大阪府と大阪市の借金残高について、大阪市の平松市長が、定例記者会見の場やテレビの報道番組などで、「大阪市の借金残高は減り、大阪府の借金残高は増えている」と指摘をされています。
(大阪市ホームページより) グラフをPDFファイルで見る [PDFファイル/37KB]
しかし、これは、本来同じ土俵に乗せて比較してはいけない数字を比較しているに過ぎず、全く論理的ではありません。私は、これまでも、その論理のおかしさについて反論してきましたが、ここで改めまして、府民のみなさんにわかりやすく説明させていただきます。 (1)大阪府が努力できる範囲の借金残高は減っている グラフをパワーポイントで見る [PowerPointファイル/190KB]
私は知事に就任以来、「収入の範囲内で予算を組む」という原則を徹底するとともに、全力で財政再建に取り組んできました。その中で、いわゆる赤字債である退職手当債(注1)については発行を「0」にするなど、できる限り借金を増やさない努力を積み重ねてきました。 しかし、見かけ上では、大阪府の借金(地方債)残高の総額は増えています。それは、自らの努力では減らせない借金があるからです。「臨時財政対策債」など、地方財政制度上の財源対策的性格をもつ地方債(注2)がそれにあたります。 これらの特別な借金を除いた実質的な残高で言えば、大阪府の普通会計(注3)の借金残高はピークである平成14年度の3兆233億円から平成21年度の2兆7,708億円(決算額)へと確実に減ってきています。つまり、平松市長は、府の努力ではどうしようもない「臨時財政対策債」を土俵に乗せて、府の借金が増えていると指摘しているのです。 (2)「臨時財政対策債」の仕組み もう少し、詳しくご説明します。「臨時財政対策債」とは、地方固有の財源である地方交付税(「所得税」「法人税」「酒税」「消費税」「たばこ税」の一定割合があてられる)が不足する場合に、国だけが借金をして対応するのではなく、その不足分の半分を地方が借金として負わされるものです。臨時財政対策債の構造的な問題点については、ここでは言及しませんが、この借金は、大阪府の意思にかかわらず、国によって割り当てられるものなので、現行の制度上、税収が需要を上回り、地方交付税が不交付とならない限り、この「臨時財政対策債」を発行せざるを得ません(その元利償還に要する費用は、将来、地方交付税で国から交付されることとなっています)。 グラフをパワーポイントで見る [PowerPointファイル/211KB]
「臨時財政対策債」の発行額は、国の税収や各自治体の収支の状況に大きく影響されます。近年、国の税収に加え、大阪府の税収も大きく落ち込んでおり、これが府の「臨時財政対策債」の発行額が大きくなっている要因の一つとなっています。また、平成20年度から、国の方針で市町村より都道府県に多く割り当てられるようになったことも、増加の要因であり、大阪府と大阪市の発行額は、以下のとおりとなっています。
<臨時財政対策債の発行額> (大阪府)平成19年度:653億円→平成22年度(最終予算額):3,226億円 ・・・およそ5倍の伸び率(2,573億円の増加) (大阪市)平成19年度:273億円→平成22年度(最終予算額):911億円 ・・・およそ3.3倍の伸び率(638億円の増加)
グラフをパワーポイントで見る [PowerPointファイル/170KB] このように、毎年の「臨時財政対策債」の発行額が大幅に増加した結果、大阪府の「臨時財政対策債」の残高は増加の一途をたどっています。 <大阪府の臨時財政対策債の残高> 平成14年度:832億円→平成22年度(最終予算額):1兆506億円 実質的な地方債残高、つまり、自らの努力で減らすことができる借金についてみれば、大阪府、大阪市とも減少しているにもかかわらず、大阪府の借金残高が、見かけ上では減っていないのは、このような仕組みによるものです。 平松市長には、借金残高について、単純な総額でみるのではなく、国の制度上の問題や税の仕組みもしっかりご理解いただき、大阪府・大阪市それぞれの努力という面から、議論していただきたいと思います。 (3)大阪府の借金は、他の都道府県と比較すると少ない そもそも、広域自治体と基礎自治体では、役割や税収構造、行政サービスの中身が全く違っており、大阪府と大阪市の借金を単に総額だけ並べて比較すること自体に、私は全く意味がないと思っています。