完結までの予約投稿は完了した。
これより次の執筆に移る。
クッキー4可愛いよクッキー4
ああ、マルギッテよ。
我が親愛なる友人よ。気高き猟犬よ。
愚かな私を許して欲しい。
君と任務や日常を共にして親交が深まったのが運命なら。
かつて少将だった頃のフランク・フリードリヒに私が救われたのが運命なら。
きっと、私の唯一の血族が私に目をつけていたのも運命だったのだ。
こうして争う定めとなったのも運命だったのだ。
だから君が、尋常な戦いで私を倒せ。
真正面から殴り倒せ。
正しき意思をもって討ち果たせ。
そこに答えがあるはずだ。
「ふ……強いな……」
マルコは、傷だらけの身体でそう笑った。
それは自嘲か。
善戦したとはいえ、一対多の戦いに慣れているとはいえ、さすがに無理があったのか。
痩身の至るところにガタが来ていて、それでも余裕ありげに立ち続ける。
「マルコ、もう倒れろ!」
「そういうわけにもいかんさ。お前らはあの女の恐ろしさをまるでわかっちゃいない。そう簡単に済む話なら、俺が何とかしていたさ」
「どういうことだ?」
「何、そのままの意味だよ。だからお前らはここで俺に倒されろ」
そう言い放ったマルコによって、縦横無尽に鋼糸が振るわれる。
相手取るマルギッテはそれを次々と避けていき、時折爆発的な踏み込みを行い距離をつめる。
一度に大勢でかかるよりは、マルギッテが突貫するのを遠距離からサポートするほうが有利だ。マルギッテは京や気絶から回復した梅子から援護を受けて吶喊していく。
トンファーを用いて鋼糸を弾き、ガリガリとコンクリートの大地が削られていく中を走っていく。
それでも全てをかわしきれるものではない。
後ろからの矢や鞭を叩き落とし、マルギッテの健脚でかわし、トンファーで打ち落としても。
マルコの操る鋼糸の数はそれ以上に多く存在する。それこそ指の数程に。
かわそうなどと思ってかわしきれるモノでは決して無いのだ。もしもかわそうと思うのならば、それこそ武道四天王と同等の力量が必要だろう。
かといって、この場で彼女以上にマルコの相手を務める適任は他にいない。
接近戦において彼女以上に長けた者がいないというのもあるが……彼女以上にマルコの攻撃を捌ける者がいないのだ。能力ではなく、経験という意味で。
普段からというわけではないが、昔から何度か手を合わせていなければ、同じくらいのレベルの者にはマルコの攻撃はかわせないだろう。
「――ふッ!」
「厄介だな、あれは」
「狙い撃つだけ!」
前へ。
ただ前へ。
椎名京と小島梅子の援護を受け、傷だらけになりながら、軍服と肌を僅かに切り裂かれながらマルギッテは走る。
そしてついに、マルコへ手が届く距離までたどり着いた。
既に仮面の連中は全員確保。
援護も期待できないというのに、未だにマルコは笑みを続ける。
まるで近づかれようと気にしないとでも言うかのように。
「くらいなさいっ!」
「はーっはぁ!」
鋼糸を弾きながら繰り出した蹴りを、マルコが同じ軌道の蹴りで迎撃した。
その威力はマルギッテのそれに勝るとも劣らないモノだ。
接近戦に持ち込んで、しかしなおも拮抗。そう、周りの全員に思わせるだけのモノ。そして常に動き回りながら、マルギッテの影に隠れるように近接戦を行うマルコには遠距離による援護はできない。
いくら京が弓の達人であり、梅子が鞭の達人であろうとも、手出しすることはかなわない。
「当たらんなぁ! 当たらんよ! その程度かマルギッテェ!」
マルギッテの拳も蹴りも全てを寸前でかわしながら、援護を受けないように密着し続ける。
どれだけ目がいいのか、近接技術の賜物か、それともマルギッテがマルコの攻撃をかわせるのと同じように経験のおかげなのか。
いずれにせよ尋常ではない。
「お前に殺し合いを教えたのは誰だと思っている?」
「お前だよマルコ。だが私たちは殺しあっているわけではない!」
右のトンファーを受け止められ、同時に放たれた蹴りを避けながらマルギッテは言う。
困惑を浮かべるマルコへと、左のトンファーを振りかぶって彼女は言葉を続けた。
「何……?」
「少なくとも私は! お前に生きていて欲しい!」
「な――」
何かを言いかけたマルコの顎に、マルギッテのトンファーが直撃した。
===
よく似た顔をした二人が対峙していた。
浮かべる表情は、傲岸不遜な笑みと飄々とした笑み。
対照的な、笑顔である。
百代を傍らに浮かべ、どんな人間でも強者であるとわかる雰囲気を漂わせている、大神宗介の姿をした男が口を開いた。
「それで貴様は何をしにきたのだ? もはやそのお粗末な身体でもって俺に歯向かうつもりかな?」
「その通りだよバカヤロウ。つーか、これでも死ぬ気で鍛えたんだけどな」
「ハッ、それでその程度か? 人生をやり直すべきだな」
「……やり直してんだよ、テメーのせいで」
一々偉そうに発言を続ける宗介に、ムクロを名乗った男は嫌そうに顔を歪める。
よっぽど同じような顔を見るのが嫌であるのか、若干半目になりつつもある。単に集中しているだけなのかもしれないが。
「で、動く理由はなんだ? 俺にはよくわからんが、たぶんに俺が関係してたんだろ?」
「その通りだ、死にぞこないめ。貴様と言う存在が生まれてきたからこそ、この世界は歪み始めたのだ」
話を変えたムクロに、宗介は答えた。
