メルクマニュアル18版 日本語版
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甲状腺癌

甲状腺癌の一般的な4種は,乳頭腺癌,濾胞腺癌,髄様癌,および未分化癌である。乳頭腺癌および濾胞腺癌は併せて分化型甲状腺癌と呼ばれるが,これは正常な甲状腺組織と組織学的に類似しており,分化した機能(例,サイログロブリン分泌)が保たれているからである。大半の甲状腺癌は無症候性の結節として発現する。まれに,リンパ節,肺,または骨への転移が小型甲状腺癌の主症状を引き起こす。診断はしばしば細針吸引生検によって行われるが,他の検査が含まれるときもある。未分化型を除いて,大半の甲状腺癌は悪性度が低く,致死的となることはまれである。治療は外科的切除であり,通常はそれに続いて放射性ヨードで残存組織を破壊する。

乳頭腺癌

乳頭腺癌は全甲状腺癌の70〜80%を占める。女性対男性比は3:1である。患者の最大5%は家族性である。大半の患者は30〜60歳の間に発症する。腫瘍はしばしば高齢患者でより高い侵襲性を示す。多くの乳頭腺癌は濾胞成分を含む。

腫瘍は,1/3の患者ではリンパ行性に局所リンパ節へと広がり,肺に転移する場合もある。45歳未満で小さな腫瘍が甲状腺に限局する患者の予後はきわめて良好である。

治療

一葉に限局した1.5cm未満の被包性腫瘍の治療には通常は葉摘出術および峡部切除術を行うが,一部の専門家はより広範囲の甲状腺切除を勧めている;外科手術はほぼ常に治癒的である。TSH抑制量の甲状腺ホルモンを投与して,再成長の可能性を最小限に抑え,顕微鏡的な残遺乳頭腺癌腫瘍を消退させる。4cmを超える腫瘍またはびまん性に広がった腫瘍では,甲状腺の全摘または亜全摘がしばしば必要となり,患者の甲状腺機能が低下しているときには術後に十分な大量131Iを投与して放射性ヨードによる残存甲状腺組織の破壊を行う。いかなる残存甲状腺組織をも破壊するために,6〜12カ月毎に治療を繰り返すこともある。TSH抑制量のL-サイロキシンを治療後に投与し,血清サイログロブリン濃度を再発性疾患または持続性疾患の検出に役立てる。患者の約10〜20%,主に高齢者に疾患の再発または持続がみられる。

濾胞腺癌

濾胞腺癌は甲状腺癌の約10%を占める。高齢患者およびヨード欠乏地域でより一般的に認められる。乳頭腺癌よりも悪性度が高く,血行性に転移する。

治療としては,乳頭腺癌治療と同様に甲状腺亜全摘術を行ってから術後に放射性ヨードで残存甲状腺組織を破壊する必要がある。転移は,乳頭腺癌のものよりも放射性ヨード療法に対して高い反応性を示す。TSH抑制量のL-サイロキシンが治療後に投与される。血清サイログロブリンを監視して,再発性疾患や持続性疾患を検出すべきである。

髄様癌

髄様(充実性)癌は甲状腺癌の約3%を占め,カルシトニンを産生する傍濾胞細胞(C細胞)からなる。散発性(通常は一側性)の場合もあるが,しばしば家族性でret癌原遺伝子の変異が原因となる。家族型髄様癌は単独で発生する場合と,多発性内分泌腫瘍(MEN)症候群ⅡA型およびⅡB型の構成要素である場合とがある(多発内分泌腫瘍症候群: 多発内分泌腫瘍症ⅡA型および多発内分泌腫瘍症候群: 多発内分泌腫瘍症ⅡB型を参照 )。カルシトニンは血清カルシウムおよびリン酸を低下させるが,高濃度のカルシトニンは最終的にその受容体をダウンレギュレートするので,血清カルシウムは基準範囲内となる。コンゴレッドに染まる特徴的なアミロイド沈着も認める。