先ほどの臨時財政対策債においても、両者の発行額そのものを比較することについては全く意味はありません。本来、その自治体の財政構造・財政運営が健全かどうかということは、類似の他の団体と比較してどうかという分析が必要です。 大阪府では、一昨年、大阪府と財政力が同程度の府県に加え、財政力が異なる団体についても地域ブロックの広がりを加味して選定した9府県(神奈川県、静岡県、愛知県、京都府、兵庫県、福岡県、秋田県、徳島県、島根県)の協力を得て、財政構造を徹底的に比較しました。その中で、人口一人あたりの地方債残高を比較したところ、大阪府は神奈川県に次いで低くなっていました(平成20年度末現在)。 (「大阪府の財政構造等に関する調査分析報告書」(平成22年4月 大阪府改革プロジェクトチーム)23ページ参照) ちなみに、都道府県全体の平均と比べてみても、「歳入総額に対する地方債残高の比率」や「住民一人あたりの地方債残高」において、大阪府は、都道府県平均を下回っています(平成20年度)。 | 歳入総額に対する地方債残高の比率 | 住民一人あたりの地方債残高 | 大阪府 | 1.62 | 約50万円 (※減債基金の積立不足を加味すると約56万円) | 都道府県平均 | 1.67 | 約63万円 |
(4)大阪市の借金は、他の政令市と比較すると多い 一方で、大阪市の人口一人あたりの地方債残高については、夜間人口一人あたりでみると、全17政令市の中で最も高くなっています。また、昼間人口一人あたりでみても、北九州市、福岡市、千葉市に次いで4番目に高くなっています(平成20年度)。 (「大阪市財政の現状」(平成22年4月 大阪市財政局) 26ページ参照) また、政令市全体の平均と比べてみても、「歳入総額に対する地方債残高の比率」「住民一人あたりの地方債残高」のいずれにおいても、大阪市は、平均を大きく上回っています(平成20年度)。つまり、大阪市は借金を負い過ぎなのです。 | 歳入総額に対する地方債残高の比率 | 住民一人あたりの地方債残高 | 大阪市 | 1.81 | 約107万円 | 政令市平均 | 1.57 | 約70万円 |
大阪市は、「昼夜間人口比率の高さに合わせた行政需要に応えなければならない」と主張していますが、広域行政の範囲に属する仕事に大阪市が手を出すことによって、本来、880万府民皆で負担すべきことを260万市民に負担を押し付けているのではないでしょうか。つまり、大阪では、府と市の間で広域行政と基礎自治行政の役割分担ができておらず、その結果、大阪市民は、大阪府と大阪市の両方が担っている広域行政に関する借金を負わされているのです。 そもそも、基礎自治体である大阪市は、広域行政体である大阪府と役割も財政規模も全く異なるはずです。しかし、その大阪市が、大阪府と額で比較できるほどの借金を背負っている、このこと自体が問題ではないでしょうか。ちなみに、基礎自治行政に特化している東京23区では、区民一人あたりの地方債残高は約10万円です。これは、広域行政体である東京都としっかりと役割分担ができている結果だといえます。 <大阪府と大阪市の財政規模の比較:平成21年度決算(普通会計)> | 財政規模 | 臨財債等を除く実質的な借金(地方債)残高 | 大阪府 | 2兆9,428億円 | 2兆7,708億円 | 大阪市 | 1兆6,698億円 | 2兆2,523億円 |
<注釈> ※注1:退職手当債…団塊の世代の大量定年退職等に伴う退職手当の大幅な増加に対応するため、定年退職者等の退職手当に充てるものとして、 国が制度化した地方債。 ⇒ なぜ、これを「0」にしたのか? 施設整備のように、後の世代にも負担を求めるというものではなく、一種の「赤字債」と考えて、発行を抑制しました。
※注2:財源対策的性格をもつ地方債・・・「臨時財政対策債」、「減収補てん債」、「減税補てん債」。 これらは地方交付税や地方税の代替財源であり、元利償還金については将来、地方交付税で国から交付されることとなっています。
※注3:普通会計・・・普通会計とは、個々の地方公共団体ごとに各会計の範囲が異なっているので、 財政比較や統一的な掌握のため地方財政統計上用いられる会計区分です。 |