それは、ある事実を知っていなければ理解のできない言葉だ。
世界の真実、全ての根幹に関わってくる問題と、それに密接に関わる存在。
それら全てを、今の大神宗介は知っている。
「いい加減に煩わしくなってきたな。貴様、ムクロなどという名前はやめて昔の呼び名に戻らぬか?」
「……それじゃあ変えた意味が無いだろうが」
「いいのだよ。私が面倒なのだから。わかったかい、大神宗介君?」
「おーおー、面白い事になってますなぁ」
見物人と化した釈迦堂は嗤う。
あっちが大神宗介でこっちも大神宗介。こりゃ面白い。そんな事を考えていた。
そして、その横に立って釈迦堂を見張る九鬼揚羽は。
「…………」
「そちらさんは知ってたみたいだなぁ? そこんとこ教えてくれねぇか?」
釈迦堂は揚羽へと馴れ馴れしく話しかけた。
無論、釈迦堂に教えてやる義務など彼女には無いのだが、今回ばかりは彼女にも理由があった。
目の前の釈迦堂が、おそらくは川神院にて行ってきたであろう戦闘によって満足していないというのがわかってしまったからだ。話を聞かせなければ暴れだすという事も無いだろうが、目の前の2人のやり取りに口を突っ込む可能性も無きにしも非ず。
「彼は大神宗介で間違いない。いや、本来なら大神直介で間違いない存在のはずだった」
「あぁ、あのガキか。そういや今も生きてりゃあんくらいの年だわな」
釈迦堂には大神宗介と大神直介の兄弟の両方に面識があった。
大神隼人が川神院にいた事もあってか、幼い頃の彼らは何度と無く川神院を訪れていたのだ。その中で、宗介は川神院に預けられ直介は海外へと留学していた。
その後は世界で放浪する両親とは別れた彼らは己を鍛えながら日常を過ごしていたが――
「で、その直介がなんで大神宗介なんだ?」
「そこまでは知らぬ。ただ、あいつが死に掛けていたのを私が拾った時、間違いなくあいつは大神宗介だった。2人一緒に事故に遭ったと言っていたが、その場にはあいつしかいなかったと言うのにも理由があるのだろう」
「……なるほど。そういうことねぇ」
くくくと薄気味悪い笑いを浮かべる釈迦堂。
なにやらわかったらしい彼へと、今度は揚羽が問いかけた。
「何か気付いたことでもあったか?」
「いやねぇ、つーことはだ。あいつのいう事もマジだったって事だよな? あの兄弟が死んだ事故……いや、生きてるから死にかけた事故か。それを起こした犯人がヴィヴィアン・バゼールっつぅ女だってのが」
「――何?」
「お前の存在によって多くが変わったのだ。それを監視者であるヴィヴィアン・バゼールは無視できなかった。だからこそ俺を呼び出したのだ。異物は異物で排除しなければならないからな」
「別にいいだろ? チェンジ・ザ・ワールド、実に結構じゃないか。つーか俺の知ったこっちゃないぜ全く」
「ただの青年が正義の味方に、ただの少女が一流の剣士に。それが変革だというのならあまりにも目障りだ。たった一人の存在が因果律に生み出した綻びによって、世界は元の未来より大きくかけ離れたのだよ。故に、貴様を排除する。『神』たるこの俺が」
神?は語る。
本来なら、大神宗介は存在しなかった。
大神直介ももちろん。大神一家は川神院出身のただの一家のはずだった。
一条風太はただの元気の良い少年のはずだった。
咲島舞はただの剣道家の娘のはずだった。
ヴィヴィアン・バゼールという存在も、本来ならば本筋には絡まない人物だったが……事情が変わった。
だからこそ彼女は干渉を行った。同じ監視者としてマルコ・S・アッシュハウンドを選別し、遥か昔に監視者が行ったのと同じく異物によって異物を排除しようと考えた。
テロ行為を引き起こし、自らの手で大神宗介に致命傷を負わせ、それに違うナニカを植えつけた。
その時に彼を殺してしまわなかったのは、他の異物を排除させるため。
「あの女の誤算は、貴様が生きていた事だろうな。まさかあの女も、その異物に自らの技術を見取られて利用されるとは思うまい。俺の表層に広げられた部分意識とは別に、大神宗介の本意識が死体同然の大神直介に逃げ込むなどと」
「ありゃ運だよ。ヴィヴィアンがどう考えていたかは知らないが、本来俺たちの仲は良好だったからな。ツンデレ兄貴が俺に身体を明け渡してくれたのさ」
大神兄弟の仲が見かけどおりのものではなく、愚痴を言いつつ文句を言いつつそれでも仲がいいものなのだとわかっていたのなら、ヴィヴィアン・バゼールもミスは犯さなかっただろう。
九鬼揚羽が、ヴィヴィアンの襲撃現場の近くのビルに滞在していなければ、そのミスもなかったことになっていただろう。
偶然が生んだ奇跡とでも呼ぶべきだろうか。
「さて、御託はそろそろにしておこうか」
「あぁ。俺もだんだんイライラしてきたんでな」
真っ直ぐににらみ合っていた彼らは、ゆっくりと戦闘態勢へと移行する。
ゆっくりと、周辺の空気が歪になりはじめた。
あとがき
あっけない幕切れこそが全ての真実だと私は思う。
魂とは心に宿るものだと私は思う。
光灯る街に背を向け、我が歩むは果て無き荒野
奇跡も無く標も無く、ただ夜が広がるのみ
揺るぎない意志を糧として、闇の旅を進んでいく
川神魂はいいと思う。いいと思う。
投票してくれたら嬉しいな~。その後はHPにもね~。
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