症状,徴候,診断

患者は典型的には無症候性の甲状腺結節を呈するが,最近は触知可能な腫瘍が生じる前にⅡA型またはⅡB型のMEN家系の定期スクリーニングで診断される場合が多い。

髄様癌は他のホルモンまたはペプチド(例,ACTH,VIP,プロスタグランジン類,カリクレイン類,セロトニン)の異所性産生を伴うときに劇的な生化学所見を呈しうる。

転移はリンパ系を介して頸部リンパ節や縦隔リンパ節,ときに肝臓,肺,および骨に広がる。

最良の検査は血清カルシトニンであり,大幅に上昇している。カルシウム負荷(15mg/kgを4時間かけて静注)はカルシトニンの過剰分泌を誘発する。X線は密で均一な塊状の石灰化像を示すことがある。

髄様癌患者は全員遺伝子検査を受けるべきであり,変異を有する患者の血縁者には遺伝子検査,ならびにカルシトニンの基礎濃度および刺激後濃度の測定を行うべきである。

治療

両葉の関与が明らかでない場合でも甲状腺全摘術が適応となる。リンパ節も切除する。副甲状腺機能亢進症がある場合は,過形成性または腺腫様の副甲状腺の切除が必要となる。褐色細胞腫が存在する場合は,通常両側性である。術中に高血圧クリーゼを誘発する危険があるので,褐色細胞腫は甲状腺摘出術の前に同定して切除すべきである。髄様癌およびMEN-ⅡA型の患者では長期生存が一般的で,2/3を上回る患者が10年目にも生存している。散発性の髄様癌の予後はより不良である。

カルシトニン濃度が上昇しているが触知可能な甲状腺異常を伴わない血縁者には,この段階であれば治癒の見込みが高いので,甲状腺摘出術を行うべきである。一部の専門家は,血清カルシトニンの基礎濃度と刺激後濃度は正常であるがret癌原遺伝子の変異を有する血縁者に外科手術を勧めている。

未分化癌

未分化癌は,甲状腺癌の約2%を占める分化していない癌である。これは主に高齢患者に生じ,女性での発生率の方が若干高い。腫瘍は急速かつ有痛性の腫大を特徴とする。特に橋本甲状腺炎の併発が認められる場合は,甲状腺の急速な腫脹は甲状腺リンパ腫も示唆する。

有効な治療はなく,未分化癌は一般に致死的となる。患者の約80%は診断から1年以内に死亡する。小さな腫瘍を有する少数の患者では,甲状腺摘出術およびこれに続く体外照射が治癒をもたらしている。化学療法は主として実験的なものである。

放射線誘発性甲状腺癌

核爆弾の爆発,原子炉事故,または放射線療法による偶然の甲状腺照射などで生じるような高線量の環境放射線に甲状腺が被曝した者には甲状腺癌が発生する。腫瘍は被曝の10年後に検出されることもあるが,30〜40年間はリスクが増大したままである。このような腫瘍は通常良性であるが,約7%は甲状腺乳頭腺癌である。腫瘍はしばしば多中心性またはびまん性である。

甲状腺照射を受けた患者には,甲状腺の触診,超音波検査,および甲状腺自己抗体の測定(橋本甲状腺炎を除外するため)を毎年行うべきである。甲状腺スキャンは必ずしも罹患領域を反映しない。

超音波で結節が認められた場合は,細針吸引生検を行うべきである。疑わしい病変や癌病変がない場合には,TSHを低下させる用量の甲状腺ホルモンを生涯補充して甲状腺機能および甲状腺刺激ホルモン分泌を抑制し,可能であれば甲状腺腫瘍が発生する可能性を減らすことを多くの医師が推奨する。

細針吸引生検から癌が疑われる場合には,外科手術が必要である。甲状腺の亜全摘術または全摘術が選択すべき治療法であり,癌が発見された場合には続けて(大きさ,組織学所見,および浸潤度に応じて)放射性ヨードで残存甲状腺組織を破壊する。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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