かしいが、監督(かんとく)の山崎貴(たかし)さんはこの64年生まれと聞いて驚(おどろ)いた。来月、金沢で作家の嵐山光三郎(あらしやまこうざぶろう)さんと対談する。自分が生まれる前の懐かしさを、どうしてここまで表現できるのか聞いてみたい

「昭和」や「レトロ」をキーワードにした街を歩いて気づくのは、古いものの横に新しいものが芽生(めば)えていることだ。東京タワーが注目されるのはスカイツリーの登場(とうじょう)と無縁(むえん)ではなかろう。金沢の香林坊や富山の中心街も新旧が重なって魅力(みりょく)が深まる

今、なぜ自分はここにいるのか、明日はどこにいくのか。懐かしさは、人生の羅針盤(らしんばん)ではなかろうか。